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第五章 それぞれの想い
契約魔法
「……レイル。お前が強硬手段に出たのは、これが理由か。……そして、我が国の穢れを払おうとしていた聖魔術は、彼が施してくれていたのだな……。」
第一王子の呟きに、レイルが答える様子はない。そんな警戒しきっている僕たちの様子を見遣りながら、第一王子はなおも言葉を続けた。
「……暗黒魔術と聖魔術、両方を扱える人間などありえない。生と死を同時に司るようなものだ。……それこそ世界を掌握できるだろう。どの国も喉から手が出るほどに欲しい存在になる。」
その言葉を聞いた瞬間、レイルの雰囲気が張りつめた。背中にいる僕にさえも伝わるほど、鋭利な刃物を思わせる殺気を放っている。
「……サエは渡さない。」
第一王子はレイルの言葉に、肩を竦めた。
「落ち着けレイル。私は欲しいなどと言っていない。……王に知られる前に、私が知れて良かったよ……。」
そう言った第一王子は、後方にいる騎士と隣にいる暗殺部隊隊長に向けて声を張り上げた。
「……総員、武器を降ろせ!」
第一王子の言葉に、騎士たちが全員息を飲む声が聞こえた。騎士の中には、躊躇ってどよめきが沸き上がった。
「しかし……。」
「聞こえなかったか。総員、武器を降ろせ。戦闘態勢を解けと言っている。」
今度は有無を言わさない口調で、第一王子が騎士たちに命令した。騎士たちは困惑しながらも、武器を降ろしていく。第一王子は全員が武器を降ろしたのを確認すると、僕たちに向き直った。
「……レイル、話をしよう。その危うい少年をどうにかするために、レイルは動いているのだろう?……私にも何かできるかもしれない。それに……。」
第一王子はそこで言葉を切ると、レイルをひたりと見据えた。レイルを見る第一王子の目には、どこか親し気な雰囲気が伺える。
「私は、大切な友人を殺したくはないんだよ。」
レイルのことを『大切な友人』と言って、目を細めている第一王子。
第一王子は腰に下げていた長剣を地面に置くと、騎士たちとは離れた場所で話そうと提案してきた。第一王子の近くには、ずっと精霊たちがぽわぽわと浮いている。
どうやら、第一王子は精霊に愛されているようだ。
……悪い人ではないのだと思う。
「……レイル、話だけでもしよう?」
レイルの服の裾を引っ張って、僕はレイルを見た。未だに警戒の姿勢を解くことはないレイルが驚きの声を上げる。
「っ?!サエ……?」
「どのみち、僕たちだけでは限界かもしれない……。次の目的地がロイラック王国の領地なんだ……。」
そう、次の目的地である泉はロイラック王国内にある。僕は危険をおかして、もう一度あの腐敗した国に戻らなければならない。
それに、今の状況は非常に良くない。
レイルは本調子ではないし、大勢の騎士を相手にするのは分が悪すぎる。運よくこの場を逃げ切れたとしても、僕たちはまた追われる身になるだけだ。
それなら、ここで一度詳しく話をして、味方に付いてもらえないか相談しよう。これは大きな賭けだ。
でも、少なくとも目の前にいる第一王子は、レイルを殺したくないと言ってくれている。少しの希望に、縋りつくしかない。
僕は一歩、レイルの前に出た。
「サエ!」
レイルの制止の言葉を無視しながら、僕は第一王子をまっすぐと見つめる。フードを取って第一王子に向き合った。第一王子は僕を見ると、一瞬驚いたように目を見張った。
「……あの、僕はサエと言います。ラディウス国の暗黒魔術の魔石は、僕が作りました。……でも、僕は暗黒魔術を消滅させる術を知っています。消滅の鍵となる、聖魔術も使用できます。」
そこで一度、僕は言葉を切った。目の前の第一王子は今の話で、僕にどれだけの価値を見出だしてくれるだろうか。
「……もし、僕たちに協力してくれるのなら、貴方たちの国に蔓延っている穢れを消滅させてみせます。だから……。」
今の僕に、皆を守る術はこれしかなかった。
僕のことを、聖魔術の扱える貴重な人材として価値を見出してくれているのなら……。
「3人にも、レイルにも危害を加えないと約束してください。」
「サエ!だめだ!」
レイル怒号に近い声は無視した。
だって、僕の一番怖いことは自分自身が死ぬことじゃない。
僕のせいで、大切な人たちが死ぬことだ。
「……心までも美しいのか……。……分かった。君たちに危害は加えないと約束しよう。そして、君たちと話は一切口外しないと約束する。」
そう言った第一王子は、右腰に下げていた小さな革鞄に手を突っ込んだ。そして、羽根つきペンを取り出すと宙にペンで何かを書き始めた。
ペン先からは青色の光が出ていて、第一王子は僕たちと自分の間の空間に、魔法陣を描いていく。
「……これは、契約魔法の魔法陣だ。君たちに危害を加えないこと、話を漏洩しないことを私の真名で縛る。後ろの騎士たちも同様にな。……レイルなら、この魔法陣に偽りがないと分かるだろう?」
レイルは、剣を構えたまま静かに頷いた。そっと、レイルが歩み寄って近づき、魔法陣に触れる。魔法陣は一度青く点滅すると、静かに消えていった。
そこでやっと、レイルが戦闘態勢を解いた。
第一王子はレイルが武器を降ろしたことに、安堵のため息を零していた。
「……ふうっ……。まったく、レイルに武器を向けられると生きた心地がしないよ。やっと話が出来そうだ。……サエと言ったね?私は、ラディウス国第一王子、セルカディア・ラディウス。気軽にセルカと呼んで?」
茶目っ気たっぷりにウィンクしてきた第一王子を見て、僕は呆気に取られてしまった。先ほどまでの威厳はどこへやら、今は少しナンパな美青年だ。
レイルの漆黒を思わせる鋭利な美形とは違って、第一王子はいうなれば太陽だろうか。金糸の髪がふわりと風に靡いて、甘いマスクで微笑んでいる。
その微笑は世の女性陣を虜にしてしまうこと請負だ。
甘い微笑に見惚れて呆けていた僕は、レイルにグイっと腕を引っ張られて胸の中に抱き込まれた。目を後ろからレイルの手で隠されてしまって、何も見えない。
「……サエには、近づくな。」
「……おや、残念。レイルのそんな顔、初めて見るよ。じゃあ、冗談はこのくらいにして。真面目な話をしようか。」
第一王子の冗談めいた口調が、後半になって真剣みを帯びていったのが聞こえた。
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