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第7章 乙女ゲームのシナリオが少しずつ動き出す
魔王の誕生秘話、哀しい記憶
しおりを挟む「『……魔王を生み出したのは、他でもない。この王国自身だ……。魔王は、王国の大罪であり、呪いは王国に科せられた罰である』」
俺とエストは言葉を発する言葉出来ず、強張った静寂が空間を支配した。自分の頭の中で、もう一度大賢者の言葉を反芻する。
魔王を生み出したのは、このオルトロス国自身。
復活と封印が繰り返される呪いは、魔王を生み出したことへの罰。
俺たちが脳内に記すことが出来るようにと、大賢者はゆっくりと落ち着いた声音で話始める。
「『……私は魔王がまだ、人間だったときのことを知ってる』」
「『っ?!……人間だった……?』」
驚いて出た俺の言葉に、大賢者は頷いた。
魔王の過去については、乙女ゲームの攻略本にも一切記載がなかった。
なぜなら、魔王は乙女ゲーム内では、攻略対象者たちと主人公を結びつけるトリガーにしか過ぎないからだ。倒すべき敵であるだけ。
あくまでも、乙女ゲームは攻略対象者と恋愛をして成就されることがクリアとされているから、攻略のスパイスである魔王はそこまで重要ではない。
書いてあったのも、魔王の弱点や攻撃方法だけだった。
魔王が人間だったなんて、俺にとっても新事実である。
「『彼は心穏やかで、恋人を想う至って普通の青年だった。……常人よりも、魔力量が多かったことを除いては、な……』」
銀色の瞳に、暗く哀し気な影が落ちる。テーブルの上に組まれた、大賢者の両手が強張って僅かに震えたのが見えた。
そこから、大賢者は努めて落ち着いた口調で説明を続けた。
「『少し、昔の歴史について話そうか。学生諸君の勉強も兼ねてね?』」
大賢者曰く、当時は他国との小競り合いが絶えない、戦いの多い時代だったそうだ。
当時の国王は特に好戦的で、頻繁に隣国へ戦いを仕向け、戦果を挙げて領地を広げようと企てていた。王位に就いてから数年間というもの、ずっと近隣諸国と戦いをしていたそうだ。
ふと、大賢者はエストへと視線を移した。先生が生徒に質問するような口調で、エストに問いかける。
「『……そんな頻繁に、しかも何年にも渡って戦いをしていたら、一体何が起こると思う?』」
「『……兵力の減少だ。戦いに赴く兵士が足りなくなる』」
正解というように、優雅に大賢者が頷く。
兵力は無限に沸くわけではない。
当然、長く戦いをしていれば負傷者が出るのは避けられないし、場合によっては死人も出るだろう。戦闘に長けた者たちが優先的に戦場へ駆り出されるのが普通だ。
数多の戦士や騎士たちが、幾人も戦場で散っていったのだと、大賢者は語った。
すると、必然的に戦える者が少なくなっていく。大国であったこのオルトロス国も、深刻な兵士不足に陥った。
「『国内にいるのは、武器もろくに握ったことのない、一般人たちだけとなった』」
いくら戦闘訓練をしたところで、長年鍛え上げられた戦士には程遠い。それでも、人数が居れば数の力で敵国に勝てるかもしれないが、同時に多くの犠牲者が出ることは明白だった。
なによりも、これ以上国民を兵士に登用すれば、国力が下がるところまで追いつめられていた。
「『それならば、戦いを止めれば良いものを……。国王は止めようとはしなかった』」
名声と権力にまみれ、侵略した国から富を強奪することに、蜜のように甘い愉悦を感じていた欲深い王は、戦いを止めたくなどなかった。
そのとき、国王はある秘策を思いつく。
武力を持たない凡人を、すぐに歴戦の戦士に仕立て上げる秘策を。
それは、まさに悪魔の所業。
「『……ただの一般人に、戦士たちの死霊を定着させ、即席の戦士を作ることにしたのだ……』」
「『っな……?!死者を魔法に使うのは禁忌のはず……。なおかつ、生きた人間に死霊の定着をするなんて、気が狂っているとしか……!』」
エストが驚愕のあまり、テーブルから身を乗り出した。ガチャンっと食器達がぶつかり合う、悲痛な音が耳をつんざく。
大賢者が視線だけでエストを咎める。驚愕に瞳を震わせたままのエストは、咎められたまま椅子に座り直した。
「『……あまりにも、危険すぎる……』」
俺の呟きに、エストも頷いた。
魔法には、禁忌とされているものが幾つか存在する。その中でも特に死者に関わる魔法は、別格だった。
魔法の師であるアイトリアからも教わり、学園の授業でも必ずこの件は教えられる。それほどまでに危険視されているのだ。
死者に関わる魔法が禁忌とされる理由は、2つ。
1つ目は、何が起こるか全く予想が出来ないこと。
2つ目は、その魔法の使用時に、強烈な瘴気が発生するからだ。
この発生した瘴気は、人体や魔物たちに悪影響を及ぼす。人間は狂人に変わり、強い瘴気に当てられれば死に至る。
魔物は、瘴気を体内に取り込み狂暴化する。
過去には死者となった恋人を蘇らせようと試みて、おぞましい新種のアンデットを生み出してしまった魔導師もいる。
その魔導師も、あまりにも強い瘴気に死亡した。
「『……その昔、王家が秘密裏に匿っていた魔導師集団がいたんだ。彼らの魔法は実に特徴的だった。……死霊を扱うのさ』」
死霊とは、未練があってこの世に残ってしまっている魂のこと。当然ながら、負の存在だ。それを扱うとなれば、魔導師自体もただでは済まないはず……。
何故かは知らないが、その集団は不思議と瘴気の影響を一切受けなかった。そう、大賢者は言った。
『王家が彼らを匿っていた理由は、『不老不死』という、国王のおぞましい欲望を叶えるためだった」
富と名声を欲しいままにした国王が、最終的に恐れたのが、どの人間にも必ず訪れる『死』だったらしい。
王家によって徹底的に秘匿されていた組織に、大賢者が気付いたのは魔王が誕生した後だという。
「『……魔力が多かった彼は、その実験体に選ばれた。実験に参加すれば、病弱な妹の治療費を国が支払うと言われてな……。当然ながら、生きた人間に死霊たちを定着させるなんて、上手くいくはずが無かった……』」
大賢者の両拳がぎゅっと音が鳴るほどに握りしめられていた。
「『彼自身の魂は、身体に入り込んだ死霊たちに追いやられた。……身体だけが不老不死となり、戦いを求める死霊がその身体を支配したんだ』」
魔王が何百年と姿を変えない理由が、死霊に身体を支配されたためだった。
「『……そうして出来上がったのが、人間を襲う事だけを目的とした意志のない存在、魔王だ』」
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