無添加ラブ

もこ

文字の大きさ
33 / 38
初恋の人

1

しおりを挟む
「はぁ、明日だ。裕一郎は来るのかな?」
3月31日。僕は一日中ソワソワしていた。納品伝票を間違えて渡してきたり、本棚整理で大量の本を床にぶちまけたりと普段なら絶対にやらないようなミスを連発していた。

「小寺、お前、今日は帰れ。」
社長直々に帰れと言われ、退勤時間にもならないうちに帰されたのは初めての経験。

『普段そんなに休みも取らないのに……。』
微熱があっても会社に行く。市販の風邪薬を飲んで、体を動かしていた方が風邪の治りも早い気がする。インフルエンザにかかったのは大昔に一度だけ。あの時はしおりんが差し入れに来てくれて、とっても助かった。

まだ明るいうちに家に帰り、時間があるからと、冷凍しておいた豚肉を解凍して、肉じゃがを作り始めた。今日は買っておいた、たくあんでも切って、ほうれん草の味噌汁でも作って……。

『裕一郎は何が好きなのかな?』
裕一郎のことは何も知らない自分がここにいる。それよりも裕一郎は明日来るのだろうか? ほうれん草を流水で洗いながら考える。……6時半って言ってた。半信半疑ながらも、明日は1日休みを貰っていた。朝から部屋の掃除をして、ゴミ出しもしなければ……。夕飯は何にしよう……?

「……。」
気がつくと、一株だけ洗うつもりが、買ったばかりのほうれん草を、全部を洗い終えていた。
『お浸しにでもするか。』
いつもは一人分の夕飯なんだから、と適当に済ませるのに、無駄にある時間で何故か料理に没頭している僕がいた。



ご飯も食べて風呂にも入り、何もすることが無くなった。まだ9時だ。全然眠くない。けれどもこれから部屋の片付けをしようとも思えない。

『寝るか……。』
寝る前に、1ヶ月ほど前に買って開いてもいなかった海外の小説でも読もうと、歯磨きをしに洗面所に向かった。

『もし……本当に裕一郎が来たら、なんて言って出迎える?』
いらっしゃい? よく来たね? ……何だかどれも違っているような気がする……。歯磨きをしている自分が鏡の中から見つめてきた。

『この目で見つめられてって……裕一郎が言ってた……。』
ダメだ。何も思考が定まらない。

『本当に来るかどうかも分からないのに……。』
アラサーにもなって、落ち着きのない自分に呆れる。初恋でもあるまいし。
『いや、初恋の人だったんだ……。』

年甲斐もなく赤くなっていく自分の顔を見ながら、ため息が漏れた。あの時のオジサンは裕一郎だったって言ってた。明日、その理由を説明してくれるのだろうか? 超能力で分かったとか? 冷凍睡眠で眠っていて、実は裕一郎は50歳だったとか?

「SF映画じゃあるまいし……。」
自分の考えに苦笑いをして、口を濯ぎ洗面所を後にした。



ピンポーン

小説を布団の上に置いたままで寝落ちしていた僕は、インターフォンのなる音で目を覚ました。眠い目を擦りながら、リビングに移動する。

「はい……。」
「寝てた? 俺、裕一郎。入れて。」
マンションの入り口から、インターフォン越しに裕一郎の笑っている顔がのぞいていた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

氷の公爵様と身代わりパティシエ~「味覚なし」の旦那様が、僕のお菓子でトロトロに溶かされています!?~

水凪しおん
BL
【2月14日はバレンタインデー】 「お前の菓子だけが、私の心を溶かすのだ」 実家で「魔力なしの役立たず」と虐げられてきたオメガのリウ。 義弟の身代わりとして、北の果てに住む恐ろしい「氷血公爵」ジークハルトのもとへ嫁ぐことになる。 冷酷無慈悲と噂される公爵だったが、リウが作ったカカオのお菓子を食べた途端、その態度は激変!? リウの持つ「祝福のパティシエ」の力が、公爵の凍りついた呪いを溶かしていき――。 拾ったもふもふ聖獣と一緒に、甘いお菓子で冷たい旦那様を餌付け(?)する、身代わり花嫁のシンデレラストーリー!

脱落モブ男が人気アイドルに愛されるわけがない

綿毛ぽぽ
BL
 アイドルを夢見るも、デビューできずオーディション番組に出演しても脱落ばかりの地味男、亀谷日翔はついに夢を諦めた。そしてひょんなことから事務所にあるカフェで働き始めると、かつて出演していた番組のデビューメンバーと再会する。テレビでも引っ張りだこで相変わらずビジュアルが強い二人は何故か俺に対して距離が近い。 ━━━━━━━━━━━ 現役人気アイドル×脱落モブ男 表紙はくま様からお借りしました https://www.pixiv.net/artworks/84182395

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

一緒に食べよう

河野彰
BL
三坂貴史(みさかたかし)は2年前に妻に先立たれ、娘の実咲貴(みさき)と一緒にマンションで暮らしていた。偏食の気がある実咲貴に困ったり、学童を断られたりと心労や疲労が続くなかで、同じマンションに住むフレンチシェフの一修吾(にのまえしゅうご)と出会う。  最初は実咲貴の安全を考えて警戒していた貴史だが、何度か偶然にも出会う内に修吾のおおらかさと手作りの料理とで次第に心を許していき……。

交際0日婚の溺愛事情

江多之折(エタノール)
BL
死にたくはない。でも、生きたくもない。ふらふらと彷徨う根無し草は、世界の怖さを知っている。救いの手は、選ばれた者にだけ差し伸べられることも知っている。 だから緩やかに終わりを探して生きていた。 ──たった数回の鬼ごっこを経験するまでは。 誠実すぎて怖い人は、4回目の顔合わせで僕の夫となる。 そんな怖がりな男と誠実な男の、結婚生活の始まり。 ■現実だけど現実じゃない、そんな気持ちで読んでください。 ■家庭に関してトラウマを抱えている方は読まない方が良いと思います。

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

処理中です...