暗闇を超えてきた君が僕を離してくれない

もこ

文字の大きさ
6 / 100
僕は君の趣味じゃないし、君は僕の趣味じゃない

4

しおりを挟む
「「かんぱーーい!」」

 会社近くにあった居酒屋『呑幸』は焼き鳥が美味しいという評判の店らしかった。『焼き鳥屋』を略して『焼屋』だったんだ。お通しで出てきたアスパラベーコンを前に、伊東さんと嶺さんの声を合図に大ジョッキ3つが触れ合った。

『ビール……大ジョッキ……。』

 内心これを飲み干すことができるのか訝りながら、ジョッキに口をつけて飲むふりをする。相変わらず苦い。

 20歳になって初めての友だちとの飲み会で、張り切ってガブ飲みしようとした時のことを思い出す。二口喉を通したところで、危うく吐き出すところだった。めちゃくちゃ苦いんだ。そして舌全体ののビリビリとした感覚。

「あれ? 飲まないの?」

 気がつくと僕の前に並んで座った伊東さんと嶺さんが半分空になったジョッキを片手にこちらを見ていた。

「の、飲みます!」

 慌ててひと口含む。口の中にシュワシュワとした感覚と、苦味が舌の奥の方に広がっていった。

『あ、でも……それほどでもない?』

 2年前に感じたほどではないかな? あれから飲み会の席では、誰に何と言われても酎ハイ一択だった。会社の歓迎会では酌をすることで、アルコールにはほとんど手を出さずにやり過ごした。

 アスパラを1つ箸で摘んで口に含む。旬がきたのか新鮮なのか、もの凄く太いのに柔くて美味しい。塩胡椒が効いていてビールを飲みたくなった。思い切ってビールをゴクっと喉に流し込む。

『うまいっ!』

 えっ? 今までどうして苦手だと感じてたわけ? 今度はベーコンを口に入れて咀嚼しながら、またビールと一緒に喉に流し込んだ。

「ぷはーーっ。」

 うまい! 思わず笑顔になったところで前を見ると、空になったジョッキを前に2人がニヤニヤと笑いながらこちらを見ていた。

「なんだ、いけるじゃん。もう一杯頼もう。」
「えっ? いや、その……。」

 僕はレモン酎ハイが飲みたいんだけど。どう伝えようか言葉を探しているうちに、ちょうど「呑幸オリジナル串焼きセット」を運んできた店員に、嶺さんが生ビールを3つ頼んでしまっていた。

「少々お待ちください。」

 紺色の作務衣に茶色のバンダナを巻いた店員が去るのを焦って見送っていたけど、まあいいかと思い直して自分のジョッキを見る。まだ半分近く残っているビールを口に含んで、目の前に置かれた大皿を眺めた。

 鶏皮、鶏ももは分かるけど、この黒っぽいものは何だろう? レバー? 明らかに骨が刺さっているだろうと思われる串もある。四角い肉が連なっているのは何の肉?

「渡良瀬君は何が好き?」

 黒っぽい串焼きを手に取った伊東さんが話しかけてきた。

「それは、レバーですか?」

 知らないものはしょうがない。ここは思い切って訊いてみるべきだ。

 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」 幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

ちゃんちゃら

三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…? 夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。 ビター色の強いオメガバースラブロマンス。

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。 性表現は一切出てきません。

妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。

藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。 妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、 彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。 だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、 なぜかアラン本人に興味を持ち始める。 「君は、なぜそこまで必死なんだ?」 「妹のためです!」 ……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。 妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。 ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。 そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。 断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。 誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。

処理中です...