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『田崎さん、この前は家まで送っていただいてありがとうございました。お父さんの会社の手伝い、終わりましたか?』
田崎さんに初めてメールを送信した。今日は10月1日。田崎さんが1か月って言ってたから、もう戻ってきているはずだ。

『でも……別にメールだけなら、こんなに待たなくても良かったよな。』
この1か月、律儀に待ってしまった。何となく田崎さんからのメールを待っていたんだ。9月の半ば過ぎに夏休みが終わって学校が始まったけれど、やはり校内で田崎さんを見かける事はなかった。

……なかなか既読がつかない。俺は諦めて、もう一つのトーク画面を開いた。

『おーい駿也、もうすぐ駿也がいなくなって3年になるぞ。お前の事忘れちゃいそうだぞ?』

1か月以上前に送った駿也へのメールには、既読がついているが、やはり返信はなかった。

『はあっ。』
何だか寂しい。前期のテストも終わって明日からは後期の授業が始まる。学校では今まで通り、友だちと話したり、学食でご飯を食べたり、今までと何ら変わらない生活を送っている。けど、田崎さんも駿也も……俺が大事だと思う人が、俺の世界からいなくなったような気がする。

『駿也、元気か?』
短い文を送信する。瞬時に既読がつき、今までの俺からのメールに重なった。スマホを閉じて、ベッドの棚に置き、写真立てを手に取る。

『駿也……。俺、お前からより田崎さんからの返事を待ってるかも。』
この写真を見ても、昔のように心が躍らない。俺、俺は田崎さんが好きなのかも……。

「望っ。ご飯できたわよ。降りてらっしゃい!」
「ああ、今行く。」
今日は5時からバイトだ。早めの夕飯を食べて支度をしよう。俺は写真立てをいつもの引き出しに入れて、ベッドから立ち上がった。




「2番目でお待ちのお客様、こちらにどうぞ。」
呼びかけて列の先頭を見た途端に驚いた。
『今泉さん!』

「やあ、望くん。久しぶり。」
今泉さんは濃紺の作務衣を着ていた。
「バイト……ですか?」
今泉さんが差し出してきた温かい缶コーヒーと大量のお菓子類をレジに通しながら、聞いてみた。

「そう。望君はここで働いてたんだね。長いの?」
「ええ、まあ。」
作務衣を着たバイト? お寺か?

「望くんは20歳は過ぎた? 今度飲みに来てよ。田崎はいないけど。」
「えっ? 田崎さんがバイトしていた所と同じなんですか?」
居酒屋の制服が作務衣? ああ、でも、あるかもしれない。たちまち田崎さんの作務衣姿が目に浮かぶ。似合うだろう……。でも、もっと茶色っぽい方がいいかもしれない。

「1,350円です。」
袋を欲しいと言う今泉さんに、一番大きな袋を出して、お菓子を詰め込む。こんなに大量のお菓子……お店で食べるのかな?

『田崎さんに連絡取っていますか?』

聞きたい。けど、「どうして?」と聞かれたらどうしよう? なんて答える?

「ありがとうございました。」
迷っている間に、作業が終わってしまった。まただ……。俺は、肝心な時に躊躇してしまう癖がある。

今泉さんの背後を見送って、何だか今までよりも寂しさが増したような気がした。




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