未来も過去も

もこ

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「過去の部屋」

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荷物を抱えて、居住スペースと店のバックヤードを仕切る扉を抜ける。手紋で開けられるのはこんな時に便利。組み立て式の荷物は全部木でできているからか意外と重い。抱えられる大きさだが、いろんな荷物や段ボールがあちこちに置いてあるバックヤードを通るには神経を使う。

半分ほど歩いたところで、腕が悲鳴を上げて荷物を下ろした。スマホを見ると、まだ7時半。早く出勤する人でもようやくやってくるぐらいの時間だ。

「小野寺さん!」
後ろから聞こえた声に顔を上げて振り向いた。あの制服は遠くからでも分かる。夜間警備員の田所さんだ。

「おはようございます。」
俺は笑顔を作って挨拶をした。朝早く出勤する時は高確率で遭遇する。二十代後半にしてベテランの彼とは、一言二言挨拶をするうちに親しく話すようになった。短髪で背が高く、趣味で格闘技をしているという体は、羨ましいぐらいの筋肉に覆われている。しかし野暮ったくはなく、なかなか爽やかな笑顔を持つ。

「早いですね。出勤ですか?」
田所さんは、そう聞きながら首を傾げて俺を上から下まで眺めた。そりゃそうだ。ジーンズにタートルネックの綿シャツ、ジャケットを羽織った姿だ。スーツ以外の格好で会うのは初めてだった。

「いや、今日は休みです。ちょっと用事があって。田所さんはもうそろそろ上がりですか?」
適当にごまかして話を逸らした。
「ええ。最後の巡回です。この後引き継ぎをして終了です。」

「夜通しの仕事は大変ですね。頑張って下さい。」
話を切り上げて去ろうと、荷物に手をかけた。…と、その上から田所さんの手が重なった。

「小野寺さん、彼女います?」
おや、何だか声がいつもと違うぞ。…何だ?
「いえ、一年近く前に別れて。それっきりです。」
無理やり笑顔を作って田所さんへ向ける。美咲の顔がちょっとだけ脳裏をかすめた。別れてから連絡取ってないな。

「恋人、います?」
田所さんの顔がちょっぴり怖い。何でそんなに真剣な顔してるの?
『だからー、いないって言ってんじゃん!』
という言葉を投げつけるほど親しいわけではないので、慎重に言葉を選んだ。
「ははは。付き合ってる子はいませんよ。」
笑って見せた、ちょっぴり虚しい。田所さんはモテそうだ。

田所さんの雰囲気がふと柔らかくなった。
「荷物重そうですね。運びますよ。」
重力を感じさせないほど軽々と荷物を抱え、あっという間に肩の上に乗せた。
「あ、大丈夫です!」
慌てて受け取ろうと手を伸ばす。
「いや、エレベーターまで。」
「でも…!」
田所さんは、俺の言葉を聞かずにさっさと歩き出してしまった。
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