ある時、ある場所で

もこ

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偽りない俺(悠)

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その日、仕事が終わって夜の7時には風呂から上がり、何故か半裸でワイシャツにアイロンをかけていた。今夜、12時に真人のところへ行くためだ。あの後、洸一さんと2人で所長室を出て、すぐに仕事に戻った。

『俺は今日、地下で仕事だ。』
所長室を出てすぐに、洸一さんも同じ壁に並んでいる1つの部屋に入って行った。洸一さんの仕事の場所は「過去の部屋」じゃないの?まあいい…。俺の手紋でも反応した扉を、来た時とは逆に通り抜けて、2階の経理部に戻った。

『伊那村、おめでとう。』
経理部に戻るとすぐに、奏さんからお祝いの言葉をもらった。満面の笑顔で祝ってくれた奏さんに、洸一さんへの後ろめたさを感じながら、
『ありがとうございます。』
と言っておいた。

その後で、奏さんから聞いたんだ。去年、生田さんが夜中にここを抜け出したこと。今同棲している彼女の元に行ったんだそうだ。俺はそのことを聞いて、いても経ってもいられなくなった。明日は休みももらえたから、朝から行くつもりだった…。けど、行けるなら早い方がもちろんいい。

「はあーっ。ほんとに行けるのかね?」
仕上がったワイシャツに話しかける。もちろん答えてはくれない。とりあえず、スーツ一式をハンガーにかけて、長袖Tシャツとジーンズに着替えて夕飯を摂ることにした。

『電話しようかな…?』
スマホを前に、夕飯に買ってきたカツ丼弁当と、インスタントの味噌汁をつつきながら悩む。99%行けると思うが、もし1%でダメだったら…?下手に真人に期待を持たせて、ダメだったとは言いたくない。やっぱり、下の受付を通ってからだ。

営業時間を過ぎて、夜間の出入りの時には、警備員室に社員証を提示する必要がある。そこを抜けてからだ。何度も脳内でシミュレーションする。スマホを弄りながら、だんだんと夜が更けていった。

『よし、行くか。』
11時40分になってずっと観ていたネットを閉じると、支度を始めた。洗面所でメガネを外し、コンタクトを入れる。服を着替えて…スーツの背中が少し汚れてる…。パンパンと勢いよく叩いてから身につけた。持ち物は、スマホに財布…ハンカチぐらいでいいかな?宝物箱から大切な物を取り出してポケットに入れる。

『すぐにここに戻る羽目になりませんように…。』
部屋を見渡して忘れ物がないか確認すると、エアコンと電気を消して住居の扉を開けた。


「はい。お疲れ様でした。」
警備員室の窓口に行って社員証を渡すと、結構年のいったオジさんが機械にカードを渡して返してきた。…やった!無事通過だ!俺はその場で立ち止まり、真人にショートメールを打った。

『真人、起きてる?今から行く。10分はかからない。』

スマホをポケットに入れ、公園の入り口に向かって走り出す。真人…起きてるといいな…。今行く!



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