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2:嫉妬しました(真央視点)
しおりを挟む俺の名前は鈴木真央。
今現在同じクラスの牧原聡と付き合っている男子高校生だ。恋人の牧原聡も俺と同じ男子高校生だが、好きになるのに性別は関係ないというのが俺の持論。寧ろきっと俺は聡しか好きになれないと思う。
それに本人は自分の事を平凡な顔だと思っているようだが、十分整っている部類に入ると思う。
惚れた欲目かもしれないが、女子達が聡のことを顔がかっこいいだとか可愛いだとか言っていたので間違い無いだろう。ただ中性的な顔立ちであることや他人からはっきりと綺麗だとかかっこいいだとか言われていないことから、本人からすれば平凡だと思ってしまう原因なのかもしれない。
そんな恋人の聡だが、実際のところかなりモテる。それは男女問わず、本人は気づいていない様子だったが実はかなりの人気者だった。本来であれば人気のある恋人を持てて嬉しい、そんな人に選ばれたなんて幸せと思うのだろうが今の俺の胸中はそんな穏やかではない。
「聡くん、ここがわからないんだけど……」
「……ああ、ここはこうして……」
「牧原くんこっちもお願い!」
「ん」
今は前期末の定期考査前ということもあり、聡に質問をするクラスメイト達の声が教室中に飛び交っている。二百人以上いる学年の中でも必ず上位十名の中には入る程の成績で性格も良く、その上教え方が上手いとあってかその人気は誰よりもあった。
斯く言う俺も教えてもらう側の一人である。成績良し、性格良し、顔良しの三拍子が整っているのでこうして人気が出ることも仕方のないことだとわかってはいる。わかってはいるのだが、面白くないと思うのもまた仕方ないことなのではないだろうか。
「まっきー!」
「?……うわっ?!」
世の男性が聞けばとても可愛らしいと思うような声音で聡を呼ぶ女子の声に反射的に顔を上げる。続いて聞こえてきた愛しい恋人の驚いた声に思わず立ち上がりそうなるが、ある人物と目が合ったことで俺は苦虫を噛み潰したような顔で座り直すことしかできなかった。
その女子の名前は市原弥生。
クラスメイトであり、俺の恋敵の一人である。市原は小柄でいかにも守ってあげたくなるような可愛らしい見た目をしており、男子からの人気は高い。しかしその所為で女子からは煙たがられているらしい。他人の彼氏をとったとらないの噂をよく聞くが、正直どの話もどのくらい信憑性があるかは全くわからない。
今わかっているのは市原が聡に好意を寄せていると言うことだけだ。
市原は胸についたその巨大な脂肪の塊をこれ見よがしに聡の腕に当てながら、俺の方に視線を向けてにやりと挑戦的な笑みを浮かべている。
因みに『まっきー』とは、市原が付けた市原だけが呼ぶ聡の愛称らしい。これは市原本人から直接聞いたので本当なのだろう。
「い、市原……あの……」
「うん?どうしたの、まっきー?」
内心「聡から離れろ、この見せかけロリ巨乳め」などと悪態を吐く俺に気付いているのか否かわからないが、市原は俺の方にちらりと挑戦的な視線を向けた後、上目遣いで聡を見た。聡も聡でこういう状況に慣れていないのか、可哀想になるくらいに顔を真っ赤にして口をぱくぱくと開閉している。
そういう女の子慣れしていないところも可愛いなと思いながらも、聡を助ける為に俺は席を立った。
「ちょ、ちょっと市原っ……あた、むね、あたって……」
可哀想な程狼狽え、顔を真っ赤にしながら涙目になっている聡の表情に下半身が反応する。出来るならすぐにでも襲ってしまいたくなるくらい、今の聡の表情は唆るものがあった。
学校だとか教室だとかみんながいるだとか、そんなことを気にせずに聡の唇を今すぐにでも奪ってやりたいと思う俺は、やっぱり独占欲が強いのかもしれない。しかしそんな状況を聡が望んでいないことも知っているので、ぐっと押し留めて聡を救うべく立ち上がった。
「市原、聡から離れてやれ」
「ま、真央……?」
まるで猫のように聡から市原を離すと、戸惑いながらも何処かほっとした様子の聡と目が合った。女子への耐性がほとんどない聡は、こうして女子からの過剰なスキンシップはあまり得意ではないのだろう。大丈夫かと視線だけで問うと、遠慮がちに小さくこくりと頷いていた。
「ちょ、何すんのよ!……もう、男の嫉妬は醜いわよ?ねえ?まっきー」
「あ、いや……えっと」
キーキーと喚き散らす市原を聡から遠ざけるように、わざと間に挟まった状態で聡とは反対側に市原を下ろして手を離す。男の嫉妬は醜いらしいが、それでも自分の恋人を盗られたら男だって嫉妬くらいするだろう。
そんな負け惜しみも甚だしい市原の言葉に、途端にわたわたと慌て出した聡に深々とした溜息をついてしまった。
今の聡の頭の中は手に取るようにわかっているつもりだ。恐らく俺達の関係がバレるんじゃ無いかと冷や冷やしている事だろう。
しかし俺は正直そんなことはどうでもよかった。寧ろこれが俺の可愛い恋人ですと言いふらしたいくらいには聡のことが好きだと言う自信があるが、それをしないのはやはり聡が望んでいないからだ。
実際俺から聡を奪おうとしたこの性悪ロリ巨乳を今日こそ許す気はないのだが、聡が不安そうにこちらを見ているので今日のところは勘弁してやろうと思う。
「市原、聡が好きなら聡が困るようなことをするな。……聡も聡だ。毎回動揺していたら身がもたないぞ」
――でも、そういうところも本当に可愛いな。
聡にしか聞こえない音量でそっと耳元でそう囁けば、聡はバッと反射的に耳を抑え、茹蛸のように真っ赤な顔になりながら涙目で睨んでくる。そんな反応すらも可愛くて思わず緩んだ表情で聡を見やると、彼は赤くなった顔を隠すように俯いてしまった。そして俺にだけ聞こえるように小さく「馬鹿」と呟いてそっぽを向く。
「確かに、あんたの言うとおりかもしれないわ……まっきー、ごめんね。今度からもう少し控えめに行くように努力するわ」
そこは「もう迷惑かけないから、ごめんなさい」と言って欲しかったところだが、譲歩しただけまだましかもしれない。市原も根っからの悪ではないのだと思っていた矢先、低い位置から小さく聞こえた舌打ちに、俺の額にぴきりと青筋が浮かぶのがわかった。舌打ちの主は言わずもがな市原弥生だ。自分の席に戻ろうと俺の横を通り過ぎる瞬間に、俺以外には聞こえないように計算しながら舌打ちしたようだ。
そんな市原の小さな背中を苦々しげに見送った後に聡の方を向けば、彼はもう既に自分の席に座って教科書とノートを鞄から取り出しているところだった。聡の前の席である自分の席に座ると同時に、ふうと息が漏れる。未だ嫉妬に荒れ狂う胸中を鎮めるように、制服のスラックスのポケットから携帯電話を取り出すと、すぐに一件のメッセージが届いた。
『さっきはありがとう。でもあんまり女子に乱暴するなよ?あと俺たちのことバレても良いとか思ってただろ』
聡からだった。お礼を言うなんて我が恋人ながら真面目というか律儀というか。俺のクラスでの立場を心配して注意してくれる俺の恋人のなんと可愛い事だろう。
『ごめんごめん、心配してくれてありがとうな。大好きだぜ』
『心配なんかしなけりゃよかった』
『ごめんて。今度何か奢るから許して』
後ろを振り向けば、ぷくうと頬を僅かに膨らませた可愛い顔があってついくすくすと笑ってしまい、余計に拗ねさせてしまったようでふいっと顔を逸らされてしまった。慌てて謝罪と贖罪を願い出ると、目の前の彼の指がタタタッと動いていく。カタン、という机に携帯電話を置いた音とピロンとメッセージ受信の電子音がほぼ同時に鳴った。
『ばーか ゆるしてやるか おぼえてろよ』
全てひらがなで書かれた文字達に、思わず笑みが溢れる。俯いているので、本人がどんな顔をしているかは知らないが真っ赤に染まる耳を見れば大体想像がついた。
なんで全部ひらがなで送ってきたんだよ、可愛すぎるだろ、そんな茶目っ気のある聡も好きだ、誰にも渡したくないくらい大好きだ――と言いたいことは沢山あるが、声を大きくして言いたいのは、俺をこんなにも嫉妬深くしたのは聡、お前なんだということだ。
聡はよく、俺の顔が綺麗だから他の子を選んでしまわないか心配だとか嫉妬してしまうだとか言うが、飄々としていると言われる俺だって嫉妬する時はする。聡のことを想い過ぎて、今日みたいにちょっとしたことでさえも苛ついたりすることはザラにあるのだ。俺を聖人君主か何かと勘違いしているんじゃないだろうか。
――俺だって人間、俺だって男なんだから嫉妬くらいするんだからな。覚えとけよ、聡。
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