未来も過去も

もこ

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未来も過去も

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「失礼します。経理部の小野寺です。」
一礼して顔を上げると、濃紺のスーツ姿のガタイのいい男が目の前でこちらを見ていた。細い目をことさら細くしてこちらを睨んでいるようだ。どこかで見たような気がする。柔道か何かで有名な人?…この人が所長?

「いらっしゃい。ほら、佐久間君どけて。」
後ろから聞こえた声で、佐久間という男は横に退けると一礼して部屋を出て行った。窓際にある大きな机に座ってにこにこ笑っている人物…。…それは巌城さんだった。

「巌城さん!」
俺はその場から動けなかった。…巌城さんが所長!?俺は毎回所長に配達に行ってたわけ??

「ははは。その顔はやっぱり分かってなかったね?」
「どうして…?」
巌城さんの言葉で俺も言葉を発することができた。

「だって、小野寺君が来たんだよ。23年前にね!?…それは事実なんだ。けど、大変だった。もう少しで、未来が変わるとこだった。」
部屋に設置されている来客用のソファに促されながら、巌城さんの話を聞いた。

「未来が変わる…?」
「小野寺君、就職決まってただろ?どうやってここに来てもらうか、もの凄く考えたよ。」
「はぁ…。」
その結果が杉崎課長の勧誘だったわけ?…ま、給料につられてホイホイ乗っちゃったのは俺だけど…。ソファに座り、その座り心地の良さにびっくりしながら巌城さんを見た。
「巌城さんは、ここの所長になることが最初から知っていたんですか?」

「まさか!…初めはね、どうしてメガネを分解するんだろう、ってそればかりだったよ。国から給料を保証されてこちらに引っ越す事にしたあたりが1番辛かったかな。洸一も小さかったたしね。」
ウインクしながら話す巌城さんを見て、だんだん顔が熱くなってきた。そうだった…。巌城さんは知ってるんだ…。

「失礼します。」
隣の部屋から、お盆を両手に抱えた女の人が入ってきた。
「あっ!」
俺は驚いた拍子に立ち上がった。この人…!コウイチと「ミノ・カフェ」にいた人だっ!

「お久しぶりですね。」
素敵な笑顔で微笑む女性は、小柄で緩やかにカーブした髪を1つに束ね、とても若く見えた。洸一より20歳近く年上には見えない。でも、お久しぶりって?カフェでストーカーのように様子を見ていたの……バレてた?

「小野寺君、憶えてた?そう、『IWAKI』の事務所で受付をして貰ってた小池さん。今では僕の右腕だよ。」
その言葉で俺も記憶が蘇った。そうだ…。海に行った日…。お茶を出してもらった…。またソファに座り直し、マジマジと顔を見てしまった。残念な事に、あの時の小池さんの顔が思い出せない。グレーのスーツを着てたっけ…。

「ところでどうして3人分?」
巌城さんの言葉でハッとしてテーブルをみる。コーヒーが俺の隣にもう一つ置かれていた。
「先程電話がありまして、洸一さんもいらっしゃるそうです。特別に『ミノ・カフェ』から取り寄せたキリマンジャロを挽きました。」

「やれやれ、アイツにも困ったもんだ。」
そういうと、巌城さんはコーヒーカップを手に取った。



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