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『シャワーの音が聞こえる……。こういちさんがシャワー使ってる?』
僕は、目も開けるのも億劫で音だけ聞いていた。昨夜は……まあ凄かった。こういちさんが初めてとは思えないぐらい、翻弄された。
『でも、小野寺さん……って。僕は小寺だっつうの。寺違い。』
ま、言ってないんだから分かるはずないか。夕べ、夢中になったこういちさんが呟いた言葉。たぶんあの人は「小野寺」という人に恋してる。僕と同じ。たぶん叶わない恋を追い求めているんだ。
『あのぐらい求められたら、誰でもすぐに落ちちゃうかもしれないな。』
実際に自分も忘れかけた。名前もよく思い出せない人……12年前の一瞬の出来事。ホクロと星形のアザばかり考えていたけど、実際は違かったのかもしれない。
『こういちさんが別な人の名前を呟いてくれてよかったかも……。』
体がダルい。今日、仕事が休みで良かった。もう少しだけ寝たら、僕もシャワーを浴びて……。
カチャ
いつの間にかシャワーの音が止まり、部屋にシャンプーの香りが広がった。誰かが静かに歩いている気配がする。ベッドの脇で床に落ちた服を取り上げて着替えている。
ジーー
ジーンズのジッパーを上げる音。そういえばこういちさんはジーンズを履いていた。足も長かったな。僕のあの人も……きっと長かったはず。
………………
『陽介、お前大きくなったなあ。』
優しそうな目の周りに、少しだけ皺ができたあの人が微笑む。メガネ越しに見る目の下のホクロは変わらない。相変わらずセクシーだ。
『でしょ? 僕はもう大人なんだ。だから……。』
『陽介……いいのか?』
驚いた顔のあの人が僕に聞いてくる。
『僕はずっと待ってたんだ。』
ジッと顔を見つめると、大きな右手の先で顎を持ち上げられた。親指の付け根に星形のアザ……。間違いない。あの人だ。
目を瞑ってあの人の唇が迫ってくる。僕も目を瞑るのが礼儀だとは思ったけれど、目が離せなかった。本当にあの人だ。軽く瞑った目の下にホクロ……。僕がずっと探していたゆう……ろうさん。
あの人との初めてのキスは、とても優しいものだった……。
………………
バタン
ハッと目が覚める。今、ドアの音が聞こえた? 辺りを見渡すとホテルの部屋。ぐちゃぐちゃに体に絡まったシーツが気持ち悪い。体を起こして、シーツを剥ぎ取る。
『こういちさんが出て行ったのか?』
壁に掛かっている時計を見ると、6時40分。仕事に行くならもう支度をしなくてはいけない時間。
『いや、甘い言葉を囁けっていうわけじゃないけどさ……。』
ふうっと息を吐いた。僕もシャワーを浴びて帰ろう。家のベッドでもう一度眠るんだ。ベッドから降りて裸のまま浴室に向かう。足の付け根が痛い……この痛みは久しぶりだ。ふと見ると、途中にあったテーブルに小さな紙が置いてあった。
「ありがとう」
『ふん、こういちさんのためじゃないし……。この部屋のお金はこういちさんが出したんだし。』
紙をクシャクシャに丸めてゴミ箱に投げると、痛む身体をどうにか動かして浴室に向かった。
僕は、目も開けるのも億劫で音だけ聞いていた。昨夜は……まあ凄かった。こういちさんが初めてとは思えないぐらい、翻弄された。
『でも、小野寺さん……って。僕は小寺だっつうの。寺違い。』
ま、言ってないんだから分かるはずないか。夕べ、夢中になったこういちさんが呟いた言葉。たぶんあの人は「小野寺」という人に恋してる。僕と同じ。たぶん叶わない恋を追い求めているんだ。
『あのぐらい求められたら、誰でもすぐに落ちちゃうかもしれないな。』
実際に自分も忘れかけた。名前もよく思い出せない人……12年前の一瞬の出来事。ホクロと星形のアザばかり考えていたけど、実際は違かったのかもしれない。
『こういちさんが別な人の名前を呟いてくれてよかったかも……。』
体がダルい。今日、仕事が休みで良かった。もう少しだけ寝たら、僕もシャワーを浴びて……。
カチャ
いつの間にかシャワーの音が止まり、部屋にシャンプーの香りが広がった。誰かが静かに歩いている気配がする。ベッドの脇で床に落ちた服を取り上げて着替えている。
ジーー
ジーンズのジッパーを上げる音。そういえばこういちさんはジーンズを履いていた。足も長かったな。僕のあの人も……きっと長かったはず。
………………
『陽介、お前大きくなったなあ。』
優しそうな目の周りに、少しだけ皺ができたあの人が微笑む。メガネ越しに見る目の下のホクロは変わらない。相変わらずセクシーだ。
『でしょ? 僕はもう大人なんだ。だから……。』
『陽介……いいのか?』
驚いた顔のあの人が僕に聞いてくる。
『僕はずっと待ってたんだ。』
ジッと顔を見つめると、大きな右手の先で顎を持ち上げられた。親指の付け根に星形のアザ……。間違いない。あの人だ。
目を瞑ってあの人の唇が迫ってくる。僕も目を瞑るのが礼儀だとは思ったけれど、目が離せなかった。本当にあの人だ。軽く瞑った目の下にホクロ……。僕がずっと探していたゆう……ろうさん。
あの人との初めてのキスは、とても優しいものだった……。
………………
バタン
ハッと目が覚める。今、ドアの音が聞こえた? 辺りを見渡すとホテルの部屋。ぐちゃぐちゃに体に絡まったシーツが気持ち悪い。体を起こして、シーツを剥ぎ取る。
『こういちさんが出て行ったのか?』
壁に掛かっている時計を見ると、6時40分。仕事に行くならもう支度をしなくてはいけない時間。
『いや、甘い言葉を囁けっていうわけじゃないけどさ……。』
ふうっと息を吐いた。僕もシャワーを浴びて帰ろう。家のベッドでもう一度眠るんだ。ベッドから降りて裸のまま浴室に向かう。足の付け根が痛い……この痛みは久しぶりだ。ふと見ると、途中にあったテーブルに小さな紙が置いてあった。
「ありがとう」
『ふん、こういちさんのためじゃないし……。この部屋のお金はこういちさんが出したんだし。』
紙をクシャクシャに丸めてゴミ箱に投げると、痛む身体をどうにか動かして浴室に向かった。
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