【R-18】踊り子なのに世界を救えと命令されて? ~勇者として魔王を逝(イ)かせる旅に出ます~

湊零

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第一章『性なる力に目覚めた勇者!?』

第16話 人質・脅迫

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「なつかしいのぉ。先代の勇者も、このように銅の剣を支給されたことから始まったという。ヒミカたんは踊り子だから扇じゃ。やはり伝統は大事にせなあかんのぉ」

「銅の扇? ふざけないで! こんなもので魔物を倒せるとでも? 武器屋に売り払った所で、一食分の食事にすらならない!」

 思わず頭に血が昇ってしまい、扇を床に叩きつけた。

「私なんかより、そこで立っている騎士達の方が一〇〇倍役に立ちます。こんな田舎娘に構ってる間に、剣の修行でもさせたらいいんです!」

「ええのか? 王たるワシに逆らっても」

 ギロリ、と睨まれると否応なしに悪寒が全身を駆け巡る。

「……ごめんなさい。言い過ぎました。今までの無礼はお詫びします。だから……だから! 私のことはどうか放っておいて、早く妹の元へ返してください!」

「そんなに妹に会いたいかぇ?」

「当たり前です!」

「ほっほっほ。そうか、そうかぇ」

 くつくつと笑いを堪えきれないような笑みに、ヒミカは最悪の可能性を想像した。

「まさか」

「魔王に立ち向かうのは古来より勇者の役目と決まっておる。このような真似はしたくなかったんじゃが、勇者に蒸発されても困るのでな。無理にでも背中を押すしかあるまいよ」

 ヒミカが入ってきた玉座への扉が開かれ、別の騎士が現れた。

 両腕を縄で縛られ、力なく横たわる少女を担いで。

「ユミカ!? どうして!?」

 ここに居るはずのない、愛しい妹。
 意識が無いのか、いくら呼び掛けても返事がない。

(そういえば、ここに来る時馬車は二台走っていた。私が見てない間にユミカまで連れ去られた?)

「このっ……! ユミカに一体何をしたの!?」

「なぁに。保険の為に連れてきたものの、『お姉ちゃん、お姉ちゃん』と煩くてたまらんかったからのぉ。ちと魔法で眠ってもらっているだけじゃ。今は、な」

 耳まで裂けそうなほど口元を歪ませる王様。
 今すぐにでも飛びかかって細い首を折ってやりたい衝動に駆られたが、妹がまだ生きているという事実がヒミカをなんとか踏み留まらせる。

「さて、選ぶがよい。勇者として魔王を討伐する旅に出るか、王への反逆罪で地下牢獄にぶち込まれるか」

「反逆だなんて……っ。私はどうなってもいい。ユミカだけは」

「もし断れば、妹たんは泡風呂にでも沈んでもらうかの」

「このッ──」

「何度も言っとるが、これはヒミカたんだけの問題ではない。世界の危機であるからのぉ」

 選択肢はなく、問答ですらない。
 使命であり、脅迫。
 
 ここで首を横に振ったら、ヒミカとユミカはもうセントエルディア城から出ることは叶わないだろう。
 娼婦として男を接待する妹の姿を想像したくもなかった。

「…………ました」

「んん? すまんな、ジジイの耳が遠くて。良く聞こえなかったのじゃが」

「わかりました!」

 人生で一番大きな声が出た。

「勇者でも旅でもなんでもするから……っ! だから妹には手を出さないでっ」

 震える声を絞り出し、歯を食いしばって拳を握りしめる。それしかできなかった。
 妹を守ることさえ出来ない不甲斐なさ。
 役立たずの自分が悔しい。

「よくぞ言った。勇者よ」

 仰々しく両手を広げて歓迎の意を表す。

「では、旅の準備として、先輩として少し手解きをしてやろうかの」

「?」

「なに、案ずることはない。ヒミカたんが持つ勇者の力を見せてもらうだけじゃ」

「勇者の力?」

「左様。勇者とはただ証を持つ存在ではない。紋章が【適正センス】の力を大幅に向上させる。覚醒した力で勇者は魔王に立ち向かうのじゃ」

 力の覚醒。
 例えば、剣士なら剣を目に見えぬ速さで振るったり、魔法使いなら一瞬で森を焼き尽くす炎を放てたりするのだろうか。

(じゃあ、私の場合は?)

「ヒミカたんは踊り子じゃからのぉ……んーむ。踊りに込められた魔力が増大していると見た」

「魔力?」

「動きに合わせて光線を放つのか、あるいは踊りを見た相手に精神攻撃するのかは分からんが。どうじゃ? 試しにワシの騎士を翻弄してみい」

 王様が脇に控えていた騎士に顎で命じ、ヒミカの前に立たせる。
 ヒミカと正面で見つめ合う形になった騎士は、突然の命令に少し狼狽えていた。
 体格は大男だが、繊細で生真面目な様子が伺えた。

「ほれ、ほれ。踊ってみなさい」

「そんな、急に言われても」

「冒険者でなくとも、踊りの一つや二つ習得しているじゃろう。遠慮は要らぬ」

 確かに、冒険には何の役にも立たないけど娼館の客相手には効果抜群な【魅惑の舞】を踊ることはできる。

(でもそれって、今ここで目の前の騎士を誘惑しろってこと?)

 王様や他の騎士に囲まれた状況でそんな真似はしたくなかった。
 加えて、ミルキィフラワーの客でもない男性を弄ぶような真似は気が引ける。

「ふむ。あまり老いぼれの余命を無駄にするでないぞ? 勇者とはいえ、全く役に立たないのであれば、ここで死んでもらおうかの」

「ひッ」

「生まれたばかりの勇者が何もせず自ら命を絶ったとすれば、代わりに別の勇者が選ばれるかもしれんしのぉ」

 ギロリと睨めつける視線。一国の王としての圧力。

 早くしろ。言うことを聞かなければ殺す。そう言外に語っていた。

「わかりました、やります!」
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