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第六章 最後の精霊の棲み処へ
噂をすれば (スフェンside)
(スフェンside)
ミカゲたちの無事を確認して、私たちは石畳の廊下を突き進み古びた木製の扉を開けた。
扉を開けた先は、より一層仄暗い。
そして、先が見えない長い廊下。装飾が施された壁は所々朽ちていて、何かの紋章をあしらったタペストリーは、下半分がビリビリに破れていた。
絵画や彫刻も置かれていた跡があるが、どれも壊れていたり、汚れて黒くなっている。
さしずめ、廃城といったところか。
カビやホコリ臭く、じめじめと湿って淀んだ空気。
血肉の腐った鼻にこびり付く匂い。金属が床で削られる、ガガガっという音が不気味に複数聞こえてくる。
カクカクっと骨同士が軋み合う音。
金属の鎧を身に纏い、ある者は剣を手に持っている。他にも槍や斧を手に、ゆっくりと、黒く落ち窪んだ目をして彷徨っていた。
……まあ、眼球などないから、どこを見ているのか知らないが。
廃城の騎士は骸骨だった。
「………誰だ。アンデットなんて名前を出したのは。」
噂をすれば影。本当に憂鬱でならない。
目の前には、数多くの骸骨騎士が彷徨っていた。奥のほうまでぎっしりと。
「団長に作ってもらった風魔法の魔石で、風の膜を発動すれば匂いを感じませんね。」
呑気にヒューズがそんなことを言った。水の中で呼吸が出来るようにと魔法付与したのだが、こんなことにも役に立つのか。早速、魔法を発動した。
おお、これなら難なく戦える。
「めっちゃ便利じゃん。ミント液だと、効果が長続きしないからさー。」
ツェルベルトが言ったミント液とは、鼻の下につける香料だ。強烈に爽やかなミントの香りで、腐敗臭を誤魔化すというもの。効果はせいぜい2時間。
二人はこの光景を、なんとものんびりと見ていた。
今のところ、骸骨騎士たちは俺たちに気が付いていない。大きな動作をしない限りは、こちらに気が付かないようだ。
「………最短で抜ける。」
「はい。」
「ほい。」
短い返事が聞こえたところで、剣を鞘から抜き出すと同時に、俺たちは骸骨騎士団の群れに突っ込んだ。
一斉に骸骨騎士たちの顔が、こちらを向く。威嚇するように頭の骨をカクカクっと小刻みに揺らし、歯しかない顎を大きく開けた。
骸骨騎士たちが骨の腕に武器を構える。こちらに武器を向ける前に私は剣で骸骨の身体を砕き、さっさと走り抜けた。
剣で骸骨騎士を薙ぎ倒しながら、私は不思議なことに気が付いた。
骸骨の攻略方法は、魔法で粉々に粉砕するか、剣などで身体の一部を砕き、動きが鈍くなったところをすり抜けるかのどちらかだ。
粉々に粉砕しなければ永遠に再生する。
光魔法を剣に纏わせて砕くと、再生しなくなる。俺も光魔法は使えるが、これは治癒魔法を使うために取っておきたい。
だから、物理的に砕いて通り抜けて行く作戦だったのだが……。
「団長の剣、一撃で骸骨粉砕してるし、再生しないじゃん!ずるくない?!」
後ろから「ずるい、ずるい」と文句を言うツェルの声が聞こえた。
そうなのだ。骸骨の一部を砕こうと剣を当てると、その瞬間に細かな灰色の粒子になって骸骨が消える。そして、蘇るはずなのに再生しない。
もはや、この部屋では無敵状態ではないか?
試しに良い方法を思いついた。もう、この骸骨の群れを相手にするのも面倒だ。
私は深い蒼色と、金銀に輝く己の剣に風魔法を纏わせる。剣に薄緑色の風がヒュンっと下から上に巻き起こる。両手で剣を構え、切っ先を地面に向けて剣を突き刺した。
「吹き飛ばせ」
突き刺した瞬間、剣を中心に激しい爆風がぶわりっと一気に広がった。その風には金色の光の粒子が混じっている。
風は私たちを包囲していた、骸骨騎士を壁へと強く打ち付ける。骨や鎧が壁に当たりガシャンっ、という鈍い音がそこかしこから聞こえた。
壁に打ちつけられた骸骨騎士たちは、金色の光粒子に触れると砂のようにサラサラと消えていく。
風全体に光粒子が混じっているため、風を受けた骸骨騎士は全員灰色の砂になった。
「……暴れるときは、言ってください。俺も粉々になるところでした。」
木魔法で作り上げた強固な土の壁を解きながら、「もうっ。」とヒューズがため息を零した。
「ほんとだよねー。団長の風魔法えげつないー。あ、骸骨いなくなった。」
ヒューズの後ろからひょっこりとツェルベルトが顔を出す。ちゃっかり、ヒューズの作った土壁を盾にしていたな。
「それにしても、本当に良い剣ですね。美しく力強い。……その剣、何となくですが、ミカゲの浄化の風に似たものを感じます。」
まじまじと私の長剣を見ながら、ヒューズは興味深げにつぶやいた。
自分自身でも、あのミカゲの清らかな浄化の力が、この剣に宿っていると思う。実際に邪気の濃い場所で剣を振るうと、ミカゲほどではないが狭い範囲の浄化ができた。
俺に与えられた、新たな力だ。
壁際には古びた金属の鎧が、ところ狭しと重なっている廊下を、俺たちはスタスタと進んだ。
廊下を歩き続けると、奥にひと際大きな扉を見つける。天井まで届くのではないかと言うほど大きな扉、装飾も凝っていて色褪せても輝く金色の細工がしてある。重厚な赤色の扉。
「……玉座の間か……。」
心底、入りたくない。でも、行くしかない。
全く気が乗らない中、私は重厚な扉を開けたのだった。
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