暗闇を超えてきた君が僕を離してくれない

もこ

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僕は君の初恋の人? 君は憧れのお兄さん?

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「あーー、今はいないな。何だか最近、その気になれないんだよね。」

「でも……。」
 昨日女の人と歩いている嶺さんを見かけましたよ? そう言いかけて止める。僕の勘違いだったということもあり得る。それに、あの時自分から齋藤さんと手を繋いでしまった。その事を思い出したくない、ということもあった。

「何だかさ、渡良瀬を見るたびに昔の事を思い出すんだよ。ほら前にも言ったろ?」

「ああ、小学生の。」
 伊東さんと3人で飲んだ時の話だ。もう1か月以上過ぎたけれども覚えてる。あの時はビールを4杯飲んだところで、記憶を無くして。

『やばい。めちゃくちゃ恥ずかしいじゃないか。』

 次の日に嶺さんのマンションで目覚めた時のことを思い出す。裸で僕の寝顔を見ていた嶺さん。そしてなめこの味噌汁。潰れたのは初めてだ。そしてあんなにビールが美味しいと思ったことも……。

 僕はまたジョッキを手に取って口に持っていった。ゴクゴクと喉に流し込む。苦手だと思っていたのが嘘みたいだ。

「そう、小6の夏ほんの少しの間だったけど、確かにあの子が気になってたんだ。おい、ロリっていうなよ?」

「言いませんよ。」
 思わずふふっと笑ってしまった。この目の前の大男が小さな女の子を抱っこしている姿が見えるようだった。スーツを着たままで。それは恋愛対象というより父親だろ。嶺さんの父親姿は想像できない。

「お待たせいたしました。」

 ちょうどその時、餃子とチャーシューが運ばれてきた。僕が手を出すよりも早く、嶺さんがサッと受け取ってテーブルに置いてくれた。

「美味そうだな。」
 
 餃子が大きい。5個入ったこの皿を平らげただけでもお腹に溜まりそうだ。チャーシューは丸くて厚切り。白髪ネギがトッピングされてる。

「美味しそうですね。」

 ネギにラー油をかけ始めた嶺さんを見ながら餃子を口にする。美味い。生姜が効いていて醤油なしでも食べられる。思わずビールを手にして、一緒にごくんと喉に流し込んだ。

「美味いな。」
「ええ、美味しいです。」
 ビールの2杯目を届けてもらった嶺さんが、また半分以上空けてこちらを見た。

「それでさ、宿題が終わって公園に行くだろ? そうすると砂場で遊んでいたその子がシャベルやじょうろを放り出して駆け寄ってくるんだ。満面の笑みでさ。」

「いいですね。」

 夏の真っ青な空に白い入道雲、そして太陽。刈られたばかりの芝生の香り。温かい砂場で黄色と赤のプラスチックのシャベルを使い穴を掘る。肘が隠れるくらい掘ったら水を汲んでくるんだ。黄緑色のじょうろ。象の鼻から出る水は少なくて、何度も何度も水を入れるけどすぐになくなって、そのうちに悲しくなって……。

『大きなバケツ、持ってきてやるよ。』

 どこか遠くから、少年の声が聞こえてきたような気がした。


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