暗闇を超えてきた君が僕を離してくれない

もこ

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暗闇を超えてきた君が僕を離してくれない

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 バターの香りが漂うスクランブルエッグ。フレンチトーストは冷めかけていたけど、こちらは火を入れ直して調整済み。熱いコーヒーを飲みながら、ゆったりと贅沢な朝の時間。

「このテーブルいいね? 僕たちにちょうどいい大きさだ。」

 2人で過ごすようになってすぐに、セイちゃんの部屋にあったテーブルを僕の部屋に運び込んだ。まだほとんど使っていない新品。テーブルも椅子も、ダークブラウンの色合いがカッコいい。

「だろ? こうやって一緒に食事をとりたいと思って選んでいたんだ。」

 少しずつ増えていくセイちゃんのもの。でもそれを嬉しいと思っている僕がいる。

「セイちゃんの給料は高そう。」

 支度金が出たとは言っても、働き始めてすぐに1週間休みを取った。入院費や手術代は社長が立て替えてくれたっては言っていたけど、お金に困っているような素ぶりが全くしない。嶺さんのお金を使い続けている……なんてないよね?

「まぁ、良いだろうな。涉の2倍ぐらいはあるんじゃないか?」

「2倍!」

「俺の能力を買ってくれたって言ったろ? 嶺から借りた金も年末には綺麗に返すよ。」

 笑顔で答えるセイちゃんの長い腕が僕の唇を触る。人差し指が唇に触れた瞬間、身体中にゾクッと鳥肌が立った。

「卵が付いてた。」

 僕の唇についていた卵を取った指。長くて節が太くて男らしい。いつからだろう? 羨ましいを通り過ぎて、ドキドキするようになったのは。

 嶺さん……。あの事故以来3か月以上が経っても何も新展開がなかった。まだ会社には在籍しているけど、年度末で死亡届を出されるに伴って籍がなくなると聞いた。

 伊東さんも一時期の落ち込みは無くなって、また淡々と仕事をこなしている。会社で嶺さんのことを話題に出す人も少なくなった。僕は、僕はどうなのだろう? 

 諦める気持ちはない。でも、嶺さんがいなくなった時の感情をもち続けてもいない。嶺さんが無事に戻って来れば良い。でもそのことでセイちゃんに影響があったら?

「セイちゃんは、元の世界にいつか帰りたいと思う?」

 つい最近気になり出した考え。セイちゃんが突然いなくなってしまうのではないかという恐怖が湧き上がるようになってしまった。セイちゃんが望めば、いつかそれが現実になる。

 寝室の開かれることの少なくなったカーテン。夜には特に開きたいとは思わなくなった。一度だけ2人で覗いた時には、道路を隔てたマンションや、街の明かりが見えるだけのただの窓だった。

「涉、おいで。」

 突然立ち上がったセイちゃんに、ソファまで連れていかれた。先に座ったセイちゃんを跨ぐように座らされ、直ぐに激しいキスを交わした。

「バカだな。俺がそんな考えになるはずないだろ? 俺の命より大事な涉。この怪我の跡が消えてなくなるまでは絶対にここにいる。」

 セイちゃんの肘の上にある手術痕。跡はケロイドになって一生残るだろうと言われていた。ということは……。

「ありがとう。でもごめんね? セイちゃんの体を傷つけた。」

 セイちゃんの肩に頭を預ける。セイちゃんに抱きしめてもらって、遠い昔同じようなことがあった気がした。


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