ある時、ある場所で

もこ

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2年前、「trois 」で(真人)

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「ねぇ、今日はもう誰も来ないよ。閉店の看板出して、俺と遊びに行こうよ。そんなカレーなんて作ってないでさあ。」
外ではもうすぐ霙に変わりそうな大粒の雨が、冷たい風に叩きつけられるように音を立てて降り続いていた。母の店も、あれから客足がさっぱり伸びず、6時を過ぎた今、自分用の夕飯にカレーを作っていた。

「すみません。いくら誘っていただいても、気持ちは変わりませんから。」
今日も何度目かの断りの文句を口にする。目の前のカウンターにいる男は、1か月ぐらい前から何度か来店し、母がいない隙を見計らっていつも口説いてきていた。男が恋愛対象ではない、と言っても諦めない。ほとほと手を焼いていた。

「そんな事ないだろ?少しは気持ち動いてるよな?」
「……」
男の自信に満ちた態度に閉口する。容姿は悪くない。スーツ姿に少し茶色に染めた短めの髪を自然な感じで流している。色黒の肌に眉も太くて実に男らしい顔立ちをしている。女にも男にもモテるだろう。でも、この口調がいただけない。好きになんてなれない。

『裕次郎さん…』

高校2年の時に突然出会い、一度だけ肌を重ねた男に思いを馳せる。『待ってて…』その言葉を信じてずっと待っていた。3年も…。でも、裕次郎さんは来ない。……俺は信じ過ぎたのかもしれない。

普段は母さんの店「trois」では、カレーは作らない。香りが強くてカレー専門店のようになってしまう。でも、今日は母さんもこの商店街の女性部の新年会だと言って出かけたし、店を任されたのはいいが客もそんなに来ないしで、自由にやっていた。もう少しでカレーができるというところで、この男、龍也が現れた。

「龍也さん、何度も来ていただいてありがたいと思っています。しかし、俺の気持ちは変わりませんから。…お帰りください。お代は結構です。」
もう既に龍也に出したコーヒーは空になっている。俺はそう言い捨てると、カレーの火を止めて、出しっぱなしにしていた前の客のテーブルを片付けようと、カウンターから出た。

カタッと音がしてテーブルに向かっていた体を振り向かせる。でもその前に後ろから抱きしめられた。
「そんなこと言わないで…。」
耳元で囁かれ、首筋をペロリと舐められる。そのおぞましさに鳥肌が立った。

「や、やめっ…!」
完全に油断した。いつもそんなに粘らずに帰るから、コーヒーの一杯でも奢ればすぐに帰ると思っていた。龍也の拘束を解こうと身をよじるが、びくともしない。どうしたら…。

「!」
龍也の股間が押しつけられる。もう既に立ち上がっているのが分かる。俺の太腿に擦り付けるように上下に動かしてくる。
「やめてくださいっ!」
思いっきり体を後ろに倒し、拘束が緩んだところで身をよじる。腕の中から出ることができたと安堵した途端に、今度は前から拘束された。

「ほら…反応してきてんじゃん。男が恋愛対象じゃないなんて嘘だろ?欲しいんじゃない?…これ。」
龍也右手が俺の分身を触る。そしてまた俺のモノに合わせるように擦り付けてきた。そんなことされたら…!



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