無添加ラブ

もこ

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「清水さん、先に上がります。お先に失礼します。」
「ああ、お疲れ。」
定時に仕事から上がり、速攻で家に帰る。本屋から歩いて20分。中古の賃貸だけれど、ここが僕の城。リビングダイニングの他にふた部屋ついてて値段が安い。築10年も経っていればこんなものかな? 高校卒業後すぐはもっと遠くのアパートを借りていたけど、去年、いい物件をしおりんが見つけてくれて引っ越した。

シャワーを浴びて準備した後、バスローブのまま寝室に入って、クローゼットからスーツを取り出す。寝室にはまだ誰も入れたことがない。っていうか、ここに引っ越してきてから、遊びに来てくれたのはしおりんだけ。夜の街で顔見知りになった人たちはみんな僕を遊び人だと思っている。結構誘われることも多いけど……。ここまで連れてきたいと思った人は1人もいなかった。

『なかなかいい人がいないんだよな。』
誘われたからって誰でもいいわけじゃない。いつも真っ先に左目の下にほくろを探す。そして体……。

『背が高かったもんな。』
10歳の頃はチビだったから、思ってたより背が低いのは想定済みだ。けど、あの大きな手……。やっぱり、背が高い男に惹かれる。

今までにそういう仲になったのは2人。高校の時の先輩と、街で見かけたガタイのいい男。高校の先輩には、結構本気になったけど、先輩の卒業と同時に音信不通。……結局先輩は遊びだったんだ。街で声をかけてきた男は一夜限り。長い髪をポニーテールにして、結構気取った奴だった。ノリでそういう関係になったけど……悪いけどもう一度とは考えられなかった。

このスーツは僕のお気に入り。光沢のあるグレーの布地が夜の街に合う。スーツとワイシャツ、ネクタイを準備する。……ネクタイは紺色かな? このマンションは広いし、綺麗だから全然不自由しない。寝室の壁に取り付けた鏡を見ながら髪の毛を整えて、整髪料で固める。同僚に見かけられても分からないように。大きな目で鏡の中の自分が睨んでくる。

「そんなに睨むなって。……今日はカッコいい人いるかな?」
昨日は2日ぶりに足を運んだ「J」が休みでガッカリだった。休みにする時は前もって知らせてくれるのに、昨日はマスターに何かあったのかな? 今日は開いているといいな。マスターがツマミで出してくれる手作りのローストビーフが食べたい。

「でも、その前に腹ごしらえだな。」
そんなに早く行っても誰も来ていない可能性もある。時間を潰してから行った方がいいかもしれない。せめて8時は過ぎた方がいいかな?

僕は、着替えの前に何か食べようと、寝室を出てキッチンへ向かった。



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