異世界で魔道具にされた僕は、暗殺者に愛される

雨月 良夜

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第六章 決戦の地へ

渓谷の出口、仲間

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崖の上から僕たちに向かって無数の弓矢が、雨のように降り注いできた。聖魔術の白色の結界が弓矢を弾き返す。


キンッ!キンッ!という甲高い音が絶え間なく聞こえた。

弾かれた弓矢が次々と地面へと落ちて行く。弓矢をよく見ると黒色の細長い槍のような形で、地面に落ちてしばらくすると黒煙となって消えて行く。


僕は目の前に広がった血の海で、倒れている男性から目を離すことができないでいた。心臓部分に黒色の弓矢で貫かれた穴が開いている。


まだ、間に合___。


「サエ、もう、間に合わない。……分かるだろ?」

僕の思考を遮るように、レイルの言葉が上から聞こえた。無意識に男性へと伸ばしていた手を、レイルに止められている。そんなことにさえ、自分では気が付かないほどに僕の意識は上の空だったようだ。


レイルは僕を素早く馬に乗せると、自分も騎乗して駆け出した。他の騎士たちも全員が馬に乗って、急いで弓矢の雨を抜けようとしている。

そんな中、騎士の1人が混乱の声を上げていた。


「敵の居場所が分かりません。どうにも探れないんです。まるで、誰もいないのに攻撃をされているような……。」

もし、敵が僕たちのように闇魔法で隠蔽をしているのであれば僕が気付くはずなんだ。暗黒魔術よりも強い闇はないから、隠れていても無駄だ。


弓矢から出た煙が、ぶわりとその場で立ち昇る。僕たちの目の前に漆黒の鎧を着た騎士たちが現れた。ドロリとした暗く重い感情が、何処からともなく溢れ出て谷を覆った。


___悔しい。

なぜ自分たちは命を落とさなければならなかった?
もっと生きていたかった。

__哀しい。仲間をこの手で殺めてしまった。

__家族に会いたい。愛する人達のいる場所に帰りたい。

__憎い。理不尽なこの世が憎い。


怨恨と懺悔、深い哀しみがキシキシと軋む鎧の奥から聞こえてきた。


「……くそっ、死霊か……っ!!」

レイルが苦々し気に発した言葉に、僕は血の気が引いた。気配を感じ取れなかったのは、そもそもこの世の者ではないからだ。


死霊……。亡くなってしまった人の魂。


この身体の芯にまで伝わる嘆きの感情。これは、ここで魔石によって命を奪われたロイラック王国の騎士たちの嘆きだ。


酷い……。
死してもなお、その魂までも弄ぶなんて……!


「……この魔石は死んだ者の魂も操れるのだな。不老不死の騎士なんて無敵ではないか。」

その呟きとともに、渓谷の上から余裕の表情で現れた姿に僕は目を見張った。

それは、僕がロイラック王国で監禁されていた時に、僕のことを見張っていた騎士の男性だった。嫌悪感を隠そうともせず、時折小突かれて僕が転ぶのを顔を醜く歪めて、心底面白がっていた人。


駆けている馬上から見上げると、渓谷の上から見下ろしてくる男性の視線と目が合った。侮蔑の冷たい眼差しを僕に向けると、その後にニヤリと露骨に弧を描くように男性は笑った。

そして、渓谷の出口に向けて勢いよく片手を降ろす。


ドゴォオオーーン!!

大地を震わせる大きな音とともに、黒色の稲妻が出口付近の崖に落雷した。衝撃が凄まじく地震のように地面を揺らす。


「っ!!崖が崩れる!!」

落雷した崖は大きな亀裂が走り、大きな岩となって渓谷の道に振動を与えながら落ちて行く。


「まずい!道が塞がる!このままでは囲われるぞ!!」

出入口を塞ぐように、大きな岩がどんどんと渓谷の隙間を埋めていく。馬の脚では全員間に合いそうにない!!


あと、もう少しなのに……。
あと少しで泉なのに……!!


「エスト!」

「キュ!」

レイルがそう叫ぶと、エストが巨体となって僕たちの横に現れた。レイルは僕の首根っこをの服を掴むと、持ち上げてそのまま馬からエストに飛び移る。


「レイル!双子ちゃんを頼んだわよ!」

そう言ったカレンさんは、一緒に乗っていたステラとシエルの身体を、前方にいる僕たちに向かって放り投げた。僕が手を広げて2人を受け止める。4人を乗せたエストが、狭くなっていく落石が降り注ぐ出口を駆けて行った。


カレンさんや騎士たちの姿が、落石で小さくなってく出口の隙間から見える。


「っ!カレンさんっ!!皆っ!!」

このままでは、僕たち以外の皆が渓谷に取り残されてしまう。必死に名前を呼ぶと、カレンさんは美しい顔に勇ましい笑みを称えた。他の騎士の皆も出口に背を向けている。


「大丈夫よ。早く行きなさい!!」


カレンさんの声が僕たちを鼓舞する声が聞こえた後、ドォォオオン!という大きな音がした。ひと際大きな岩石が落ちて、完全に渓谷の出口を塞ぐ。


エストの後ろ脚を岩が掠めて行った。落石の余韻で土煙が辺りを覆う中、僕たちは風を切って駆けて行く。

大きな岩が塞いだ場所が遠ざかっていくのを、僕はエストの背中から茫然と見ていた。



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