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特別の終わりと日常と
何故か気になってしまった
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▼車内には静かなBGMが流れていた。落ち着いたピアノの旋律に、時折混じる街の雑踏。
窓越しに流れる景色を追いながら、浅見は助手席に身を預ける。仕事のことも、昨夜の余韻も、全部まとめて夢みたいに思えて──気づけば隣の運転席の横顔を見つめていた。
ハンドルを握る城崎は、特に表情を変えるでもなく前を向いている。けれど、横顔のラインが妙に鮮明で、浅見の胸を落ち着かなくさせた。
「(かっこいいなぁ…)」
チラリと彼の瞳がこちらに動くのが見えて、慌てて視線を窓に戻す。街路樹が陽に揺れて、すれ違う車の列が音もなく後ろに流れていく。
そうして、ようやく現実感を取り戻した瞬間、ハッとしたように声が出た。
「あの……すみません、一度自宅に戻ってもいいですか?仕事用の鞄に替えておきたくて…」
「ん? いいけど」
短い返事。その声音は相変わらず淡々としているのに、不思議と安心する。
「ありがとうございます」
「礼なんていらねぇよ」
少しほっとしたように頭を下げる浅見。その仕草に、城崎の口元が僅かに緩んだ。
▼やがて、マンション前の駐車スペースに車を停める。
「じゃ、ちょっと待っててくださいね」
そう言ってシートベルトを外し、鞄を抱えて小走りにエントランスへ向かう浅見。振り返った時、慌てている彼女の背中姿に少し可愛らしさを感じ、頬が緩んだ
車内に残された城崎は、片手でハンドルを軽く叩きながら深く息を吐く。
「……ふぅ」
視線の先にあるのは、ごく普通の中規模マンション。古さは感じないが派手さもなく、落ち着いた色合いの外壁が朝の日差しを浴びている。
「(……ここに住んでんのか、浅見さん)」
今まで一度も踏み入れたことのない“彼女の日常”。
目の前にありながら、自分だけがまだ知らない場所。
その事実に、妙な緊張がじわじわと込み上げてくる。
反射的に助手席へと目をやる。さっきまで隣にいた浅見の姿はなく、そこにあるのは置き去りにされた小さなシャンプーの匂いと、彼女の体温が残っている気配だけ。
「(……落ち着かねぇな)」
腕を組み、窓越しにマンションを見上げる。
この中の一室が浅見の生活の拠点。
仕事も、疲れて帰る夜も、休日の朝も──彼女が息づいている場所。
気づけば、胸の奥がざわつくように高鳴っていた。
窓越しに流れる景色を追いながら、浅見は助手席に身を預ける。仕事のことも、昨夜の余韻も、全部まとめて夢みたいに思えて──気づけば隣の運転席の横顔を見つめていた。
ハンドルを握る城崎は、特に表情を変えるでもなく前を向いている。けれど、横顔のラインが妙に鮮明で、浅見の胸を落ち着かなくさせた。
「(かっこいいなぁ…)」
チラリと彼の瞳がこちらに動くのが見えて、慌てて視線を窓に戻す。街路樹が陽に揺れて、すれ違う車の列が音もなく後ろに流れていく。
そうして、ようやく現実感を取り戻した瞬間、ハッとしたように声が出た。
「あの……すみません、一度自宅に戻ってもいいですか?仕事用の鞄に替えておきたくて…」
「ん? いいけど」
短い返事。その声音は相変わらず淡々としているのに、不思議と安心する。
「ありがとうございます」
「礼なんていらねぇよ」
少しほっとしたように頭を下げる浅見。その仕草に、城崎の口元が僅かに緩んだ。
▼やがて、マンション前の駐車スペースに車を停める。
「じゃ、ちょっと待っててくださいね」
そう言ってシートベルトを外し、鞄を抱えて小走りにエントランスへ向かう浅見。振り返った時、慌てている彼女の背中姿に少し可愛らしさを感じ、頬が緩んだ
車内に残された城崎は、片手でハンドルを軽く叩きながら深く息を吐く。
「……ふぅ」
視線の先にあるのは、ごく普通の中規模マンション。古さは感じないが派手さもなく、落ち着いた色合いの外壁が朝の日差しを浴びている。
「(……ここに住んでんのか、浅見さん)」
今まで一度も踏み入れたことのない“彼女の日常”。
目の前にありながら、自分だけがまだ知らない場所。
その事実に、妙な緊張がじわじわと込み上げてくる。
反射的に助手席へと目をやる。さっきまで隣にいた浅見の姿はなく、そこにあるのは置き去りにされた小さなシャンプーの匂いと、彼女の体温が残っている気配だけ。
「(……落ち着かねぇな)」
腕を組み、窓越しにマンションを見上げる。
この中の一室が浅見の生活の拠点。
仕事も、疲れて帰る夜も、休日の朝も──彼女が息づいている場所。
気づけば、胸の奥がざわつくように高鳴っていた。
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