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僕は君が好き、君も僕が好き?
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僕は病院の待機室にいた。何に使う部屋なのか全く分からない。「ここでお待ちください。」と言われて連れてこられた8畳ほどの部屋。
セイちゃんは手術室に入っていた。たぶんセイちゃんの会社の上司と思われる人が来て、僕の名前を聞いていった。
僕は頬に大きなガーゼを当てられ、肘のあたりをぐるぐる巻きにされただけで解放された。何針か縫っただけ。化膿止めの薬を飲んで1週間後にもう一度来ればいいだけ。
でもセイちゃんは違う。詳しくは誰も教えてくれないけど、僕と同じくCTを撮った後に手術が決まったらしい。
『セイちゃん……!』
セイちゃんまで僕の前からいなくなったら? セイちゃんがいなくなったら……!
誰もいない、長机と椅子があるだけの空間で、僕は自分の気持ちと一人で向き合っていた。
トントン
音が響いたと同時に真っ白なドアが開き、さっきの男の人ともう1人が一緒に入ってきた。
さっき話をした人はたぶん40歳前後の人。その後ろから入ってきた人は50代? 真夏にスーツの上下をビシッと着こなし、少しだけ白髪が混じった髪も整えられている。
「渡良瀬さん、私は及川という者です。嶺くんと同じ会社で働いています。そしてこちらは社長の……。」
「王高寺です。単刀直入に聞きたい。君は嶺くんの出生の秘密を知っているかな?」
出生の秘密……。セイちゃんの会社の社長。僕は頭を働かせた。セイちゃんは全て話したと言っていた。そしてその会社の社長に助けられたと。
「はい。」
2人から目を離さずに小さく頷く。その途端に及川と名乗った男が安堵の表情を浮かべた。スラックスのポケットからハンカチを取り出して、広い額を拭っていた。
「では、こちらには身寄りはないことも知っている?」
「はい。」
「やっぱりこの子でしょう、社長。」
2人が顔を見合わせて頷いている。何か確認をしたらしい。僕はどうでもよかった。それよりもセイちゃんのことを聞きたい。
「あの、セイちゃんは……。」
僕が顔を上げて話しかけるとすぐに遮られた。
「嶺誠二朗は命に別状ない。意識がなくなったのは脳震盪が原因だそうだ。腕の骨が折れて緊急手術になったが、先程終了した。麻酔が切れるまであと2時間ほど。君は大丈夫か?」
澄んだ声。何も心配することなく自信に満ち溢れているような。この人のいうことなら信じても良いのだろう。僕はホッとしたのと同時に、目の前が暗くなっていくのを感じた。
「あっ!」
誰かが椅子から崩れ落ちようとする背中を支えた。
「おい、誰か呼んでこい!」
社長と呼ばれていた人の声が耳の奥で聞こえる。……そして僕は何も分からなくなった。
セイちゃんは手術室に入っていた。たぶんセイちゃんの会社の上司と思われる人が来て、僕の名前を聞いていった。
僕は頬に大きなガーゼを当てられ、肘のあたりをぐるぐる巻きにされただけで解放された。何針か縫っただけ。化膿止めの薬を飲んで1週間後にもう一度来ればいいだけ。
でもセイちゃんは違う。詳しくは誰も教えてくれないけど、僕と同じくCTを撮った後に手術が決まったらしい。
『セイちゃん……!』
セイちゃんまで僕の前からいなくなったら? セイちゃんがいなくなったら……!
誰もいない、長机と椅子があるだけの空間で、僕は自分の気持ちと一人で向き合っていた。
トントン
音が響いたと同時に真っ白なドアが開き、さっきの男の人ともう1人が一緒に入ってきた。
さっき話をした人はたぶん40歳前後の人。その後ろから入ってきた人は50代? 真夏にスーツの上下をビシッと着こなし、少しだけ白髪が混じった髪も整えられている。
「渡良瀬さん、私は及川という者です。嶺くんと同じ会社で働いています。そしてこちらは社長の……。」
「王高寺です。単刀直入に聞きたい。君は嶺くんの出生の秘密を知っているかな?」
出生の秘密……。セイちゃんの会社の社長。僕は頭を働かせた。セイちゃんは全て話したと言っていた。そしてその会社の社長に助けられたと。
「はい。」
2人から目を離さずに小さく頷く。その途端に及川と名乗った男が安堵の表情を浮かべた。スラックスのポケットからハンカチを取り出して、広い額を拭っていた。
「では、こちらには身寄りはないことも知っている?」
「はい。」
「やっぱりこの子でしょう、社長。」
2人が顔を見合わせて頷いている。何か確認をしたらしい。僕はどうでもよかった。それよりもセイちゃんのことを聞きたい。
「あの、セイちゃんは……。」
僕が顔を上げて話しかけるとすぐに遮られた。
「嶺誠二朗は命に別状ない。意識がなくなったのは脳震盪が原因だそうだ。腕の骨が折れて緊急手術になったが、先程終了した。麻酔が切れるまであと2時間ほど。君は大丈夫か?」
澄んだ声。何も心配することなく自信に満ち溢れているような。この人のいうことなら信じても良いのだろう。僕はホッとしたのと同時に、目の前が暗くなっていくのを感じた。
「あっ!」
誰かが椅子から崩れ落ちようとする背中を支えた。
「おい、誰か呼んでこい!」
社長と呼ばれていた人の声が耳の奥で聞こえる。……そして僕は何も分からなくなった。
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