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第7章 乙女ゲームのシナリオが少しずつ動き出す

星空の部屋、2人の黒い微笑みが怖い

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「『彼自身の魂は、身体に入り込んだ死霊たちに追いやられた。……身体だけが不老不死となり、戦いを求める死霊がその身体を支配したんだ』」

魔王が何百年と姿を変えない理由が、死霊に身体を支配されたためだった。


「『……そうして出来上がったのが、人間を襲う事だけを目的とした意志のない存在、魔王だ』」


まるで、人間を殺せと命令された人形のように。
朽ちることのない身体は、元から彼に宿っていた膨大な魔力と、死霊たちの魔力が合わさり、常人では太刀打ちできないほどの脅威になってしまった。


魔王の復活が近づくにつれて、なぜ国内の魔物が狂暴化していくのか。それは、魔王の身体を支配する死霊たちが放つ瘴気が魔物を狂わせるからだ。


「『……国随一の実力者が集められ魔王討伐を命じられた。……しかし、魔王があまりにも強く、封印するのが精一杯だった。将来必ず封印が解けると分かりながらも……。それしか、出来なかった』

そこで、大賢者は疲れたようにふうっと息を吐いた。その長い指先でティーカップを優雅に持ち上げ、紅茶を飲む。


『ここまでが、魔王の誕生と封印までの歴史だ』

お茶が冷めていると言って、大賢者が指を鳴らした。途端に、3人の目の前にあるティーカップから湯気が立ち昇る。

冷え切っていた紅茶が、暖かさを取り戻したのを見て、意図せず詰めていた息をホッと吐いていた。

ぞくりと冷えていた心と身体には、温かな紅茶が染み渡るようだった。


「『私は魔王討伐後に星読みをして、魔王は永遠と復活と封印を繰り返すことに気が付いた……。だから、復活をおおよそ予測できる『予言の書』を生み出したのだ』」


大賢者はテーブルに右肘をつくと、そのまま手の平を宙へと差し出した。周りの小さな星たちが反応して、手の平に吸い込まれるように渦を巻く。

大賢者の手の平には、銀色の輝きを放つ砂がさらさらと何かを形成し出す。やがて渦が治まると、大賢者の手の平には一冊の赤色の本が生み出されていた。


「『君たちが初めてだよ。この『予言の書』の部屋に導けたのはね……。感応性が高いのか、私の色を濃く映した子孫がいたからなのか……。それとも____ 』」

言葉はそこで途絶えた。ふと切れ長の大賢者の瞳が、俺を捕らえた。懐かしむような、それでいて切なげに銀色の瞳が揺れた。


「『……ヒズミ、君は人間だったころの彼に似ている。……君のように、清らかで美しい存在だった。君とこうして向かい合っていると、彼と話をしているようだ……』」

大賢者は力無く、ふっと俺に微笑んだ。星の瞳は、俺を見ているようで、別の誰かの面影を映しているようだった。


しばらく経って視線を俺から逸した大賢者が、エストへと向き直る。


「『___頑張りなさい、私の子孫。今代の英傑たちは歴代でも最強に近い。……お前たちならば、この長い魔王の復活と封印の物語を終えれるかもしれない』」

大賢者は右手に持っていた『予言の書』を、エストに差し出した。


「『……はい』」

『予言の書』を受け取ったエストは、神妙な面持ちで頷いた。重い空気を換えようというように、大賢者が少し明るい声で話かける。


「『予言の書』は、聞かれたことについて答える書物だ。知りたいことがあれば、本に質問しながら魔力を流しなさい。……そうすれば、必ず答えてくれる」

ちなみに、この『予言の書』は英傑たちの魔力か、聖女の魔力でなければ反応しないらしい。


「『……さて、ヒズミにエストレイア。私の自慢の空間を楽しんでくれ。……大丈夫、ここは外と隔絶された世界。時間の流れも、こちらの1時間が現実世界では10分だ』」

お茶にお菓子、それに美しい星空。

その星たちが形成する美しい空間をぜひ2人で楽しんでほしいと言い、大賢者はクスっと笑った。まるで、子供が自分の大好きなものを見せているような、はしゃいだ姿だ。


「『星空の中、お茶会を楽しんでくれ』」

大賢者は、空間のあちこちを案内してくれた。大賢者が指を鳴らすと、何処からともなくドアが現れて、別の部屋へと繋がっていく。

温室のような部屋で三日月の形をした実が生る木を見せてくれたり、書斎で星読みの仕方を教わったり。さらには、過去に大賢者が開発した魔道具の隠し場所まで教えてくれた。


それを聞いたエストは目を丸くして、「そんな危険なものを、我が家に隠していたなんて……。後で調べないと……」と溜息をついていた。


「『そうだ。ヒズミにはこれをあげよう』」

そう言って、大賢者は書斎の本棚から小さな木箱を取り出した。片手に納まるほど小さな木箱を開けると、中には金色の細いチェーンが巻かれた4つの透明な球体が入っていた。

飴玉ほどの大きさだろうか。


「『……これは……?』」

「『人から魔力を汲み上げ、この中に保管できる魔道具だ。名前は『星喰いのかけら』。……君には、いずれ必要になるかもしれない』」

お礼を言って素直に受け取ると、大賢者はそっと耳打ちして俺に使い方を教えてくれた。


「っ?! …… 」

『星喰いのかけら』の予想外の使用方法に、俺は驚いて固まってしまった。乙女ゲームだから、確かに有りがちではあるんだが……。


……使い方が恥ずかしいというか……。
うん、これは完全に緊急用だな。


俺が気恥ずかしくて無言になると、大賢者は堪えきれないとばかりにクスクスと笑って離れていった。そして、少し離れて俺たちの様子を眺めていたエストへと、大賢者は楽しそうに近づいていく。

同じ色を持つ、銀色の貴公子たちが何やらひそひそと話をしているのが、視界の端に見えた。


「『……ライバルは手強そうだな?しっかりと練り上げて、愛しい人には悟られずに囲って堕としなさい。……我が一族の得意分野だろ?」

「『……貴方に言われなくても。そのつもりです』」


何やら物騒な言葉が聞こえた気がしたが、気のせいだっただろうか?似た顔の2人が、お互いに黒色の笑みを浮かべて微笑み合っていた。






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