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光明
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『眠れない。』
僕は、歯を磨き終わってベッドに横たわっていた。明日着ていくワイシャツは準備した。スラックスは、2回めの給料日の後で買った、ズボンプレッサーに挟んで皺を取ってある。ネクタイも鞄も靴下も準備した。
部屋の電気を落としてベッドに横になり暫く目を瞑っていたけど、脳裏に映るのは会社帰りのことばかり。女性の肩に手を乗せて焼き鳥屋に誘った嶺さん。真っ赤な顔の齋藤さん。嶺さんの茶髪は街の明かりを反射してよけいに薄く見えた。
そこまで考えてスマホを手に取り、今日のニュースを検索した。さっきテレビでは、例年より遅い梅雨入りをしたと言っていた。明日履いていく靴は防水の方がいいだろうか。傘は……。
何も頭に入ってこない。諦めて音楽でも聴こうとしたけれど、最近の流行りなんて全然知らない。元々流行りは追いかける方じゃなかった。
それでも2023ベストのJ–popの曲を選んで流しながら寝ようとした。去年の流行曲なのだから知っている曲もあるはずだ。
『やっぱり眠れないや。』
夜中の12時近くなるのを確認し、諦めてベッドに体を起こす。開け放したカーテンから外を見ると、眠らない夜の街の明かりが反射して、部屋の中の家具がぼんやりと浮き上がって見えた。
『何か温かいお茶でも飲もう。』
冷房が必要な季節になってきたけど、今夜は少しだけ肌寒い。確か緑茶のティーバッグがあったはずだ。4月に母さんが送ってきた荷物の中に。
瞬間湯沸かし器を使って湯を沸かしている間にトイレを済ませて……。僕は、温かいお茶を飲みながら眠くなるのを待とうと思いながら寝室を後にした。
ズズズーー
誰もいない空間で気を遣っちゃいられない。マグカップから溢れそうなお茶を啜りながら寝室に戻ってきた。明かりは消したままだ。ベッドまでの距離なら、明かりがなくても全然いける。
ヘッドボードにお茶を慎重に置いて、グンと伸びをした。明かりをつけてトイレやキッチンを歩き回ったことで余計に目が冴えたような気がする。
もう一度マグカップを持ち上げて一口飲む。温かなものを体内に取り入れた途端に体温が上昇したような気がする。窓を開けたら寒いだろうか?
『!!』
窓を見た途端に危うくマグカップのお茶を溢すところだった。さっきは確かに街明かりしか見えなかった窓に、ボンヤリと男が映っている。今まで見た時よりも影が大きい。
「ま、待って。君は誰?」
影が薄くなり始めたような気がして、窓に近づき声をかける。ほんのりと光を放っているような男の影は、顔が見えない。でも……鼻は高い? 髪はストレートで長いようだ。服は、なんだろう? マントのようなものを羽織っているようにも見える。
「ね、こっちに来て。姿がぼんやりとしか見えないんだ。君は僕が見える? 僕たち、知り合い?」
見そうで見えないのがもどかしい。一瞬だけ近づいて手を伸ばしたように見える影が、だんだんと薄くなって……やがて見えなくなっていった。
僕は、歯を磨き終わってベッドに横たわっていた。明日着ていくワイシャツは準備した。スラックスは、2回めの給料日の後で買った、ズボンプレッサーに挟んで皺を取ってある。ネクタイも鞄も靴下も準備した。
部屋の電気を落としてベッドに横になり暫く目を瞑っていたけど、脳裏に映るのは会社帰りのことばかり。女性の肩に手を乗せて焼き鳥屋に誘った嶺さん。真っ赤な顔の齋藤さん。嶺さんの茶髪は街の明かりを反射してよけいに薄く見えた。
そこまで考えてスマホを手に取り、今日のニュースを検索した。さっきテレビでは、例年より遅い梅雨入りをしたと言っていた。明日履いていく靴は防水の方がいいだろうか。傘は……。
何も頭に入ってこない。諦めて音楽でも聴こうとしたけれど、最近の流行りなんて全然知らない。元々流行りは追いかける方じゃなかった。
それでも2023ベストのJ–popの曲を選んで流しながら寝ようとした。去年の流行曲なのだから知っている曲もあるはずだ。
『やっぱり眠れないや。』
夜中の12時近くなるのを確認し、諦めてベッドに体を起こす。開け放したカーテンから外を見ると、眠らない夜の街の明かりが反射して、部屋の中の家具がぼんやりと浮き上がって見えた。
『何か温かいお茶でも飲もう。』
冷房が必要な季節になってきたけど、今夜は少しだけ肌寒い。確か緑茶のティーバッグがあったはずだ。4月に母さんが送ってきた荷物の中に。
瞬間湯沸かし器を使って湯を沸かしている間にトイレを済ませて……。僕は、温かいお茶を飲みながら眠くなるのを待とうと思いながら寝室を後にした。
ズズズーー
誰もいない空間で気を遣っちゃいられない。マグカップから溢れそうなお茶を啜りながら寝室に戻ってきた。明かりは消したままだ。ベッドまでの距離なら、明かりがなくても全然いける。
ヘッドボードにお茶を慎重に置いて、グンと伸びをした。明かりをつけてトイレやキッチンを歩き回ったことで余計に目が冴えたような気がする。
もう一度マグカップを持ち上げて一口飲む。温かなものを体内に取り入れた途端に体温が上昇したような気がする。窓を開けたら寒いだろうか?
『!!』
窓を見た途端に危うくマグカップのお茶を溢すところだった。さっきは確かに街明かりしか見えなかった窓に、ボンヤリと男が映っている。今まで見た時よりも影が大きい。
「ま、待って。君は誰?」
影が薄くなり始めたような気がして、窓に近づき声をかける。ほんのりと光を放っているような男の影は、顔が見えない。でも……鼻は高い? 髪はストレートで長いようだ。服は、なんだろう? マントのようなものを羽織っているようにも見える。
「ね、こっちに来て。姿がぼんやりとしか見えないんだ。君は僕が見える? 僕たち、知り合い?」
見そうで見えないのがもどかしい。一瞬だけ近づいて手を伸ばしたように見える影が、だんだんと薄くなって……やがて見えなくなっていった。
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