暗闇を超えてきた君が僕を離してくれない

もこ

文字の大きさ
29 / 100
僕は君の初恋の人? 君は憧れのお兄さん?

しおりを挟む
「あーー、今はいないな。何だか最近、その気になれないんだよね。」

「でも……。」
 昨日女の人と歩いている嶺さんを見かけましたよ? そう言いかけて止める。僕の勘違いだったということもあり得る。それに、あの時自分から齋藤さんと手を繋いでしまった。その事を思い出したくない、ということもあった。

「何だかさ、渡良瀬を見るたびに昔の事を思い出すんだよ。ほら前にも言ったろ?」

「ああ、小学生の。」
 伊東さんと3人で飲んだ時の話だ。もう1か月以上過ぎたけれども覚えてる。あの時はビールを4杯飲んだところで、記憶を無くして。

『やばい。めちゃくちゃ恥ずかしいじゃないか。』

 次の日に嶺さんのマンションで目覚めた時のことを思い出す。裸で僕の寝顔を見ていた嶺さん。そしてなめこの味噌汁。潰れたのは初めてだ。そしてあんなにビールが美味しいと思ったことも……。

 僕はまたジョッキを手に取って口に持っていった。ゴクゴクと喉に流し込む。苦手だと思っていたのが嘘みたいだ。

「そう、小6の夏ほんの少しの間だったけど、確かにあの子が気になってたんだ。おい、ロリっていうなよ?」

「言いませんよ。」
 思わずふふっと笑ってしまった。この目の前の大男が小さな女の子を抱っこしている姿が見えるようだった。スーツを着たままで。それは恋愛対象というより父親だろ。嶺さんの父親姿は想像できない。

「お待たせいたしました。」

 ちょうどその時、餃子とチャーシューが運ばれてきた。僕が手を出すよりも早く、嶺さんがサッと受け取ってテーブルに置いてくれた。

「美味そうだな。」
 
 餃子が大きい。5個入ったこの皿を平らげただけでもお腹に溜まりそうだ。チャーシューは丸くて厚切り。白髪ネギがトッピングされてる。

「美味しそうですね。」

 ネギにラー油をかけ始めた嶺さんを見ながら餃子を口にする。美味い。生姜が効いていて醤油なしでも食べられる。思わずビールを手にして、一緒にごくんと喉に流し込んだ。

「美味いな。」
「ええ、美味しいです。」
 ビールの2杯目を届けてもらった嶺さんが、また半分以上空けてこちらを見た。

「それでさ、宿題が終わって公園に行くだろ? そうすると砂場で遊んでいたその子がシャベルやじょうろを放り出して駆け寄ってくるんだ。満面の笑みでさ。」

「いいですね。」

 夏の真っ青な空に白い入道雲、そして太陽。刈られたばかりの芝生の香り。温かい砂場で黄色と赤のプラスチックのシャベルを使い穴を掘る。肘が隠れるくらい掘ったら水を汲んでくるんだ。黄緑色のじょうろ。象の鼻から出る水は少なくて、何度も何度も水を入れるけどすぐになくなって、そのうちに悲しくなって……。

『大きなバケツ、持ってきてやるよ。』

 どこか遠くから、少年の声が聞こえてきたような気がした。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」 幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。 性表現は一切出てきません。

ちゃんちゃら

三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…? 夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。 ビター色の強いオメガバースラブロマンス。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...