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第一章『性なる力に目覚めた勇者!?』

第15話 えっ、王様の前で脱ぐ……?

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「処刑……?」

 ヒミカがオウム返しに反芻すると、背後に立つ騎士達が一斉に動揺した。

「そうじゃ、そうじゃ」

 と、あまりにも朗らかに笑うものだから聞き間違えかと思った……のだが。

「何の関係もない善良な国民を拉致した挙句、勘違い。セントエルディア王国の評判は地に落ちるよなぁ」

(声が、笑っていない?)

「なにより、後先短い老いぼれの貴重な時間を無駄にしおって。今まで甘くしすぎたかの。この世界の危機たる時になんたることじゃ。ワシは恥ずかしい。これはもう、身を切る思いで血の入れ替えをするしかあるまい」

「──っ!」

 ぞわりと、肌が縮み上がるような悪寒が襲う。
 四方を取り囲む騎士達も同様だった。顔を兜で覆っているものの、その内側は恐怖に歪んでいるのがまざまざと伝わってくる。

(この王様、ふざけているようだけどやりかねない。声に冗談や気まぐれが感じられない)

 ヒミカがこのまま否定し続ければ、きっと騎士達は死ぬ。

「……あります」

 押し殺した声はか細く震えて空気に溶けた。

「はて」

 ケタケタと歯を鳴らす笑いがピタリと止まる。

「ヒミカたんはワシに嘘を吐いた、ということかな」

「模様はあります。……ですが! 本当に勇者の証なのか私には分からないんです。紋章なんて直接見たことも、学び舎スクールを中退した私には授業で学ぶこともなかった。本当です! だから──」
 
 ぎゅっとパジャマの裾を握りしめる。

「どうか、直接ご覧になって……確認してください」
 
 言ってしまった。
 
 恥ずかしい。とてつもなく。
 ヒミカしか知らない刻印を誰かに見せてしまうことで、もう一生後戻りできなくなるような、そんな得体のしれない不安。

「いいとも、いいとも」

 二タァ。
 王様はヒミカの態度に満足したように、目を細めて不気味に笑う。

「どれ、見せてごらんなさい」

「……はぁっ。……っ。…………!」
 
 羞恥心を恐怖に震える手で押し殺し、ヒミカは観念したようにパンツをゆっくりと下ろしていく。
 唇と同じ色で彩色された、ハートに王冠を載せたような淫猥な模様が無駄な脂肪の無いお腹と共に露なった。

「ほぅ。ほほほぅ。ほほん」
 
 王様は玉座から転げ落ちそうなくらいに前屈みになりながら首をカクカクしている。
 周囲の騎士達からも、矢のような視線が次々と向けられる。

『本当に証があるぞ』『へその下、あんなところに』
『本物の勇者ってことか?』『ということは魔王もやはり……』
『それにしてもお腹きれいだなぁ。あとちょっとでマ×コ見えそう』

 好奇と性欲に満ちた声の数々。
 舐め回されるような視線には慣れているはずなのに、かつてない屈辱で耳まで赤くしてしまう。

「ありがとう、もう結構じゃよ」

 言い終わるや否や、勢いよく服をもとに戻し、両腕で自身の身体を抱きしめる。

(王様、あんなお爺ちゃんのくせになんてギラついた視線なの)

 目元がたるんで細くなった眼光は、まるで野生のオオカミを思わせる。
 狙った獲物は逃さないといった凶暴さを孕んでいた。

(怖い。何か企んでる顔。早く……早くここから逃げなきゃ!)

 だが、ここは玉座であり王様の腹の中。
 既に捕食されている獲物ヒミカにはどうすることもできない。

「王冠の柄とした剣の模様……。聖剣士だった先代とは形や場所が異なれど、これは間違いないのぉ。ヒミカたんよ、お主の腹に刻まれしは正真正銘の勇者の紋章じゃ」

「そん、な」

 ハッキリと告げられて絶望する。
 
 何かの間違いだと信じたかった。
 けれど、もうここまで来たら勘違いや誰かの仕組んだイタズラなんてことは有り得ない。
 昨夜オナニーした時に現れた淫紋は、勇者が誕生したことを世界全土に告げた証なのだ。

「ええかぇ? 勇者が目覚めたということは、魔王の産声があがったことの裏返しである。ヒミカたんよ、今こそ旅立つのじゃ。世界が災厄に包まれる前に」

「お断りします!」

 たまらず叫ぶ。

「私は冒険者を目指す妹の為にお金を稼ぐ必要があるんです! 例え勇者の証があったとしても、他のことをしている場合ではありません!」

 ユミカの姿が脳裏に浮かぶ。
 きっと今頃、姉がいないことに気付いてうろたえているだろう。

「拒否権はない」

 ばっさりと切り捨てられる。だが、こちらだって譲れない。

「私のジョブは踊り子なんです。魔物と戦ったことも、剣を握ったことさえありません。勇者だと言われても、私には何もできません」

「支給品を」

「はッ!」

 王様がぽつりと呟くと、脇に控えていた騎士が玉座後方にある部屋へと向かう。
 再び足早で戻ってくると、何かを抱えてヒミカの前に差し出した。
 
 高級そうな布に包まれた支給品。
 訳も分からず手に取った。

「なによ、これ」

 それは銅で出来た扇だった。
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