41 / 100
僕の気持ちはどこにある? そして君は今、どこにいるの?
8
しおりを挟む
新たな動きがあったのは水曜日だった。飛行機の残骸と思われるものが多数、大陸の方に漂着したらしい。そしてその情報を最初に見つけたのは、伊東さんだった。
「乗客……遺体……絶望。」
伊東さんの呻くような呟きに反応して、僕や鈴木さんもネットのニュースを漁る。柿崎部長はしばらくすると、何も言わずに部屋を出ていった。
『複数名の遺体発見!』
その見出しの下にあるのは、飛行機の残骸と思われる一部と、乗客のものだと思われる所持品など多数発見されたということだった。
そして、遺体も。遺体が同じように漂着したのかどうかこれだけでは、全くわからない。
他のニュースでは、『生存者は絶望か?』との見出しが踊っていた。日本と台湾両国の関係者が、現地に確認にいくことになっているという。
『嶺さんは大丈夫。絶対に大丈夫。』
この何日間か自分に言い聞かせていた言葉が、心の中で虚しく空回りしているような気がした。
その日、退勤まで柿崎部長が戻ってくることはなかった。そして、何とかその日の業務を終えた僕たちは、退勤時間を少し過ぎて、一緒に帰ることにした。
「どうなるのかしら。」
駅に向かう途中、真っ先に口を開いたのは鈴木さんだった。
「どうなるとは?」
「嶺くんの乗った飛行機が、神隠しにあったわけではない。事故に遭ったのは間違いがないわ。」
伊東さんの氷のような鋭い言葉が僕の胸を突き刺す。伊東さんの気持ちが痛いほどわかる。まだ可能性に縋っていたいんだ。
「……2人は嶺くんと仲が良かったから。もちろん私も奇跡が起こることを願っているわ。それは間違いない。でもね、会社としても考えていかなくちゃ。若手のエースがもしかしたらいなくなってしまうかもしれないのよ?」
「そんなこと、僕たちの考えることじゃ……!」
思わず僕も口を出さずにはいられなかった。今は嶺さんの無事を信じて、何かするのが第一なんじゃないのか? でも何かしたくても、何をしたら良いのか思いつくわけではなかった。
「そうよね。そう、会社の上層部が考えること。それで今日は柿崎部長も戻ってこなかったんだと思うわ。あなたたち、最近の柿崎部長を見ていて何とも思わないの?」
「柿崎部長?」
鈴木さんが何を言いたいのかわからずに聞き返したけど、伊東さんは、鈴木さんの向こう側で少し息を飲んだ様子が伝わってきた。
「そう、奥さんを4年前に同じように航空機事故で亡くしてるのよ。もちろん今回のように日本ではなくて、外国を回っている時だったけど。お友達と一緒に旅行に行っていたのですって。あの時、『金ばかり使いやがって。』そう言って笑っていたのに。」
だから今回のことも相当部長には堪えてるはずよ。そして会社全体で考えた時、自分たちにも途中異動などの影響があるかもしれない。そう話す鈴木さんに、返す言葉は見つからなかった。
「乗客……遺体……絶望。」
伊東さんの呻くような呟きに反応して、僕や鈴木さんもネットのニュースを漁る。柿崎部長はしばらくすると、何も言わずに部屋を出ていった。
『複数名の遺体発見!』
その見出しの下にあるのは、飛行機の残骸と思われる一部と、乗客のものだと思われる所持品など多数発見されたということだった。
そして、遺体も。遺体が同じように漂着したのかどうかこれだけでは、全くわからない。
他のニュースでは、『生存者は絶望か?』との見出しが踊っていた。日本と台湾両国の関係者が、現地に確認にいくことになっているという。
『嶺さんは大丈夫。絶対に大丈夫。』
この何日間か自分に言い聞かせていた言葉が、心の中で虚しく空回りしているような気がした。
その日、退勤まで柿崎部長が戻ってくることはなかった。そして、何とかその日の業務を終えた僕たちは、退勤時間を少し過ぎて、一緒に帰ることにした。
「どうなるのかしら。」
駅に向かう途中、真っ先に口を開いたのは鈴木さんだった。
「どうなるとは?」
「嶺くんの乗った飛行機が、神隠しにあったわけではない。事故に遭ったのは間違いがないわ。」
伊東さんの氷のような鋭い言葉が僕の胸を突き刺す。伊東さんの気持ちが痛いほどわかる。まだ可能性に縋っていたいんだ。
「……2人は嶺くんと仲が良かったから。もちろん私も奇跡が起こることを願っているわ。それは間違いない。でもね、会社としても考えていかなくちゃ。若手のエースがもしかしたらいなくなってしまうかもしれないのよ?」
「そんなこと、僕たちの考えることじゃ……!」
思わず僕も口を出さずにはいられなかった。今は嶺さんの無事を信じて、何かするのが第一なんじゃないのか? でも何かしたくても、何をしたら良いのか思いつくわけではなかった。
「そうよね。そう、会社の上層部が考えること。それで今日は柿崎部長も戻ってこなかったんだと思うわ。あなたたち、最近の柿崎部長を見ていて何とも思わないの?」
「柿崎部長?」
鈴木さんが何を言いたいのかわからずに聞き返したけど、伊東さんは、鈴木さんの向こう側で少し息を飲んだ様子が伝わってきた。
「そう、奥さんを4年前に同じように航空機事故で亡くしてるのよ。もちろん今回のように日本ではなくて、外国を回っている時だったけど。お友達と一緒に旅行に行っていたのですって。あの時、『金ばかり使いやがって。』そう言って笑っていたのに。」
だから今回のことも相当部長には堪えてるはずよ。そして会社全体で考えた時、自分たちにも途中異動などの影響があるかもしれない。そう話す鈴木さんに、返す言葉は見つからなかった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
「普通を探した彼の二年間の物語」
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ちゃんちゃら
三旨加泉
BL
軽い気持ちで普段仲の良い大地と関係を持ってしまった海斗。自分はβだと思っていたが、Ωだと発覚して…?
夫夫としてはゼロからのスタートとなった二人。すれ違いまくる中、二人が出した決断はー。
ビター色の強いオメガバースラブロマンス。
天啓によると殿下の婚約者ではなくなります
ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。
フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。
●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。
性表現は一切出てきません。
妹を救うためにヒロインを口説いたら、王子に求愛されました。
藤原遊
BL
乙女ゲームの悪役令息に転生したアラン。
妹リリィが「悪役令嬢として断罪される」未来を変えるため、
彼は決意する――ヒロインを先に口説けば、妹は破滅しない、と。
だがその“奇行”を見ていた王太子シリウスが、
なぜかアラン本人に興味を持ち始める。
「君は、なぜそこまで必死なんだ?」
「妹のためです!」
……噛み合わないはずの会話が、少しずつ心を動かしていく。
妹は完璧令嬢、でも内心は隠れ腐女子。
ヒロインは巻き込まれて腐女子覚醒。
そして王子と悪役令息は、誰も知らない“仮面の恋”へ――。
断罪回避から始まる勘違い転生BL×宮廷ラブストーリー。
誰も不幸にならない、偽りと真実のハッピーエンド。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる