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駅前まで戻って「J」に向かう。ここから僕の働く本屋とは反対方向に歩いたところにそれはある。大通りを歩くより、細い路地を抜けて行った方が近い。僕は迷わず細い路地に入って行った。
ヒュー
『何だかタバコ臭い。』
この辺りに喫煙所あったかな? と思った瞬間に、どこからか口笛が飛んできた。反射的に音がした方を見ると、こちらに早足で歩いてくる男がいた。
「ね、どこで働いているの? それ、男装?」
勝手に僕の肩を引き寄せて一緒に歩きながら話しかけてくる。……男装って……。それにタバコ臭い。こいつ、喫煙所でもないところで吸っていたんだ。
「僕、男だけど?」
「またまたあ。……本当? ま、いいや。どう? 一緒に行かない?」
俺が男だと聞いてびっくりしたようだったけど、すぐさま復活して迫ってきた。
「ごめんね。僕、約束あるから。」
断る時は笑顔で穏やかに……。今までの経験から学んだ知識。……どうだろう?
「……んんん、残念! バッチリ俺の好みだったんだけどな。じゃあ、またね。俺、いつもこの辺りフラついているからさ。」
あっけなく肩を離された。僕が女の子だと思ったんだろう……多分、今の奴はヘテロ……。
『この髪型でも女に間違われるって……。』
男が消えて行った路地を眺めながら、改めて髪を撫でつける。昼間の髪型なら分からなくもない。でも、スーツを着て髪をオールバック風に撫でつけて……。それでも女の子って……。
「はあ……行くか。」
ため息を一つ吐いてまた歩き出す。僕たちゲイには出会いなんて少ない。僕も女装した方がモテるんじゃないか、なんて考えた事もあるけど、女の子になりたいわけじゃない。
『このままの僕を見てくれる人……。僕を好きになってくれる人がいたらいいのに……。』
そんな事を考えながら歩いているうちに、いつの間にか「J」の前に辿り着いていた。
『おっ! やってる。』
ダークブラウンの重厚な扉に刻まれた「J」の文字が、鈍い照明を受けて浮かび上がっている。前に「もっと明るくしたら?」ってマスターに言ったら、「ひっそりとやっていきたいんだ。」って言ってた。ま、口伝えで広がった方が僕もありがたい。ここに集結するのは、大抵がゲイだ。僕と同じ……僕が僕でいられる……。
思いきり力を込めて扉を引くと、チリンと微かな鈴の音が鳴った。
「いらっしゃいませ。」
マスターの穏やかな声が聞こえる。そうそう、こうでなくっちゃ。いつものカウンターに行こうとマスターの声の方を見ると、いつもの僕の席に体の大きな男が座っていた。
「おや? ……いい男。」
隣に行って腰を下ろす。ウイスキーの入ったコップを片手で口に持っていった男は、短い髪を立たせた男らしい顔立ちをしていた。切れ長の目……。羨ましい、僕もこんな顔になれたらいいのに。でもその目は虚ろで、どこか物思いに耽っているようだった。
ヒュー
『何だかタバコ臭い。』
この辺りに喫煙所あったかな? と思った瞬間に、どこからか口笛が飛んできた。反射的に音がした方を見ると、こちらに早足で歩いてくる男がいた。
「ね、どこで働いているの? それ、男装?」
勝手に僕の肩を引き寄せて一緒に歩きながら話しかけてくる。……男装って……。それにタバコ臭い。こいつ、喫煙所でもないところで吸っていたんだ。
「僕、男だけど?」
「またまたあ。……本当? ま、いいや。どう? 一緒に行かない?」
俺が男だと聞いてびっくりしたようだったけど、すぐさま復活して迫ってきた。
「ごめんね。僕、約束あるから。」
断る時は笑顔で穏やかに……。今までの経験から学んだ知識。……どうだろう?
「……んんん、残念! バッチリ俺の好みだったんだけどな。じゃあ、またね。俺、いつもこの辺りフラついているからさ。」
あっけなく肩を離された。僕が女の子だと思ったんだろう……多分、今の奴はヘテロ……。
『この髪型でも女に間違われるって……。』
男が消えて行った路地を眺めながら、改めて髪を撫でつける。昼間の髪型なら分からなくもない。でも、スーツを着て髪をオールバック風に撫でつけて……。それでも女の子って……。
「はあ……行くか。」
ため息を一つ吐いてまた歩き出す。僕たちゲイには出会いなんて少ない。僕も女装した方がモテるんじゃないか、なんて考えた事もあるけど、女の子になりたいわけじゃない。
『このままの僕を見てくれる人……。僕を好きになってくれる人がいたらいいのに……。』
そんな事を考えながら歩いているうちに、いつの間にか「J」の前に辿り着いていた。
『おっ! やってる。』
ダークブラウンの重厚な扉に刻まれた「J」の文字が、鈍い照明を受けて浮かび上がっている。前に「もっと明るくしたら?」ってマスターに言ったら、「ひっそりとやっていきたいんだ。」って言ってた。ま、口伝えで広がった方が僕もありがたい。ここに集結するのは、大抵がゲイだ。僕と同じ……僕が僕でいられる……。
思いきり力を込めて扉を引くと、チリンと微かな鈴の音が鳴った。
「いらっしゃいませ。」
マスターの穏やかな声が聞こえる。そうそう、こうでなくっちゃ。いつものカウンターに行こうとマスターの声の方を見ると、いつもの僕の席に体の大きな男が座っていた。
「おや? ……いい男。」
隣に行って腰を下ろす。ウイスキーの入ったコップを片手で口に持っていった男は、短い髪を立たせた男らしい顔立ちをしていた。切れ長の目……。羨ましい、僕もこんな顔になれたらいいのに。でもその目は虚ろで、どこか物思いに耽っているようだった。
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