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本屋の仕事
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「あー、お腹すいた! なに食べる?」
しおりんがメニューを僕の方に差し出して聞いてきた。太田ビルの一階、和風レストランの一角に僕たちはいた。外食する時は大抵ここ。メニューなんか見なくても全部頭に入っている。
「天ぷらそば定食かな。いくら丼付きで。」
メニューを返しながら呟く。蕎麦やうどんを定食で頼むと、ご飯もののミニ丼が選べる。小さな小鉢もついて890円。結構お得だと思う。
「あなたの体、どこに栄養いってるの? そんなに入らないわ。私はお蕎麦だけでいいわ。」
ちょうど水を運んできた店員さんに注文する。僕たちは身長が同じくらい。164cmの僕と、163cmのしおりん。体重は……僕の方が多分多いだろう。一度聞いたらグーパンされたから、聞けないけど。そのしおりんが水を一口飲んで口を開いた。
「で? 昨夜は楽しんだの?」
「楽しむはずないだろ。『J』が臨時休業だったんだ。昨日は張り切って『J』に行ったのに、結局コンビニ弁当を買って帰る羽目になっちゃった。部屋でテレビとおしゃべりしながら、1人で夕飯食べたよ。」
結構な頻度で「J」に通っている事を知っている彼女が、声を上げて笑った。
「遊びすぎてるからでしょ? たまには休みなさいって神様が言ってるのよ。」
「遊び過ぎって……! しおりんじゃないんだからっ!」
「あら、私は遊んでないわ。」
しおりんは多分自分で言っている通り遊んでない。好きな人がいるという話は聞いたことあるけど、誰だかは教えてもらえなかった。同じ職場で言うと……清水くんか? それとも外回りが多い池谷くんか? どちらも20代後半。しおりんにはピッタリの組み合わせだ。
「僕だって!」
僕だって遊んでいない。夜、街をふらつくのは、初恋のあの人にばったり出会わないかと考えているからだ。「J」にだって、いい男を眺めに行っているだけだし。今までにそう言う関係になったのは……1人しかいないし……。
『基本、あそこには若い人しか行かないんだ。あの人は……たぶん、どんなに若く見積もっても30代。もしかしたら40になっているかもしれない。』
10歳の頃、公園で一度会っただけのその人の事はあまり覚えていない。左目の下のホクロと多分右手だと思う星形のあざ。名前も聞いたけど、「ゆうじろう」だか「ゆうたろう」だか……「ゆう」がついた長い名前だったことしか記憶にないんだ。
けど、あの大きな手。優しそうな眼差し。どこかで会ったら、雰囲気で本人を見分ける自信がある。もう、結婚をしているだろう……。僕が相手になるはずがない事は百も承知だ。……けど、一度でいいから会ってみたい。「あの時はありがとうございました。」って言って、「あの時のチビがこんなに大きくなったのか!」なんて言葉を交わせれば……それで充分だ。
「ま、今夜も行ってみるよ。……いい男がいたら紹介する? 多分ゲイだけど。」
「バカっ!」
お手拭きを投げつけようとしながら、しおりんが笑う。僕がゲイだと知っても、全然態度が変わらない……。もう5年近く身近にいる僕の理解者。しおりんには感謝しかない。
「お待たせいたしました。天ぷら蕎麦、定食でご注文のお客様は?」
「ああ、僕。」
ちょうど運ばれてきた蕎麦を手元に引き寄せ、それから僕たちは、たわいもない話をしながら束の間の昼休憩を楽しんだ。
しおりんがメニューを僕の方に差し出して聞いてきた。太田ビルの一階、和風レストランの一角に僕たちはいた。外食する時は大抵ここ。メニューなんか見なくても全部頭に入っている。
「天ぷらそば定食かな。いくら丼付きで。」
メニューを返しながら呟く。蕎麦やうどんを定食で頼むと、ご飯もののミニ丼が選べる。小さな小鉢もついて890円。結構お得だと思う。
「あなたの体、どこに栄養いってるの? そんなに入らないわ。私はお蕎麦だけでいいわ。」
ちょうど水を運んできた店員さんに注文する。僕たちは身長が同じくらい。164cmの僕と、163cmのしおりん。体重は……僕の方が多分多いだろう。一度聞いたらグーパンされたから、聞けないけど。そのしおりんが水を一口飲んで口を開いた。
「で? 昨夜は楽しんだの?」
「楽しむはずないだろ。『J』が臨時休業だったんだ。昨日は張り切って『J』に行ったのに、結局コンビニ弁当を買って帰る羽目になっちゃった。部屋でテレビとおしゃべりしながら、1人で夕飯食べたよ。」
結構な頻度で「J」に通っている事を知っている彼女が、声を上げて笑った。
「遊びすぎてるからでしょ? たまには休みなさいって神様が言ってるのよ。」
「遊び過ぎって……! しおりんじゃないんだからっ!」
「あら、私は遊んでないわ。」
しおりんは多分自分で言っている通り遊んでない。好きな人がいるという話は聞いたことあるけど、誰だかは教えてもらえなかった。同じ職場で言うと……清水くんか? それとも外回りが多い池谷くんか? どちらも20代後半。しおりんにはピッタリの組み合わせだ。
「僕だって!」
僕だって遊んでいない。夜、街をふらつくのは、初恋のあの人にばったり出会わないかと考えているからだ。「J」にだって、いい男を眺めに行っているだけだし。今までにそう言う関係になったのは……1人しかいないし……。
『基本、あそこには若い人しか行かないんだ。あの人は……たぶん、どんなに若く見積もっても30代。もしかしたら40になっているかもしれない。』
10歳の頃、公園で一度会っただけのその人の事はあまり覚えていない。左目の下のホクロと多分右手だと思う星形のあざ。名前も聞いたけど、「ゆうじろう」だか「ゆうたろう」だか……「ゆう」がついた長い名前だったことしか記憶にないんだ。
けど、あの大きな手。優しそうな眼差し。どこかで会ったら、雰囲気で本人を見分ける自信がある。もう、結婚をしているだろう……。僕が相手になるはずがない事は百も承知だ。……けど、一度でいいから会ってみたい。「あの時はありがとうございました。」って言って、「あの時のチビがこんなに大きくなったのか!」なんて言葉を交わせれば……それで充分だ。
「ま、今夜も行ってみるよ。……いい男がいたら紹介する? 多分ゲイだけど。」
「バカっ!」
お手拭きを投げつけようとしながら、しおりんが笑う。僕がゲイだと知っても、全然態度が変わらない……。もう5年近く身近にいる僕の理解者。しおりんには感謝しかない。
「お待たせいたしました。天ぷら蕎麦、定食でご注文のお客様は?」
「ああ、僕。」
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