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第三章『王子様、現る!?』

第58話 うそ、私、妊娠しちゃったの?

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「はっ!?」

「ヒミカさん!?」

「おっ、目が覚めたかー」

 起き上がると、そこは見覚えのあるテントの中だった。

「ここは……」

「魔界戦線防衛隊の駐屯地、そして遊撃部隊隊長、クライド様のテントだ」

「クライドの、テント……?」

 ゆっくりと左右を見渡す。
 頻繁な引っ越しを想定しているため、全体的に急造な作りだが、広めの内部はコテージのようにゆったりとした落ち着きがある。
 一〇人程度なら不満なく生活できるだろう。

 生活必需品のみならず、壁にかけられた先代勇者が邪悪な竜に立ち向かう絵画、数えきれないほどのトロフィーや勲章が飾られており、ここの主が高位な身分であることを伝えている。
 そして、衛兵に魅了した影響で発情したヒミカがユーマにした場所でもある。

「なんかさー。帰ってきたら中がびちゃびちゃだったワケよ! 野良犬で紛れ込んでションベンでもされたのかな? ま、乾いたからいいけどよ」

 ヒミカの額に冷や汗が滲む。
 恥ずかしさで頬に朱が差し、同時に子宮がじゅん! と疼く。

「お怪我はありませんか? どこか痛むところは」

 ユーマが心配そうに見つめてくる。

「私は平気よ。むしろ元気すぎるくらい」

 空元気ではなかった。
 実際、身体は魔力で満ち溢れていた。
 けれど。

(ジャイアントオークの精液が、まだ子宮の奥でたぷたぷしてる)

 ふと、強烈な吐き気が襲う。

「ごめん、やっぱり気分が悪いかも。少しシャワーを浴びたいわ」

「お、一応身体はお湯で拭いたんだけどな。んー、確かにまだオーク臭が残ってるな」

「えっ!? クライドが私の身体を拭いたの!?」「えっ!? ヒミカさんの身体に触ったんですか!? 僕が身体を洗ってる間に」

 ハモる。

「だってよ、そのままにしておくわけにはいかないじゃん? 安心しろよ、ローブは脱がしてないし、手探りだから中を見てもいない。つまり健全!」

「~~~~~ッ!」

 ヒミカは肩をぎゅっと抱きしめる。
 今更、幼馴染だったクライドに触られることが嫌なわけではない。
 けれど、今のヒミカはオークに犯された身体なのだ。

(今も、お腹の中でオタマジャクシが跳ねてるのが分かる。嫌、気持ち悪い)

 最悪の可能性を予感する。

(もしかして、私、オークに妊娠させられちゃったの……?)
 
 人間と違って、魔物は常に過酷な生存競争を強いられているため、精力が強い。
 特に、オークの精液は人間のよりも遥かに濃く、精子にいたっては目に見えるほど巨大だ。
 さらに、ジャイアントオークはヴィーヴィルに感染し、【繁殖】の権能を有している。

(ってことは、私も……っ!?)

 魔王の眷属として自ら魔物の苗床となり、腹を突き破ってオークの子供が生まれる姿を想像してしまった。

「ごめん、今すぐシャワーに行かせて」

「ヒミカさん、お顔が真っ青ですよ。シャワーよりも寝ていた方が」

「いいから」

「分かりました。シャワー用のテントは少し離れた場所にあります。僕が案内を──」

「待った。ユーマ君は救護班で先に負傷した兵士の手当てを手伝ってくれないか」

「救護活動、ですか?」

「ざっと三〇〇人が今回の戦いで負傷した。内、十四人は傷が深く、死んじまった。さらに、一四三人が行方不明だ。魔物に丸呑みにされたか、骨さえ残さず引裂かれたか」

(うそ、そんなに負傷者が……? 行方不明者もたくさん……!)

「俺は遊撃部隊隊長だから、救護を手伝いに行っても『なら、少しでも負傷者を減らす作戦を考えろ』ってドヤされちまう。敵さんがいつまた襲ってくるかも分からないしな」

「ですが……っ!」

「それともなにか? もしかしてヒミカの裸を覗きたいとか? おいおい、気持ちはわかるけどよ、下心丸見えだぜ?」

「んなっ……!」

「覗くの! 絶対! ダメ!」

 ヒミカが顔から火を噴きそうな勢いでユーマを制する。
 もう何度も裸を見られているどころか、その先までシてしまっているけど、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

「……分かりました。ヒミカさん、また後で。明日には今日の防衛成功の祝賀会をやるそうですよ。今日の夜はゆっくり休みましょう」

「うん、わかったわ」
 
 外に出て、ユーマは救護班と合流しに行った。
 ヒミカはクライドに手を引かれながら、シャワー設備が備え付けられているテントへと向かった。
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