自分とアイツ、俺とオマエ

もこ

文字の大きさ
8 / 87
遭遇2 〜侑〜

1

しおりを挟む
「侑ちゃん、待っただろ? ごめんな?」
「『ちゃん』はやめてって……。」

 和樹がテーブルの近くまできて頭を下げた。色褪せて白っぽくなったジーンズに白いポロシャツ。上にカーキ色のミニタリージャケット。ここは、新たな待ち合わせ場所にした駅前のコーヒーショップ。

 この人が自分の彼氏。大学の同級生。学部が違うから、滅多に学校では会わないし、会ってもそれぞれ友だちと話しているから、付き合ってると知ってるのは数人ほど。学校で2人で昼食をとるなんてしたこともない。

 でも、出会いは唐突。興味のある本が同じだったらしく、図書館でいきなり声をかけられた。



『君、名前なんて言うの?』

 あの時のカチンコチンに固まった和樹の様子を思い出すと、今でも笑える。

『侑ですけど。』

 和樹のことは頭の隅では覚えていた。図書館によくいる人。一階のテーブルで雑誌を読んでいたり、階段でよくすれ違ったり。でも、自分はもう誰とも付き合わなくていいやと思っていたし、気にも留めていなかった。

『源氏物語、僕も読んだことあるよ。』

 自分の手の中にある本に目を向けて、和樹がこう言ったことから仲良くなっていった。図書館で会えば挨拶をするし、少しだけ本の話をする。そして1か月。

『ぼ、僕たち、つき合わない?』

 2度目のカチンコチン。何だか笑えてきて、すぐにオーケーしたのを覚えてる。あれが4月の終わり。たまにこうしてデートする。本屋を巡ったり、古本屋へ行ったり。そして、おしゃべりしながら公園を散歩したり。
 
 一度だけ夏に帽子を被らずスカートを履いていったら、びっくりしてた。とても似合う! と褒めてくれたけど、自分は落ち着かなかった。誰かのために、女の子のような服を着て、化粧をするというのが無理だった。いや、女の子なんだけど。

 スカートを履くときは、知り合いには会わない時がいい。その時の気分で、誰かのためではなく、自分が楽しむため。またスカート姿を見たいという和樹にその事を言ったら、理解してくれた。

『じゃあ、いつかまたスカート姿を僕に見せたくなった時でいいよ。』

 あの時の言葉で、和樹との距離がグンと近くなったと思う。和樹と初めてキスをしたのもあの時。それからは気負わないでやっていけてる。



 今日は、新しく買ったスキニージーンズに長袖のロングパーカー。髪はハーフアップにして、下を少しだけウェーブかけてきた。

「結構時間かかったね? 電車混んでた?」

 30分前の待ち合わせが、和樹の乗ろうとしていた路線で事故があったとかで、途中でメールが届いていた。今日はファミレスで夕食を一緒に取る約束。2人ともお酒はあまり飲めないから、飲み屋さんには行ったことがなかった。

「うん、めっちゃ混んでた。もう行く?」
「うん。ちょっと待ってて。」

 もう少しでなくなりそうだったアイスカフェラテをそのままにして、和樹と店を出るために荷物をまとめた。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

なほ
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模るな子。新入社員として入った会社でるなを待ち受ける運命とは....。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

処理中です...