暗闇を超えてきた君が僕を離してくれない

もこ

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僕の気持ちはどこにある? そして君は今、どこにいるの?

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『嶺さんはもう台湾へ出発したかな?』

 時刻は朝の9時半。昨日の朝、話をした時に9時台の飛行機で出発すると言っていた。今日は会社には寄らないということも。昨日社内で度々見かけた嶺さんは、とても忙しそうだった。

『僕も色々な部署で働けるようにならなくちゃ。』

 今回の台湾への出張は、上手くいけば膨大な利益につながると聞いた。それだけ台湾では大手の事業所らしい。

 営業も自信はないけどやってみたいような気もする。情報管理部はすぐに辞めてしまった紺野がいるから二の足を踏むけど、興味はある。

『明日と明後日は、1人で出勤だな。』

 何となく寂しい気持ちがするのはなぜだろう? 「名前は涉《しょう》だったんだな」と言っていた時のあの顔が、なぜか頭の隅に貼り付いていて、取り払うことができなかった。





「部長、常務がお呼びです。至急来てほしいと。」

 嶺さんが帰国するはずの日の午後、社食で昼食を済ませて戻ると、ちょうど内線を取った鈴木さんが柿崎部長に話しかけていた。

「来いってどこだよ。全く。」

 宮本常務の部屋はあるが、そこには滅多にいないと聞いたことがある。大抵は、営業部の近くか情報管理部の部屋に入り浸っているらしい。昔、情報管理部の基本的システムをこの常務が1人で作り上げたと聞いた。

 経理部の部屋を出ていった柿崎部長の後を見送って、またパソコンの画面に戻った。何だか騒がしい。滅多に通路を走る音を聞かないけど、何人もあちこちに走り回る音がする。

 そういえば、社食でも金井部長が誰かに呼ばれて昼食を放り出して行ったっけ。

『何かあったのかな?』

 そう思いながらも、数字の打ち込みに集中していった。今日の仕事は今日中に終わらせないと、明日の業務量に支障が出る。例え、伊東さんが部内一仕事ができるといってもだ。

「何だか煩くない? 何かあったのかしら?」

 キーボードを叩く音だけが響く室内で、鈴木さんがポツリと呟いた。

「そうですね。ちょっと俺、トイレに行ってこようかな。」

「私も何か飲み物を淹れてこようかしら。渡良瀬君、留守番頼める?」

「はい。」

 伊東さんと鈴木さんが席を立った。2人とも偵察に行くのは明らかだ。「渡良瀬君にコーヒーを淹れてくるわ。」という鈴木さんにミルクと砂糖を入れてもらうように頼んで見送り、またパソコンの画面に戻った。

ガタン!

 何かが扉に当たる音がして、視線がそちらに向く。扉が開いて入って来たのは伊東さんだった。口元に手をやり、顔色が酷く悪い。

「何かありましたか?」

 少しだけよろめきながら、椅子に座った伊東さんに話しかける。伊東さんはまだ左手で口を抑えたまま、何も言わずにマウスを操作し始めた。

「……あの。」

 暫くその姿を眺めていたが、耐えきれなくなってもう一度聞こうと口を開いた。

「レイの乗った飛行機が落ちた。尖閣諸島北……東シナ海……。ニュースになってる。」

 マウスの操作を止め、伊東さんが俯いて顔を覆った。僕は彼の姿が見えているにも関わらず、目の前が暗くなっていくように感じた。


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