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第六章 決戦の地へ

理不尽、崖

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「俺は、守護石を偶然にも道中で川の中に落として失くしたんだ。……だから、生きているのだと思う……。」


そう言った男性は俯いた。俯く前の男性の顔が、頭から離れない。苦しげで後悔して申し訳無さそうな表情。『生きている』という部分に色々な音が聞こえた。


なぜ、自分だけ生きているのだろう……。


そんな呟きが、今にも聞こえて来そうな音だった。


「……地面に落ちた魔石は、後から来た騎士たちが拾い上げて行った。……あんな悍ましいもの、一体何に使うんだ?」

男性は、騎士たちがその状況に驚きもせずに魔石を拾い上げる様子に、恐ろしい異様さを感じ取ったらしい。岩陰に隠れたまま、しばらく様子を窺がっていたそうだ。


「魔石を拾い上げた騎士たちは、何も言わずに渓谷を抜けて行った。……そう言えば、騎士たちの中に1人貴族みたいなやつがいたな……。そいつは騎士服を着ていなくてすぐに分かったよ。」


随分と偉そうに騎士たちに指示を出していて、印象に残っていたと言う。貴族男性はフードを被っていて顔までは確認できなかったそうだ。


「……その貴族は確かこう言っていた……。『十分な魔力を収集できた』って……。」

魔力を収集した……。
生き物の源でもある魔力を、暗黒魔術の施された魔石の呪いによって吸収したというのか……。


なんだろう。胸騒ぎがする。
ロイラック王国は一体、何を企んでいる??


男性はそこまで話をすると、拘束されている手の拳を固く握りしめた。爪を食い込ませんばかりに力を入れて、わなわなと震わせている。


「……俺たちは好きで騎士になったんじゃない。ただ、穏やかに生活したかっただけだ。家族を守るはずだったのに……。戦わずして命を失うなんて、俺たちは何のために騎士にさせられたんだ……っ!」

顔を悔しさに歪ませ嗚咽を漏らすように、絞り出された男性の言葉は静かな渓谷に響き渡った。落涙が冷たく固い地面に滲んでいく。

身を屈めながら、男性は顔だけを上げて僕たちに言った。


「……あんたたちは、ラディウス国の人間だろ?……もう、この国は腐りきっている……。お願いだ。この国を壊してくれ……。あの王なんていらない。もう、俺はあんな理不尽に故郷の仲間を失いたくねぇ……!」

血を吐くかのごとく、苦し気に発せられた呻き声。その声には理不尽に対する悔しさが滲み、仲間を失った大きな哀しみが零れていた。

そして、この国に対する諦めと激しい怒り。


そのあらゆる感情が綯い交ぜになった、複雑で苦痛を伴った声音は、僕の胸をキリキリと引き絞って息を出来なくさせた。胸が両手で潰され、さらに潰された心臓を絞り切られたような、詰まって苦しい痛み。


「……お前はここで解放する。このコートを着ていけ。騎士服だとラディウス国の騎士に襲撃されるぞ。」

「……ありがっ___」


そこで、男性の声は不自然に途絶える。


ヒュンっと、風を切る音がした。
それと同時に、赤い液体が僕の頬をつぅーと伝っていく。


「……えっ………?」

先ほどまで膝立ちになっていた男性が大きく咽た。目を大きく見開き、口からは大量の鮮血が滴る。顎まで流れ出たそれは、地面に鮮やかなシミを作っていった。


「ち…、く、……しょ…ぅ」

涙を流した男性は、その最後を一言に地面へと倒れ込んだ。その動きが妙にスローモーションに見えて、僕の記憶へと鮮明に刻まれていく。

男性の胸には弓矢が刺さり、騎士服の背中には鮮血のシミが広がっていった。ピクリとも動かなくなってしまった。


「っ?!!!!」


キンッ!という硬い音が聞こえた後、騎士たちに渡していた聖魔術の魔石が反応し結界が発動していた。


「敵かっ!!」

「気配もなかった!索敵にも引っ掛かってないのに!!」


崖の上から僕たちに向かって無数の弓矢が、雨のように降り注いできた。


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