暗闇を超えてきた君が僕を離してくれない

もこ

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僕の気持ちはどこにある? そして君は今、どこにいるの?

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 改札口でカードを翳す。その瞬間に目の前のゲートが開き、歩く速度を緩めないまま改札口を通る。駅の出口まではあと20mといったとことろ。出口に向かう人混みの波に合わせながら歩いて行った。

『今日は嶺さんがいなかったな。』

 僕が乗る駅と、嶺さんが乗り込む駅は2つ分離れている。いつもの姿がターミナル駅に見えずに、何となく寂しいような物足りないような不思議な気分だった。

『出張は明日からだよな? 今日は前日で休みとか?』

 昨日の朝、もっと詳しく話を聞くんだったと思いながら、駅を出て行った。

「おーーい! 渡良瀬!」

 渡るはずの横断歩道に向かって歩き出したその途端に、右から声が聞こえた。もうすっかり聞き慣れた声で誰だか分かる。声の方を見ると、前に酔い潰れた後で目が覚めたベンチに嶺さんが座っていた。

「嶺さん!」

 思わず安心感が広がって、人混みをすり抜けて嶺さんの元に向かった。

「お、相変わらず笑顔がいいな。ほら、出勤前に1つ。」

 差し出されたものは、冷たい缶コーヒーだった。

「ありがとうございます。今日は早かったんですか?」

 受け取って、隣に座り込む。前回とは違う嶺さんの左側。いつも右側を歩く彼の顔が見える場所。朝日に反射して、いつもの髪の茶色がよけいに薄く見えた。

「ああ、何だか昨夜は眠れなくて。朝も早く起きちまった。それで一本前の電車に乗ってきたんだ。でも、俺の姿が見えないと渡良瀬は寂しいだろ? そう思い直してここで待ってた。」

 そう言ってこちらを見てきた嶺さんの顔は、ひどく優しそうだった。

「そんなことはありませんよ。でも、どうしたんだろ、っては思ったかな?」

 青色の缶コーヒーのプルタブを開ける。嶺さんはもう既に飲み終わった缶が握られていた。

「つれないなあ。」

 飲み終わったと思ったのは勘違いだったようで、嶺さんは最後の一口をごくりと喉に流し込んだ。

「嶺さんのその髪の毛の色は元々ですか? それとも染めてる?」

 大きな喉仏が羨ましい。本当に嶺さんは男としての魅力が溢れていると思う。セフレ……が何人もいるのも頷ける。

「大学の時から染めてるな。俺は元は黒髪、ストレート。でもパーマかけちまった方が断然楽だ。手櫛とムースですぐに整えられるし。」

 黒髪にストレート。幼い頃のお兄さんのイメージにぴったりだ。思い出せない顔が、だんだんと今の嶺さんの顔になっていくような感じがした。

「……ところでさ渡良瀬、名前は涉《しょう》だったんだな。」

「えっ? あ、はいそうです。」

 いきなり話を振られて現実に引き戻される。嶺さんは空になった缶を両手で握りしめて、足を開いて前屈みになり、改札口の方をなんとなく眺めているようだった。

「あ、悪い。何かさ、前に話したろ? 『しょこちゃん』。最近渡良瀬を見ると何だか思い出すんだよな。さっき笑顔で走ってきただろ? あんな時。ははっ、おかしいよな?」

「嶺さん……。」

 こちらを向いて笑った嶺さんの顔を見て迷う。思い切って話してしまおうか? 女の子じゃなかったことにガッカリしないだろうか? 笑って、思い出話ができる?

 でも僕は何も言い出せないまま、缶コーヒーを口に持っていった。やはりどうしたら良いか分からなかった。そして言葉とともに少しだけ苦いコーヒーを一口飲み込んだ。

 

 
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