俺は時を超える。この状況を変えるために…いや、3年前の君に会うために……。~追憶〜

もこ

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その線はもう見たくない

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結局、今泉に誘われた居酒屋でバイトをする事になった。基本、席に案内して初めの飲み物の注文は取るが、後は各席にあるタブレッドを使って注文があった品を運ぶだけ。チェーン店だけあってシステムがしっかりしている。前のレストランより気軽に働けた。

「お前、その髪型似合うな。」
「そうか?」
今日は今泉と2時間シフトが被っていた。俺は毎日3時間。基本的に1番忙しい6時から9時まで働くようにしていた。

今日は、結構長く伸びた髪が鬱陶しくなって、母親からもらったゴムで、ハーフアップに髪を纏めていた。
『さすがに女の子には見えないわね……。』
『悪かったな。男で。』
少し残念そうに言う母親に苦笑する。腹の中にいた時、3人目の俺を女の子だとずっと思っていた事は昔聞いたことがある。

2月も半ばになり、外は相変わらず冷たい風が吹いているが、店の中は暖房が効いていて、冬用の制服である厚手の作務衣では暑いぐらいだった。中にVネックの半袖Tシャツを着ているが、脱いでもいいぐらいだ。

「15番、揚げ出し運んで。」
厨房から声がかかり、大皿に4人前盛られた揚げ出し豆腐を運ぶべく、お盆を取りに行った。

「お待たせいたしました。揚げ出しです。」
「わぁー、美味しそう!」
「4人前って結構な量じゃない?」
膝を折ってテーブルに皿を移すと、6人席にゆったりと座った4人連れの女たちが声を上げた。どこかで見たことがある。……学校か?

「ごゆっくりどうぞ。」
立ち上がろうと片膝を立てた途端に、奥の右手に座っている女から声をかけられた。
「田崎さん、ですよね?」
「は?」
少しだけ顔を左に寄せて顔を確認する。見たことは……あるような……。

「田崎駿也さん、ではないですか?」
「はい。……お客様は?」
名前を知ってる?何故だ?たぶん接点は無かったはずだ。莉子の友達か?夏まで数ヶ月間付き合ってた女の顔が脳裏に浮かんだ。

「小森明日実と言います。あの……同級生です。大学は違いますが……。」
他の女がニヤニヤしながら明日実という女を見始めた。
「初対面でごめんなさい。あの……お付き合いしている方……いますか?」
莉子の友達ではないな。知り合いなら、こんな聞き方はしないだろう。

「いや……。」
いません、と言おうとして気が変わった。ここで気を持たせるような発言は控えるべきだ。何度か経験がある。今までのパターンだ。

「でもすみません。好きな奴がいるので。……ごゆっくりお過ごし下さい。」
言い終えて席を立つ。
「凄ーい、よく言ったねっ!」
「でも残念。」
「凄くセクシーじゃなかった?あの胸元!」

席を離れるにつれてあのテーブルに座る4人の声が遠ざかっていった。作務衣の紐を結び直しながら、厨房へ向かう。別にモテたいわけじゃない。ただ1人の人と幸せになりたいんだ……。脳裏には望の笑顔が映っていた。




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