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第一章 始まりと出会い

旅の算段 (スフェンside)

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「冒険者1人だけを同行させるのは、明らかに不自然だ。……ヒューズ、フレイにも同行してもらえるように依頼できないか?フレイの付き添いでミカゲを連れていくという形を表向きは取ろうと思う。」

 
フレイとはヒューズの兄だ。
冒険者をしていてレベルは1番高いSランク。国内には5人しかいない。
魔物討伐を主な任務としている戦闘狂として有名だ。騎士団とも過去に何度か魔物の合同討伐に当っている。


フレイをカモフラージュとして使い、ミカゲの存在をなるべく目立たない様にしたい。

 
「兄に連絡を取ってみます。」

フレイへの伝達は、ヒューズに任せることにした。フレイであれば、いい返事が来るであろう。

 
「行先はミカゲが知っている。彼の言った行き先に俺たちが同行する。各精霊の棲み処を巡るようだから、しばらくは旅続きとなるだろう。」


若手騎士には少し過酷かもしれない。まあ、それで根を上げるようなら、我が騎士団には不要だが。それほどの強者しかこの騎士団にはいらない。

 
強烈で苛烈。
国立騎士団の中でも、実力がモノを言う紅炎騎士団。
入団するのも狭き門である。

 
「騎士の人員と割り当てを検討します。」

出来る副団長は、さっそく計画を練るようだ。頼もしい限りである。


「とりあえずは、報告のために王都へ戻るのでしょう?騎士たちも、ミカゲも、休ませましょう。旅となれば準備も必要ですから。」

 
ヴェスターの提案に私は頷いた。
明日の朝にこの駐留地を出発して、王都に着くのは順調であれば4日後の昼頃だろう。ミカゲの体調や道中の魔物との遭遇を加味すると、もう少し日数がかかる。

 
「ミカゲの存在は国に報告しない。皆も内密にするように。」

 
ミカゲの存在は、甘露のように魅惑的で、どこまでも危うい。

精霊と会話ができるという事実だけでも王宮に囲われる。文字通りぼろ雑巾のように使われ、一生幽閉されるだろう。

そして、あの見た目に、魔力量、戦闘能力。
もはや、自分は大変美味な獲物であると、天敵に誇示しているようなものだった。

 

話が落ち着いたところで、ツェルベルトが何気なく言葉を発した。


「そういえば、そのミカゲっていう子は、今どこにいんの?俺も一目会いたいんだけど。」

好奇心を滲ませているツェルベルトに、私は窘めるように言った。

 
「ミカゲは私のテントで休ませている。食事を取った後、疲れて眠ってしまった。しばらくは起きないだろう。」

 
先ほど疲れて寝たばかりだ。人の気配を察知してミカゲが起きては可哀そうだろう。ミカゲのいるテントには、なるべく人を近づけさせたくなかった。

 
「へぇー。……って、んえっ?」

ツェルベルトは耳を疑ったように、私のほうをガバッと二度見してきた。信じられないというように、口をぽっかり空けている。


何をそんなに驚いているのか……。

 
「そうなのですよ。ツェルベルト。昨日ミカゲを保護したときに、医務幕に寝かせるように言ったのに、団長は頑なに彼を離そうとしないんです。」

 
病人や怪我人は医務幕という専用のテントに寝かせる。患者の容体が急変しても、軍医が即時に対応できるようにするためだ。
医務幕は、ベッドが複数設置されていて、もちろん個室は無いし、姿を隠す仕切りも無い。

 
少し怒ったような口調で、ヴェスターは俺をチラリと見ながら、ツェルベルトに文句を言った。

ミカゲとどうしても離れたくなくて、ヒューズに頼んで簡易ベットをもう一つテントに用意させたのだ。
ミカゲを寝せたベッドの向かいに、机を挟んで設置してもらった。


「ミカゲを野獣の中に放り込めるか!ただでさえ、騎士団連中は狼なんだぞ。」

 
複数の相部屋にミカゲを寝かせれば、涎を垂らした騎士団員に襲われかねない。

まあ、ミカゲの実力なら返り討ちにできるだろうが、いかんせん優しいため、団員に怪我をさせることは躊躇ってしまうだろう。

 
それに、私もミカゲの身体を全て見ていないというのに、他の者に先を越されるなど言語道断だ。
あどけない寝顔をさえも誰にも見せたくない。
私の独占欲でもある。

 
「おや。団長ともあろう御方が、珍しいですね。」

揶揄うような声音でヒューズが口角を上げてニヤリと笑った。この男は俺のことを幼少期から知っているからか、居心地が悪い。

私が恋愛なんぞ全く興味がなかったことを、一番近くにいたこの男は見てきている。そして、今までにない独占欲を見せる私に、ヒューズは私の想いを感じ取っているのだろう。

目元をゆるりと細めて面白がっているのが分かる。

クソっ。
事実であるがゆえに、なにも言えないではないか。

 
「……まあ、気持ちは分かりますよ。なんとも不思議な魅力のある青年でしたし。でも、逆に団長と同じテントでは危ないのでは?」

 
ヴェスターもミカゲを魅力的と感じていたか。
その危険という言葉は、ミカゲの体調が急変したときだけを意味するものではないだろう。

なにげに、この穏やか軍医も楽しんでいないか?

 
「そんなことは……。ない。」

 
……たぶん。
ただ、私も男だからな。
ミカゲに誘われたら断れない。
というか、断る気も全くない。
据え膳食わぬは何とやら。


「のちほど、彼を診察に行きますので。……団長、くれぐれも変なことをしないでくださいね。」

それでは、と言ってヴェスターはテントを出ていった。ヴェスターもいつになく、患者を気にかけている。
本人は無意識で、気が付いていないようだが……。

 
「じゃあ、オレも仕事に戻るとしますか!」

ツェルベルトが出ていき、男二人だけとなったテント内で、副団長のヒューズに俺は伝える。

 
「すまないな。いつもヒューズには苦労をかける。」

ヒューズは俺の腹心でもあり、間違いを正してくれる忠臣でもある。
いつも憎まれ役や、貧乏くじになってしまうのは彼だ。


「そう思うなら、少しは腰を落ち着けてください。……まあ、無理でしょうけど。」

ヒューズはそう苦笑すると、部下たちの様子を見にテントを出ていった。

 
全く。私の忠臣たちは、どいつもこいつも手厳しい。私に全然甘くない。

まあ、そうでなければ、おもしろくない。

 
円卓に置いた砂時計は、さらさらと規則正しく砂を下に落としている。私はその砂時計を指先で突いて、コトリと横に倒した。


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