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2:他人の幸せ、自分の幸せ

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「でもさ、時間が忘れさせてくれるって。」
今日の学食では、雅人を慰めるために男5人で集まっていた。雅人、伸一、良太、浩己そして俺だ。伸一の言葉でも、雅人の顔は晴れなかった。

「ああ、悔しいなあ。栞が話し出したのって、3月も終わりなんだぜ? もうすぐ引っ越すっていう時。もう何もかも決まった後。俺にはどうしようもないじゃん。」
雅人が呟いて、トンカツに箸をつけた。アッシュグレーに染めた髪もいつものような輝きがなく、どこか曇っているようだ。

「という事は、もう彼女は北海道?」
浩己の言葉に、トンカツをつまみ上げたまま雅人が頷いた。
「もう、帰ったあとは、メールに既読もつかない。もう完全に俺はお払い箱だ。」

「失恋には新しい恋っていうし、他に顔を向けて見れば?」
良太がハンバーグを突きながらアドバイスをした。良太の顔を見る。良太と一緒に昼食をとるのは久しぶりだ。良太は黒く短い髪を立たせて、肌の色も黒くなっていた。サッカーに夢中だった時の良太みたい。あの香水の香りを振り撒いていた時の良太とは違う……。本当に良太は変わったみたいだ。

「浩己は付き合ってる奴いるのか?」
「ああ。いるよ。」
伸一の問いに答えた浩己の声にビックリして、チキンステーキがポロリと落ちた。

「え? えええっ!? 浩己、付き合ってる人いたの?」
思わず声が大きくなる。見た目が大人しい浩己。俺と一緒でまだ付き合った経験がないんだと思ってた。

「ああ。去年の12月からだから……まだ4か月かな? いい奴だよ。」
「何なに、大学生?」
「歳は?」
浩己は、周りの問いかけに、一切答えようとしなかった。でも……幸せそうだ。無表情にしようと頑張っているが、取り繕えてない。

「ちぇ、教えてくれてもいいじゃん。あ、俺ね、進展あった。」
伸一が話題を変えて、みんなの気持ちが伸一に向けられた。
「何? 例の高校生?」
頷く伸一に期待の視線が集まる。高校生と進展? 何だ?

「今まで部活しか知らなかったけど、名前が分かった。」
「へぇ、なんていう子?」
俺の言葉に、目の前の伸一がジッと俺を見てきた。

「変わった苗字だからな……教えてやんない。」
「ええっ? そこまで言っといて?」
「誰にも言わないよ。ほら。」
俺も含めて周りも促すが、伸一は口を開こうとはしなかった。

『何だか、みんな充実してるな……。』
遠くの席で、女の子に囲まれながら食事をしている隆介が見える。当然美久ちゃんの隣だ。その隣の伊吹は何だか居心地が悪そうだ。田崎さんは……。

ぐるりと首を回して確認するが、目立つ茶髪の田崎さんの姿はどこにもなかった。
「彼女とどこかでお弁当でも食べてるのかな。」
暖かくなってきて、外で弁当を広げるのにちょうどいい季節だ。俺は無意識にため息が漏れそうになるのを抑え込んだ。



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