暗闇を超えてきた君が僕を離してくれない

もこ

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もうどこにも行かないで? 僕を独りぼっちにしないで?

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「涉、これ食べたことがあるか?」

「ううん。初めて。」

 目の前に広げられたのは、チーズがたっぷりのピザ。中に具があるのかどうなのか全然分からない。




 結局、セイちゃんがピザを注文して配達荷物も受け取った。嫌いなものはあるかと聞かれて特に無いと答えると、とても満足そうな表情をした。

 僕が先に自分の部屋に帰り着替えをしてから、ちょっとだけ散らかっていた部屋を片付けているうちにセイちゃんがやってきた。小さな段ボールを抱えて。

「それは?」

「お泊まりセット。」

 僕が段ボールを指差すと、セイちゃんはとても嬉しそうな顔をしていた。何がそんなに楽しいんだか。

 今日も前回と同じように僕の敷布団を使ってリビングで寝るという話をして、敷布団や肌掛け布団をソファに出しているところで、ピザが配達された。




「いただきます。これ、本当に美味しい?」

「美味いよ。」

 コップに一緒に注文していたコーラを注ぎながら、セイちゃんが呟いた。ただチーズがたっぷり乗せられて焦げ目がついただけのように見えるピザ。

「美味しい!」

 一口食べてみて驚いた。いつも食べているチーズの味と全然違う。大きな口を開けて食べて、あっという間に腹の中に収まった。

「だろ? モッツアレラチーズ。俺の好物。」

 袋からサラダや唐揚げを出して並べるセイちゃんが、満足そうな顔をした。他にもう一枚。大きなサイズのクオーターピザもある。僕がたまに食べているものと同じだ。でも大きすぎる。2人で食べきれるかな? 

「俺、名前が変わったんだ。」

「名前?」

 セイちゃんの言葉に、サラダに伸ばした手が止まった。

「そう、名前。嶺誠一郎から嶺誠二朗になった。」

「なったって……。」
 
「嶺誠一郎の名前はヤツに譲った。」

 ヤツというのは嶺さんか? ……間違いない。でも名前を変えたとはどういうことだろう?

 話を聞いてみると、先週、僕と別れたその足でネカフェに立ち寄ったのだという。その日はそこに泊まるつもりで。パソコンを使って区のコンピュータにハッキングして。

「ハッキング!?」

「ああ、知識だけはあったからな。もちろん違法だし、やったことはなかったが。」

「それで名前を?」

 嶺さんの戸籍まで辿り着き、嶺さんに双子の兄弟がいたように改ざんした。そうセイちゃんが話した。

「俺は事情があって、生まれてすぐに親元から切り離された。そんなふうに改ざんして、俺もそう思い込もうとした。でも失敗した。」

「失敗!?」

 目の前の美味しそうなピザを食べるどころじゃない。何だかドキドキして、黙々と食べ進めるセイちゃんをただ呆然と眺めていた。
 



 
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