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2:好きな人は?

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「「いらっしゃいませ。」」
隣のレジに入っていた津村君と声が被った。津村君は大学1年生。俺と同じ大学の経済学部だ。
『田崎さん!』
入り口を見ると、田崎さんがこちらを見て軽く頷いてから、飲料が並ぶエリアに歩いて行った。

『俺の所に来るかな?』
少しだけドキドキしている。店の中には雑誌のコーナーで彷徨いている客が2人。レジはガラ空きだ。混んでいる時は、タイミングが悪くて隣に行ってしまう事があるけど、空いている時は必ずと言っていいほど俺の前に来る。

『来た!』
ただの偶然かもしれないのに、顔が崩れる。嬉しい。こっちに来てくれた。津村君も雑誌を持ってきた客に対応を始めていた。

「田崎さん、バイト終わりですか?」
お茶のバーコードを読み取らせながら、話しかける。今日は半袖のVネックのTシャツ一枚。そういえば、田崎さんはVネックが多い。俺も着てみるかな? 

「ああ、終わり。」
「いいなあ。俺も今日は9時で終わりなんだけど、交代のバイトさんが来ないんですよ。」
交代する予定の齋藤さんが遅れていた。休むと連絡はないから必ず来るはず。店長の田中さんから、バイトを始めたばかりの津村君を1人にしないように言い渡されているから、帰りたくても帰れない。

「大変だな。」
「ええ。あっ、来た!」
バックヤードから急足でこちらに向かってくる齋藤さんが見えた。ごめん、と言っているように顔の前で手を合わせている。齋藤さんは夜の部の責任者。ほぼ毎日と言っていいほど入っている。30代後半のベテランだ。

「望、これで終わりだろ? 向かいのカフェで一緒にコーヒーでも飲まないか?」
齋藤さんに気を取られていた俺は、一瞬何を言われたか分からなかった。えっ!? 望? ま、待って。今……誘われた?

「是非! この前オープンしたとこでしょ? 一度行ってみたかったんですよね。ちょっと待っててください!」
笑顔が全開になっているのが、鏡を見なくても分かる。田崎さんに誘われた! 2人でカフェでお茶を……。
「ああ。外で待ってる。」
冷たいお茶を掴んで、田崎さんが外に出て行った。

「佐々川君、ごめんな! これお詫びの印。」
隣に来た齋藤さんからチョコを手渡され、上の空で受け取った。田崎さんとカフェ……何を飲もうかなっ!?

「ありがとうございます。あとお願いします。」
おざなりにお礼を言って、カウンターから出てバックヤードに向かう。制服を脱いで、パーカーを羽織って……。いや、このパーカーは変だ。このTシャツだけの方が……。いつもの黒のTシャツにジーンズ。もっと違う格好をしてくりゃ良かった。せめて、買ったばかりのあのTシャツなら良かったのに……。

俺はパーカーをバッグに詰めると、財布とスマホを確認して、急いで外に出た。
「お待たせしました! 行きましょう。」
田崎さんはコンビニ前に置いてあるリサイクルボックスにペットボトルを入れていたところだった。俺の姿を見ると、優しく笑ってくれたように感じた。





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