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第三章『魅了H。駆出し淫魔は大悪魔に誘惑され、黒い天使は嫉妬する』
第五十五話「シトラスとミカエリの過去(前編)」
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まだ幼少の時のこと。
我──幼い『私』は、天界での生活に退屈していた。
人間界でいう学校のような場所で、ミカエリと一緒に高位の天使になるための授業を受けていた。
目線の先、真面目の塊みたいな天使長が、堅苦しく説明する。
「皆さん、よい天使になる為、今日も人間を正しく導いていきましょう。今日は下界監査の日です。人間界に降りて悪い人間……罪びとを摘発し、天使長へ報告するのです」
週に一度の下界監査の日。
私はその日だけが生き甲斐だった。
「……シトラス、顔がにやけていますよ」
隣の席でミカエリが耳打ちする。
「当たり前だよっ! 天界なんて、みんな堅苦しくて、遊ぶものもなにもなくて退屈。でも人間界はなんでもあるし、みんな好き放題してる!」
「それは違いますよ。天界は退屈ではなく、統制されているのです。一方、人間達まだ未熟。世界は混沌とし、罪や過ちを繰り返している。だから、私たち天使は、彼らを正しく導く必要があるのです」
「正しくって、何? こんな決まりきった毎日、決まりきった行動、決まりきった生活をずっと続けていくのが、正しいってことなの?」
「そ、それは……」
「そこの二人、私語は慎みなさい。それとシトラス、最近の貴方の態度は目に余ります。罰として、今日は一〇〇〇〇人、罪を犯している人間を摘発するのです。それが果たされるまで、帰ってはなりません」
「はいはい……」
「はいは一度! そして相手に誠意が伝わるよう元気よく!」
「…………」
それも何百回と聞いた。
天使長も毎度飽きないな。
私は無視して部屋を出ていく。
「あ、シトラス待ちなさいっ。貴方だけじゃ不安だから、私が監視してあげます」
「……ありがと」
ミカエリは他の天使と同様、堅苦しいけど、私が不満を漏らしても無視したりせず怒ってくれる、友達だった。
◆
「今日も楽しそうね、人間界は」
私は純白の羽をめいっぱい広げて、青い空の下を駆け回る。
人間達に私たちの姿は見えないから、驚かれることもない。
「そんなことより、早く一〇〇〇〇人の罪人を報告しないと……。あ、そこの人間、ゴミをポイ捨てしてる」
「はぁ……この調子じゃあ日が暮れるまでにすぐ終わりそうね」
下界監査。
人間界へ下り、悪いことをしている人間を摘発。
摘発された人間は、天使長経由で神に申告され、天罰を受ける。
天罰と言っても、ちょっと運が悪くなったり、病気になったり寿命が縮んだりと様々。
もちろん、人を傷つけたり物を盗んだりとか、そういうのはダメだけど。
子供が夜遅くまで遊んでるだとか、先生の言いつけを守らないとか、未成年が性的なコンテンツを見てるとか、くだらないモノばかり。
「いいなぁ。人間は、好きなことを好き放題できて」
そんな時、人気のない河川敷の高架下で、妙な光景を見つけた。
『はぁっ……。んっ。こんなところで……』
『俺、もう我慢できない……。家だと親がいるし、未成年だからホテルに入れないし』
「うっわ……」
ミカエリが顔を真っ赤にして目を逸らす。
同じ衣服に身を包んだ若い男女が、隠れるようにして抱き合っている。
そのまま服を脱ぎ始めると、その場で重なり合った。
『はぁっ……すごいっ、気持ちいいよっ』
『はぁっ……私、もおっ』
これが、私が初めて見た、人間の性行為だった。
我──幼い『私』は、天界での生活に退屈していた。
人間界でいう学校のような場所で、ミカエリと一緒に高位の天使になるための授業を受けていた。
目線の先、真面目の塊みたいな天使長が、堅苦しく説明する。
「皆さん、よい天使になる為、今日も人間を正しく導いていきましょう。今日は下界監査の日です。人間界に降りて悪い人間……罪びとを摘発し、天使長へ報告するのです」
週に一度の下界監査の日。
私はその日だけが生き甲斐だった。
「……シトラス、顔がにやけていますよ」
隣の席でミカエリが耳打ちする。
「当たり前だよっ! 天界なんて、みんな堅苦しくて、遊ぶものもなにもなくて退屈。でも人間界はなんでもあるし、みんな好き放題してる!」
「それは違いますよ。天界は退屈ではなく、統制されているのです。一方、人間達まだ未熟。世界は混沌とし、罪や過ちを繰り返している。だから、私たち天使は、彼らを正しく導く必要があるのです」
「正しくって、何? こんな決まりきった毎日、決まりきった行動、決まりきった生活をずっと続けていくのが、正しいってことなの?」
「そ、それは……」
「そこの二人、私語は慎みなさい。それとシトラス、最近の貴方の態度は目に余ります。罰として、今日は一〇〇〇〇人、罪を犯している人間を摘発するのです。それが果たされるまで、帰ってはなりません」
「はいはい……」
「はいは一度! そして相手に誠意が伝わるよう元気よく!」
「…………」
それも何百回と聞いた。
天使長も毎度飽きないな。
私は無視して部屋を出ていく。
「あ、シトラス待ちなさいっ。貴方だけじゃ不安だから、私が監視してあげます」
「……ありがと」
ミカエリは他の天使と同様、堅苦しいけど、私が不満を漏らしても無視したりせず怒ってくれる、友達だった。
◆
「今日も楽しそうね、人間界は」
私は純白の羽をめいっぱい広げて、青い空の下を駆け回る。
人間達に私たちの姿は見えないから、驚かれることもない。
「そんなことより、早く一〇〇〇〇人の罪人を報告しないと……。あ、そこの人間、ゴミをポイ捨てしてる」
「はぁ……この調子じゃあ日が暮れるまでにすぐ終わりそうね」
下界監査。
人間界へ下り、悪いことをしている人間を摘発。
摘発された人間は、天使長経由で神に申告され、天罰を受ける。
天罰と言っても、ちょっと運が悪くなったり、病気になったり寿命が縮んだりと様々。
もちろん、人を傷つけたり物を盗んだりとか、そういうのはダメだけど。
子供が夜遅くまで遊んでるだとか、先生の言いつけを守らないとか、未成年が性的なコンテンツを見てるとか、くだらないモノばかり。
「いいなぁ。人間は、好きなことを好き放題できて」
そんな時、人気のない河川敷の高架下で、妙な光景を見つけた。
『はぁっ……。んっ。こんなところで……』
『俺、もう我慢できない……。家だと親がいるし、未成年だからホテルに入れないし』
「うっわ……」
ミカエリが顔を真っ赤にして目を逸らす。
同じ衣服に身を包んだ若い男女が、隠れるようにして抱き合っている。
そのまま服を脱ぎ始めると、その場で重なり合った。
『はぁっ……すごいっ、気持ちいいよっ』
『はぁっ……私、もおっ』
これが、私が初めて見た、人間の性行為だった。
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