俺は時を超える。この状況を変えるために…いや、3年前の君に会うために……。~追憶〜

もこ

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「ここ、一緒にいい?」
学食の片隅で、買ってきた豚汁と弁当を広げて食べようとしたところに声がかかった。

「ああ。……!?」
目の前にいたのは黒いパーカーに身を包んだ望だった。急に鼓動が速くなる。悟られないように自然な声を出すように努めた。

「お前……友だちは?」
「振られた。みんなラーメン食べたいって、『麺ー』に行っちゃった。俺一人なんだよね。」
目の前に座った望のトレーには、チキンカツや筑前煮が並んでいた。

「……。」
何を話したらいいか分からない。そもそも気軽に話をする間柄でもない。気まずさをごまかすように、自分で作ったカツ丼弁当に箸をつけた。

「それ、彼女の手作り?」
しばらくすると、遠慮がちに望が話しかけてきた。
「いや……俺。」
別に俺が弁当持参な事は、友だちみんなが知っている事だ。でも、何故か望に知られてしまう事は躊躇している自分がいた。

「へー!凄いなっ!もしかしてB棟であった時の唐揚げも!?」
目を丸く見開いて、俄然元気な声を張り上げる。
「……ああ。」
何となく……恥ずかしいな。今まで付き合った子たちの気持ちが分かってきたような気がする……。

「あれ、凄く美味しそうだったよね?ここの唐揚げも美味しいけどさ、何ていうの?見た目がさ。」
「小麦粉と片栗粉の違いか?ここのは市販の唐揚げ粉だろ。」

「え!見ただけで分かるものなの?」
チキンカツを口に入れようとしていた望が、箸を止めてこちらを見てくる。だからその顔……トイプードルだろ。今日の服装も上は黒。望は黒が好きなのかもしれない。スポーツ用品の有名ブランド名が小さく入ったパーカーは、少しだけジッパーを下ろして、中の白いTシャツが顔を覗かしていた。

「香りでな。あと見た目。俺も何度か使ったことがある。」
「へぇ……凄いなあ。俺、めっちゃ好きなんだけど、この味!ってのに巡り会ったことがないんだよね。何だかいつも一味足りないっつうか、昔食べた味が懐かしいっていうか……。」
「どこで食べた味?」
チキンカツを咀嚼始めた望に問いかける。美味しい唐揚げか……興味がある。

「うーん、思い出せないんだよね。家ではいつも同じ味付けだし……。いろんなとこの唐揚げ食べてるから、どっかで巡り会ったのを忘れてんだな。たぶん。」
「どんな味だったんだ?」
有名店かそれともたまたま買った弁当か何かか……。一般的にどんな食堂でもメニューに唐揚げ定食はあるものだ。特定するのは難しいだろう。

「ここの唐揚げよりはパンチが効いていたのは確か。生姜やニンニクの香りが強くてさ…でも塩辛くはなくて……んー、唐揚げ食べたくなってきた。」
望は白飯よりもチキンカツの方が消費が早い。……チキンが好きなのか?いつか、コイツに俺の唐揚げを食べさせてみたい。そんな事を考えながら、自分のカツ丼を食べ進めた。



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