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第二章『えっ! 踊り子なのに魔物と戦うんですか!?』
第46話 出発、魔界戦線へ
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早朝。ギルド開店前
「おはようヒミカ、もう出発するのか?」
「うん。とりあえず魔王城がある北、タラウフラス地方に向かうつもり」
「ここより先にも、小さな村や町はいくつかある。だが、北に向かうに連れて凶暴な魔物も増えるぞ。Eランクパーティのヒミカは大丈夫か?」
きちっとした制服に身を包んだババロアが、涼し気な表情で眼鏡の奥の瞳を細めている。
昨日、あれだけソファで乱れてたくせに。
「返す言葉もないですね。私は近接タイプじゃないし、ユーマは前衛だけどまだ騎士見習いだからちょっと不安で」
グサリ、と見えない矢が騎士の頭に突き刺さる。
「もちろん、それでも肝心な時に私を守ってくれるので、感謝していますよ」
「わたくしも冒険者でしたら、ヒミカさん達についていってもよかったのでしょうけど」
「ムースちゃん!」
ババロアの背中から、支度を終えたムースが姿を現した。こちらも昨日の今日でぴんぴんしていて、肌もなんだがツヤツヤしているような気がする。
(そういえば、ムースちゃんは何の【適正】なんだろう……)
「ヒミカちゃんとユーマくんって、恋人同士なんでしょ? わたくしはお邪魔虫かと思いまして、てへ♡」
「てへじゃないし! べ、別にユーマとはそんなんじゃないわよ!」
「そんなん……」
いきなり何を言い出すのだろうか、この巨乳受付嬢は。
「え~。わたくしの勘違いでしたか。ざ~んねん」
「安心しろ、ムース。お前にはこの書類の山が相手してくれるぞ。今やギルドも人材不足が深刻だからな」
「がび~ん」
およよ、とあざとさ全開の泣き真似。もちろんババロアには通用しない。
「というわけで、わたくしはヒミカちゃんと一緒には行けません。でも、離れてても友達ですわ。いえ、それ以上かもでしてよ? またわたくしとくんずほぐれつしたくなったら、いつでもアグレ街ギルドにお立ち寄りくださいませ」
「え、ええ。ありがとう、考えておくわ」
目が異様にキラキラしている。魅了はとっくに解けているはずだが……。
「そ・れ・と」
すすい~っと、ムースは滑るようにユーマの真正面に向き合うと、何やら耳打ちした。
「な、なんでしょうか」
『もたもたしてたら、ヒミカちゃん奪われちゃいますよ?』
「え、えっと……」
『わたくしでしたらいいんですけどね。では、頑張って』
「は、はい……?」
「なに? ムースちゃんから何を吹き込まれたの?」
「もしもの時は勇者様を守ってくださいと、そうお願いされました」
「守る……? ふぅん」
理由は分からないけど、はぐらかされたのかな、と思う。
ユーマの表情があまりにも真剣そのものだったから、それ以上追及はできなかなった。
「いつだって、ユーマは私のこと、守ってくれてるじゃない」
「? 何か言いましたか、勇者様」
「なんでもないわ!」
ムースのニマニマした視線が突き刺さるけど無視した。
「どのみち北に向かうなら、魔界戦線に立ち寄るといいだろう」
ババロアが話を戻した。
「魔界戦線?」
「ああ。魔王城の領域と、人間が暮らしている境界地点をそう呼んでいる。魔王城から生み出された魔物を真っ先に食い止める地点であり、多くの騎士や傭兵が集まって防衛線を築いている。二代目魔王が誕生した今、再び魔物の群れが押し寄せるかもしれん」
「なるほど。そこに私達も加わると。でも、大した戦力にならないと思うのだけど」
「いや、目的はもう一つある。あの場所には初代勇者の墓があり、魔界戦線が生まれた理由なんだ」
「勇者の墓、ですか」
まさか同じ勇者として骨を埋めよ、なんて言うつもりだろうか。
「僕、聞いたことあります。墓には、初代勇者が魔王を討伐した時に使った対魔王決戦武具、聖剣【護国】が安置されているんですよね。勇者が逝去して一〇〇年が絶った今もなお聖なる力を宿していて、魔王城へ睨みを利かせているとか」
「その通り。もし聖剣を持ち出すことができるなら、魔物はもちろん、魔王討伐にも活路が見えるかもな」
「うーん、聖遺物である聖剣をあっさり貸してくれるものでしょうか」
「手に入らなかったら……まあ、精々願掛けくらいしとけば何かご利益があるんじゃないか?」
「願掛けって……」
勇者の先輩として、お墓参りくらいはしといた方がいいのかもしれないけど。
「ううん、なんとしてでも貸してもらわなきゃ。私が勇者だって明かせば、きっと──」
覚悟とは裏腹に、胸がちくりと痛む。
ババロアやムースのようなでさえ、最初は懐疑的な目を向けたのだ。
今はこうして信じてくれているし偏見の目もないけど、もう一度打ち明けるのは正直しんどい。
「それについてなんだが、勇者と明かすのは本当に信頼できる相手のみにした方がいいだろうな」
「え、どうしてですか?」
「サブルブ村の件だよ。村長のように、ヴィーヴィルによって感染した人間が紛れ込んでいるかもしれない。もしヒミカが勇者だと分かったら、魔王が手を下す前に殺すだろうな」
そうだった。
魔王は【繁殖】の権能で魔物だろうが人間だろうが見境なく眷属を増やそうとしている。
ヒミカ達が村長の異変に気付けなかったように、何食わぬ顔して近づいてくるかもしれない。
「肝に銘じておきます。身分を明かさなくていいのは、私にとっても都合がいいですし」
きゅっと握りしめた手を胸に寄せたヒミカを見て、ユーマが勢いよく手を上げた。
「勇者様を危険に遭わせるわけにはいきません。いざとなれば、僕が勇者だと名乗り出ます!」
「頼もしいな。まずはその『勇者様』って呼び方を辞めるところから、だが」
「あっ……」
「ふふっ」
「はははっ」
ムースが笑う。ババロアも、柔らかい笑みだった。こんな風に笑うこともできるとは。
(真面目で厳しい人だと思ってたけど、こうして友達なれたなら、裸の付き合いも悪くなかった、かも)
友達。
ミルキィフラワーで働いていた頃は、縁のない言葉だった。
勇者なんて荷が重すぎるし、正直面倒くさいけど、毎日が少し楽しいと感じるようになった。
妹のために世界を救う。そこにムースとババロア加わった。
「む、そろそろ勤務時間か」
「じゃあ、私達も出発しようか」
「世話になった礼だ。途中の村までだが、馬車を手配しよう」
「いいんですか?」
「ああ、ヒミカがクエストの報酬を負けてくれたからな。これくらいお安い御用さ」
「あっ……」
世界を救う勇者なのだ。
もっと図々しく生きてもいいかもしれない。
旅の途中で、ヒミカはまた一つ成長していくのだった。
「おはようヒミカ、もう出発するのか?」
「うん。とりあえず魔王城がある北、タラウフラス地方に向かうつもり」
「ここより先にも、小さな村や町はいくつかある。だが、北に向かうに連れて凶暴な魔物も増えるぞ。Eランクパーティのヒミカは大丈夫か?」
きちっとした制服に身を包んだババロアが、涼し気な表情で眼鏡の奥の瞳を細めている。
昨日、あれだけソファで乱れてたくせに。
「返す言葉もないですね。私は近接タイプじゃないし、ユーマは前衛だけどまだ騎士見習いだからちょっと不安で」
グサリ、と見えない矢が騎士の頭に突き刺さる。
「もちろん、それでも肝心な時に私を守ってくれるので、感謝していますよ」
「わたくしも冒険者でしたら、ヒミカさん達についていってもよかったのでしょうけど」
「ムースちゃん!」
ババロアの背中から、支度を終えたムースが姿を現した。こちらも昨日の今日でぴんぴんしていて、肌もなんだがツヤツヤしているような気がする。
(そういえば、ムースちゃんは何の【適正】なんだろう……)
「ヒミカちゃんとユーマくんって、恋人同士なんでしょ? わたくしはお邪魔虫かと思いまして、てへ♡」
「てへじゃないし! べ、別にユーマとはそんなんじゃないわよ!」
「そんなん……」
いきなり何を言い出すのだろうか、この巨乳受付嬢は。
「え~。わたくしの勘違いでしたか。ざ~んねん」
「安心しろ、ムース。お前にはこの書類の山が相手してくれるぞ。今やギルドも人材不足が深刻だからな」
「がび~ん」
およよ、とあざとさ全開の泣き真似。もちろんババロアには通用しない。
「というわけで、わたくしはヒミカちゃんと一緒には行けません。でも、離れてても友達ですわ。いえ、それ以上かもでしてよ? またわたくしとくんずほぐれつしたくなったら、いつでもアグレ街ギルドにお立ち寄りくださいませ」
「え、ええ。ありがとう、考えておくわ」
目が異様にキラキラしている。魅了はとっくに解けているはずだが……。
「そ・れ・と」
すすい~っと、ムースは滑るようにユーマの真正面に向き合うと、何やら耳打ちした。
「な、なんでしょうか」
『もたもたしてたら、ヒミカちゃん奪われちゃいますよ?』
「え、えっと……」
『わたくしでしたらいいんですけどね。では、頑張って』
「は、はい……?」
「なに? ムースちゃんから何を吹き込まれたの?」
「もしもの時は勇者様を守ってくださいと、そうお願いされました」
「守る……? ふぅん」
理由は分からないけど、はぐらかされたのかな、と思う。
ユーマの表情があまりにも真剣そのものだったから、それ以上追及はできなかなった。
「いつだって、ユーマは私のこと、守ってくれてるじゃない」
「? 何か言いましたか、勇者様」
「なんでもないわ!」
ムースのニマニマした視線が突き刺さるけど無視した。
「どのみち北に向かうなら、魔界戦線に立ち寄るといいだろう」
ババロアが話を戻した。
「魔界戦線?」
「ああ。魔王城の領域と、人間が暮らしている境界地点をそう呼んでいる。魔王城から生み出された魔物を真っ先に食い止める地点であり、多くの騎士や傭兵が集まって防衛線を築いている。二代目魔王が誕生した今、再び魔物の群れが押し寄せるかもしれん」
「なるほど。そこに私達も加わると。でも、大した戦力にならないと思うのだけど」
「いや、目的はもう一つある。あの場所には初代勇者の墓があり、魔界戦線が生まれた理由なんだ」
「勇者の墓、ですか」
まさか同じ勇者として骨を埋めよ、なんて言うつもりだろうか。
「僕、聞いたことあります。墓には、初代勇者が魔王を討伐した時に使った対魔王決戦武具、聖剣【護国】が安置されているんですよね。勇者が逝去して一〇〇年が絶った今もなお聖なる力を宿していて、魔王城へ睨みを利かせているとか」
「その通り。もし聖剣を持ち出すことができるなら、魔物はもちろん、魔王討伐にも活路が見えるかもな」
「うーん、聖遺物である聖剣をあっさり貸してくれるものでしょうか」
「手に入らなかったら……まあ、精々願掛けくらいしとけば何かご利益があるんじゃないか?」
「願掛けって……」
勇者の先輩として、お墓参りくらいはしといた方がいいのかもしれないけど。
「ううん、なんとしてでも貸してもらわなきゃ。私が勇者だって明かせば、きっと──」
覚悟とは裏腹に、胸がちくりと痛む。
ババロアやムースのようなでさえ、最初は懐疑的な目を向けたのだ。
今はこうして信じてくれているし偏見の目もないけど、もう一度打ち明けるのは正直しんどい。
「それについてなんだが、勇者と明かすのは本当に信頼できる相手のみにした方がいいだろうな」
「え、どうしてですか?」
「サブルブ村の件だよ。村長のように、ヴィーヴィルによって感染した人間が紛れ込んでいるかもしれない。もしヒミカが勇者だと分かったら、魔王が手を下す前に殺すだろうな」
そうだった。
魔王は【繁殖】の権能で魔物だろうが人間だろうが見境なく眷属を増やそうとしている。
ヒミカ達が村長の異変に気付けなかったように、何食わぬ顔して近づいてくるかもしれない。
「肝に銘じておきます。身分を明かさなくていいのは、私にとっても都合がいいですし」
きゅっと握りしめた手を胸に寄せたヒミカを見て、ユーマが勢いよく手を上げた。
「勇者様を危険に遭わせるわけにはいきません。いざとなれば、僕が勇者だと名乗り出ます!」
「頼もしいな。まずはその『勇者様』って呼び方を辞めるところから、だが」
「あっ……」
「ふふっ」
「はははっ」
ムースが笑う。ババロアも、柔らかい笑みだった。こんな風に笑うこともできるとは。
(真面目で厳しい人だと思ってたけど、こうして友達なれたなら、裸の付き合いも悪くなかった、かも)
友達。
ミルキィフラワーで働いていた頃は、縁のない言葉だった。
勇者なんて荷が重すぎるし、正直面倒くさいけど、毎日が少し楽しいと感じるようになった。
妹のために世界を救う。そこにムースとババロア加わった。
「む、そろそろ勤務時間か」
「じゃあ、私達も出発しようか」
「世話になった礼だ。途中の村までだが、馬車を手配しよう」
「いいんですか?」
「ああ、ヒミカがクエストの報酬を負けてくれたからな。これくらいお安い御用さ」
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