暗闇を超えてきた君が僕を離してくれない

もこ

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僕は君の趣味じゃないし、君は僕の趣味じゃない

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 ベッドで寝返りを打った瞬間に手が壁を擦った。痛い。もう一度寝返りを打つと、今度は温かな硬いものに手が触れた。目を開ける。目の前には誰かの鎖骨があった。

『!!』

 嫌な予感がしてゆっくりと頭を動かして上を見上げる。喉元、顎、口、そして顔全体。そこには、片肘に頭を乗せた嶺さんがニコッと笑ってこちらを見ていた。

『な、なんで裸?』

 嶺さんの肌の感触が残った左手を布団の中で動かし、自分が服を着ているのを確かめた。ワイシャツに……スラックス。うん、大丈夫だ。僕は裸じゃない。もの凄くホッとしている自分がいた。

 夕べのことは覚えていない。3杯目を空けたところまでは覚えてる。そして4杯目を頼んだことも。4杯目が運ばれてきたところで、嶺さんや伊東さんがピザを頼んでいたことも。焼き鳥屋さんでピザ? 不思議に思ったんだ。

「寝顔、かわいいな。」

 目の前から聞こえた声にまた目線を上げる。嶺さんは穏やかな顔をいていた。

「……可愛くないです。」

 嶺さんの鎖骨に向かって呟く。「かわいい」という言葉は、昔から言われてきた。昨日の伊東さんもそうだ。幼い頃から今まで、顔を見て「かわいい」と言われることが多かった。

「ああ、ごめんごめん。コンプレックスだった?」

「違います。……嶺さん、なんで裸なんですか? 目のやり場に困るんですけど。」

 仰向けになって、天井を見つめながら話しかける。見慣れない天井に照明器具。四角くて明らかに自分の家と違う照明器具を見ながら、ここが嶺さんの住処だということを理解した。

「ああ、ごめん。いつも俺パンイチなんだよね。渡良瀬くんは?」

「ふ、ふ、服を着ます。」

 お気に入りのスウェットとTシャツを思い浮かべる。高校の時に入っていたテニススクールで着ていたお気に入りのブランドだった。部活動には入らなかったけど、週2回あったテニススクールは3年間続けた。

「パジャマ?」

「違います! スウェットとTシャツです!」

 何となく面白くない。パジャマなんて小学生以来着たことがない。

「ははははっ! そんなにムキにならなくても。」

 キッと睨んだ先の嶺さんはご機嫌そうだった。何がそんなに楽しいんだろ?

「さ、朝飯でも食べよ。味噌汁飲みたくないか?」
「あ、飲みたいかも。」

 それに水も飲みたい。めちゃくちゃ喉が渇いている。口の中に違和感があって歯も磨きたい。あれ? 僕って夕べは吐いてないよな?

「作ってやるよ。起きて顔を洗えよ。そのうちに作ってやるから。」

 そう言った嶺さんが徐に起きて、布団が捲り上がり、中に冷たい風がフワッと入ってきた。黒いカバーが掛けられた布団は羽根布団? とても軽かったことに今更ながらに気づいた。

 そして思わず目で追った嶺さんの後ろ姿。真っ黒なボクサー。

『僕と同じ?』

 僕が今履いている紺色と同じブランドのボクサーを身につけ、そして僕よりも明らかに体格が良い姿を見送りながら、少しだけ敗北感に包まれていた。



 
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