16 / 45
ゆびわ
2
しおりを挟む
カタカタカタカタ…。
小さなオフィスにキーボードの叩く音が響き渡る。今日は吉川さん以外の全員が集まっていた。吉川さんは3月末で寿退社をする。今日は有休を取っていていない。課長は先ほど電話で呼び出されてどこかに行っていた。
「…小野寺…」
「ん?」
さっきから左の席に座る生田がこちらをチラチラ見ていた。
「小野寺、ちょっと一緒にコーヒーでも入れようぜ。」
いきなり数値を入力している手を止めた生田が俺を誘った。なんだ…コーヒーが飲みたかったの?
給湯室に行って、コーヒーメーカーにコーヒーと水を入れ、スイッチを入れると生田が急に振り返って言った。
「お前、付き合っている奴いるだろ?」
「えっ?い、い、いないよ。」
急な事で対処出来なかった。ジワジワと顔が熱くなる。そんな俺を眺めながら、生田が俺の左後ろの首筋を指差して言った。
「付いてるぜ。愛されたシルシ。」
俺は咄嗟に首筋を押さえて、ニヤニヤ笑う生田の顔を見た。今朝起きた時に洸一の唇が当たっていた所だ…顔が熱い…。顔を洗った時、鏡では見えなかった…。
「エッチの時に付けられたとしたら…女じゃないな…。」
貼ってやるよ、と絆創膏をポケットから取り出して生田が笑った。
まだ顔が赤いような気がする…。生田はまだニヤニヤしながらコーヒーメーカーの後始末をしていた。4人分のコーヒーをお盆に乗せて給湯室を出たところに課長が帰ってきた。
「小野寺君、ちょっといい?」
お盆を生田の机に置いて、課長の後に続き廊下に出る。
「所長が呼んでる。行ってきなさい。」
「所長?」
巌城さんが…何で…?最後の配達任務の事について洸一と一緒に説明を受けて以来、1か月以上巌城さんに会っていなかった。今更、消印の事を言われるんじゃないだろうな?
「小野寺です。失礼します。」
かつて訪れたことのある地下の所長室に足を踏み入れる。一礼して顔をあげると、巌城さんの他には誰もいなくて、その巌城さんが応接セットのソファから立ち上がるところだった。
「小野寺君、さ、入って入って。」
にこにこ笑って手招きする巌城さんにホッとする。消印のことではなさそうだ。
「何か…?」
一礼して巌城さんの前に腰を下ろしながら問いかける。同じく座った巌城さんはどこかソワソワしていて落ち着きがない。
「いやね、小野寺君、来週の土曜日に有休届出しただろ?」
「はい…。」
4月3日。俺がこのショッピングモールから出れるようになった最初の土曜日に神奈川県の実家まで行くことにしていた。もちろん洸一も一緒に。前日から、ちょっとした旅行も兼ねて洸一と出かけ、俺は両親に洸一を紹介しようと思っていた。
「洸一もさ、その前日の金曜日に休みを取ったんだ。それで、閃いたってわけ…」
何が閃いたのか聞きそびれてしまった。
「おっ、所長!!」
大声で慌てて入ってきた洸一の姿に気を取られて…。
小さなオフィスにキーボードの叩く音が響き渡る。今日は吉川さん以外の全員が集まっていた。吉川さんは3月末で寿退社をする。今日は有休を取っていていない。課長は先ほど電話で呼び出されてどこかに行っていた。
「…小野寺…」
「ん?」
さっきから左の席に座る生田がこちらをチラチラ見ていた。
「小野寺、ちょっと一緒にコーヒーでも入れようぜ。」
いきなり数値を入力している手を止めた生田が俺を誘った。なんだ…コーヒーが飲みたかったの?
給湯室に行って、コーヒーメーカーにコーヒーと水を入れ、スイッチを入れると生田が急に振り返って言った。
「お前、付き合っている奴いるだろ?」
「えっ?い、い、いないよ。」
急な事で対処出来なかった。ジワジワと顔が熱くなる。そんな俺を眺めながら、生田が俺の左後ろの首筋を指差して言った。
「付いてるぜ。愛されたシルシ。」
俺は咄嗟に首筋を押さえて、ニヤニヤ笑う生田の顔を見た。今朝起きた時に洸一の唇が当たっていた所だ…顔が熱い…。顔を洗った時、鏡では見えなかった…。
「エッチの時に付けられたとしたら…女じゃないな…。」
貼ってやるよ、と絆創膏をポケットから取り出して生田が笑った。
まだ顔が赤いような気がする…。生田はまだニヤニヤしながらコーヒーメーカーの後始末をしていた。4人分のコーヒーをお盆に乗せて給湯室を出たところに課長が帰ってきた。
「小野寺君、ちょっといい?」
お盆を生田の机に置いて、課長の後に続き廊下に出る。
「所長が呼んでる。行ってきなさい。」
「所長?」
巌城さんが…何で…?最後の配達任務の事について洸一と一緒に説明を受けて以来、1か月以上巌城さんに会っていなかった。今更、消印の事を言われるんじゃないだろうな?
「小野寺です。失礼します。」
かつて訪れたことのある地下の所長室に足を踏み入れる。一礼して顔をあげると、巌城さんの他には誰もいなくて、その巌城さんが応接セットのソファから立ち上がるところだった。
「小野寺君、さ、入って入って。」
にこにこ笑って手招きする巌城さんにホッとする。消印のことではなさそうだ。
「何か…?」
一礼して巌城さんの前に腰を下ろしながら問いかける。同じく座った巌城さんはどこかソワソワしていて落ち着きがない。
「いやね、小野寺君、来週の土曜日に有休届出しただろ?」
「はい…。」
4月3日。俺がこのショッピングモールから出れるようになった最初の土曜日に神奈川県の実家まで行くことにしていた。もちろん洸一も一緒に。前日から、ちょっとした旅行も兼ねて洸一と出かけ、俺は両親に洸一を紹介しようと思っていた。
「洸一もさ、その前日の金曜日に休みを取ったんだ。それで、閃いたってわけ…」
何が閃いたのか聞きそびれてしまった。
「おっ、所長!!」
大声で慌てて入ってきた洸一の姿に気を取られて…。
0
あなたにおすすめの小説
【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。
キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、
ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。
国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚――
だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。
顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。
過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、
気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。
「それでも俺は、あなたがいいんです」
だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。
切なさとすれ違い、
それでも惹かれ合う二人の、
優しくて不器用な恋の物語。
全8話。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
俺の婚約者は小さな王子さま?!
大和 柊霞
BL
「私の婚約者になってくれますか?」
そう言い放ったのはこの国の王子さま?!
パミュロン王国で次期国王候補の第1王子アルミスから婚約を求められたのは、公爵家三男のカイルア。公爵家でありながら、長男のように頭脳明晰でもなければ次男のように多才でもないカイルアは自由気ままに生きてかれこれ22年。
今の暮らしは性に合っているし、何不自由ない!人生は穏やかに過ごすべきだ!と思っていたのに、まさか10歳の王子に婚約を申し込まれてしまったのだ。
「年の差12歳なんてありえない!」
初めはそんな事を考えていたカイルアだったがアルミス王子と過ごすうちに少しづつ考えが変わっていき……。
※不定期更新です
【完結】男の後輩に告白されたオレと、様子のおかしくなった幼なじみの話
須宮りんこ
BL
【あらすじ】
高校三年生の椿叶太には女子からモテまくりの幼なじみ・五十嵐青がいる。
二人は顔を合わせば絡む仲ではあるものの、叶太にとって青は生意気な幼なじみでしかない。
そんなある日、叶太は北村という一つ下の後輩・北村から告白される。
青いわく友達目線で見ても北村はいい奴らしい。しかも青とは違い、素直で礼儀正しい北村に叶太は好感を持つ。北村の希望もあって、まずは普通の先輩後輩として付き合いをはじめることに。
けれど叶太が北村に告白されたことを知った青の様子が、その日からおかしくなって――?
※本編完結済み。後日談連載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる