もこ

文字の大きさ
24 / 65

しおりを挟む
『優樹様、スマホを取り出して少しだけ掲げていただけませんか?』

 駅に歩いている途中でイヤフォンから聴こえる音楽のボリュームがさがり、愼の声が聞こえてきた。
もうすぐ駅が見えるというところ。ここは商店街で人通りも多い。

「えっ? 何で?」
『写真でも撮っているようなフリをしてください。後ろを振り向かずに、スマホを掲げるだけ。』

 愼の言葉に緊張が走る。愼が後ろを見たいということか? その場に立ち止まり、空を撮っているような振りをしながらスマホをゆっくりと持ち上げた。何の操作もしなくとも画面はカメラに変わっていた。

『少しだけ左右に。…………ありがとうございます。』
 愼の言葉にスマホを胸元へと下げる。さっき一緒に考えた愼の胸元から上の姿が画面に映っていた。

「どうしたんだよ?」
 また歩き出しながら小声で呟く。人通りが多い。注目を浴びたくない。

『GPSが。』
「何?」
『大丈夫です。申し訳ありません。お気をつけていってらっしゃいませ。』

 音楽の音量が元に戻る。少しだけ口角が上がり、にっこり微笑む愼。どうして着替えてんだ? 真っ白な開襟のシャツに着替えた愼に突っ込もうかどうか考えているうちに、駅の近くまでたどり着いた。

「じゃあ、行ってくる。」
『お帰りは何時になりますか?』

 帰る時間? 帰る時間なんてまちまちだけど、何かあるのか? 俺の今日の授業は5時に終了だから……。

「6時前には帰るけど、何かあるのか?」
『承知いたしました。大丈夫でございます。行ってらっしゃいませ。』

 愼の言葉に何か引っ掛かりを感じながらも、いつも一緒にいるんだし大丈夫だと言い聞かせ、駅に上がるエスカレーターに乗り込んだ。



『優樹様。こちらを見てください。』

 授業の時間が半分以上過ぎて集中力が消えてきた時、ふくらはぎに置いていたスマホが明るく輝いた。スマホの画面に文字が浮かんでいる。

「何。」
 焦って周りを見渡しながらスマホに向かって小声で呟く。学校で愼に話しかけられたのは2回目。しかも授業中なんて。鞄に入れている時もあるんだぞ? 

 授業には必ず開始ギリギリに教室に入る。教室の中で空いている方を目指し、できるだけ人と距離をおいて座る。今日も周りには誰もいない。左側の窓際の席で、1番近い奴でも机3つ分は離れている。

『イヤフォンはできますか?』

 愼がよこした文字に緊張が高まる。一体何があったのだろう? 鞄からそっと片耳用のイヤフォンを取り出して、何気なく見せるように気をつけながら左耳に突っ込んだ。

「何?」
『声は出さなくて結構です。私の指示に従ってください。今日の帰りの電車、5時20分の電車に乗りますと、降り口にボディガードが待っています。服は黒のジャンパーに白い帽子。指定してあります。その方と一緒に帰宅なさってください。』

「何それ。ヤバイの?」
 声を出すなという方が無理だろ? 出来るだけ小さな声で囁きながら詰問する。夕べといい、さっきといい……。

『念のためです。ご心配無用です。』

 心配するなという方が無理じゃんか! 内心、愼に怒鳴りつけたいのをぐっと我慢をし、それからの授業は上の空でやり過ごしていった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

〈完結〉遅効性の毒

ごろごろみかん。
ファンタジー
「結婚されても、私は傍にいます。彼が、望むなら」 悲恋に酔う彼女に私は笑った。 そんなに私の立場が欲しいなら譲ってあげる。

処理中です...