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第三章『王子様、現る!?』
第64話 結末
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あまりの衝撃的発言に、思わず足を滑らせそうになった。
「俺さ、勇者を目指してここまで来た。けど、結局勇者になれなかった。なら、俺は何のために戦ってるのかって思っちまったわけよ」
「何のためにって、クライドが戦ってくれるから、兵士たちは安心して宴会を楽しめてるんだよ」
「かもな。でも俺がやらなくたって、なんとかなるだろ。だから、俺は遊撃部隊隊長を引退する。ヒミカと結婚して、二人でどこかの田舎で暮らそうや」
(──どうして、今なの)
こんな状況じゃなかったら、どれだけ甘いプロポーズに聞こえただろう。
「クライドが居なくなったら、戦線の人たちはどうするの」
「言ったろ。なんとかなるんだよ。どれだけ魔物の大群が押し寄せようが、危険な目に晒されようが、最後には勇者様が颯爽と現れて、綺麗さっぱり全部解決してくれる。そういう風に出来ているんだよ、この世界はな」
「そんなこと──」
その先は紡げなかった。
「ヒミカは、俺のこと、嫌いか?」
じっと目を見つめられる。
アクアマリンの澄んだ瞳。幼い頃の情景が今と重なる。
「もちろん、嫌いじゃない、よ……」
「嫌いじゃない? それってどういうこと?」
「えっと……」
「俺の目を見て、言ってみて」
「……っ!」
反射的に目を瞑った。
クライドがヒミカの腰に手を回して抱き寄せる。
(キス、される……!?)
待ち望んでいたはずなのに、身体が強張ってしまう。
娼館でルールを守らない客に触られ、セントエルディア王アウザーに凌辱され、スライムやゴブリンに舐られ、ジャイアントオークに種付けまでされた。
それでもなお、唯一守ってきた唇。
冒険者を諦め貧乏暮らしを続けるヒミカを、いつか助けてくれる王子様のために唯一上げられるモノ。
「ヒミカ……!」
磔にされたように身体が動かない。
理性に反して、下腹部は広場の篝火のように熱く燻る。
(このまま、カラダを、唇を、全て委ねてしまえば、私は幸せになれる……?)
目を閉じ、反芻した。
「待って」
両腕を力いっぱい伸ばして遠ざける。
「どうしたんだよ」
「その前に……見てほしいものがあるの」
首元の留め具を外し、ローブを脱ぎ捨てる。
風に攫われ、どこか遠くへと飛ばされていく。
真紅のベラ。
童話のお姫様もかくやと言わんばかりの美しい姿に、クライドの顔が赤くなり、そしてサーっと青ざめていった。
「私が、ヒミカが、今代の勇者なんだよ」
おへその下から子宮にかけて描かれた紋様。
乳首と同じ色の卑猥なハートマークに、剣と王冠の装飾模様。
「なんで……っ!?」
クライドが仰け反って驚愕する。
顔に『信じられない、嘘だ』と書いてある。
「なんで? 私が聞きたいよ。でも、気付いたら選ばれてた。なりたくなんてなかったのに。でもね、私が魔王を倒さないと、妹のユミカも、友達のムースも、魔界戦線で戦ってくれた人、そしてクライドもみんな危険な目に遭う。だから私は、ここまで来たんだよ」
この先を言うのは気が引けた。
でも、クライドがヒミカに気持ちを正直に打ち明けてくれたのだ。
ならば、ヒミカもそれに応える。
「私ね、娼婦の【踊り子】なんだ」
夜空よりも黒い髪、陶器のように滑らかな肌。異性を欲情させる豊満な肢体。
立っているだけで衆人環視の目を引いて、女神のようだと賛美される美貌を持っているのに。
「両親が居なくなっちゃって、学び舎を中退した私は、お金を稼ぐために、ミルキィフラワーって娼館で働いてたんだ。【踊り子】は冒険者の役には立たないけど、娼館なら私、一番人気だったんだ」
「…………」
なびく前髪の向こうに見えるクライドの顔。
逸らしてはいけないと、踏み止まって見据える。
「こんな私に、神様の気まぐれで私に与えた勇者の力は、魅了の力だったの。踊って、カラダを使って、色んな人、魔物だって誘惑しちゃうの。魅了された相手も、私もえっちな気分になっちゃって、カラダを触られて、処女も失って。でも、気持ちよくなると、なんだか強くなれた気がして、もっと気持ちよくなりたいかも、なんて最近は思うんだ」
(笑っちゃうよね。こんな世界の危機なんだから、もっとましな力をくれたっていいじゃない)
火照った首筋を、夜風が撫でる。
「……どうしてこんなことまで打ち明けたと思う? クライドには隠し事をしたくなかっただけじゃない。私が……っ! 私が、無意識にクライドを魅了してるんじゃないかって。だから、ありのままの自分を曝け出して、それでも私を選んでくれるのか、確認したかったの。……ごめんね、今までずっと黙ってて」
舌の根まで乾き、言いたいことを言い尽した。
きゅっと唇を結び、おそるおそる手を伸ばした。
クライドがたくさんの女の子から自分を選んでくれるか分からない。
たとえ拒絶されたとしても、クライドの意志を尊重したい。
クライドは神妙な面持ちで、ただでさえ狭い勇者の墓の頂上で、ヒミカに一歩近づいた。
「臭ぇ手で触るんじゃねぇよ、豚」
「──ぇ」
「俺さ、勇者を目指してここまで来た。けど、結局勇者になれなかった。なら、俺は何のために戦ってるのかって思っちまったわけよ」
「何のためにって、クライドが戦ってくれるから、兵士たちは安心して宴会を楽しめてるんだよ」
「かもな。でも俺がやらなくたって、なんとかなるだろ。だから、俺は遊撃部隊隊長を引退する。ヒミカと結婚して、二人でどこかの田舎で暮らそうや」
(──どうして、今なの)
こんな状況じゃなかったら、どれだけ甘いプロポーズに聞こえただろう。
「クライドが居なくなったら、戦線の人たちはどうするの」
「言ったろ。なんとかなるんだよ。どれだけ魔物の大群が押し寄せようが、危険な目に晒されようが、最後には勇者様が颯爽と現れて、綺麗さっぱり全部解決してくれる。そういう風に出来ているんだよ、この世界はな」
「そんなこと──」
その先は紡げなかった。
「ヒミカは、俺のこと、嫌いか?」
じっと目を見つめられる。
アクアマリンの澄んだ瞳。幼い頃の情景が今と重なる。
「もちろん、嫌いじゃない、よ……」
「嫌いじゃない? それってどういうこと?」
「えっと……」
「俺の目を見て、言ってみて」
「……っ!」
反射的に目を瞑った。
クライドがヒミカの腰に手を回して抱き寄せる。
(キス、される……!?)
待ち望んでいたはずなのに、身体が強張ってしまう。
娼館でルールを守らない客に触られ、セントエルディア王アウザーに凌辱され、スライムやゴブリンに舐られ、ジャイアントオークに種付けまでされた。
それでもなお、唯一守ってきた唇。
冒険者を諦め貧乏暮らしを続けるヒミカを、いつか助けてくれる王子様のために唯一上げられるモノ。
「ヒミカ……!」
磔にされたように身体が動かない。
理性に反して、下腹部は広場の篝火のように熱く燻る。
(このまま、カラダを、唇を、全て委ねてしまえば、私は幸せになれる……?)
目を閉じ、反芻した。
「待って」
両腕を力いっぱい伸ばして遠ざける。
「どうしたんだよ」
「その前に……見てほしいものがあるの」
首元の留め具を外し、ローブを脱ぎ捨てる。
風に攫われ、どこか遠くへと飛ばされていく。
真紅のベラ。
童話のお姫様もかくやと言わんばかりの美しい姿に、クライドの顔が赤くなり、そしてサーっと青ざめていった。
「私が、ヒミカが、今代の勇者なんだよ」
おへその下から子宮にかけて描かれた紋様。
乳首と同じ色の卑猥なハートマークに、剣と王冠の装飾模様。
「なんで……っ!?」
クライドが仰け反って驚愕する。
顔に『信じられない、嘘だ』と書いてある。
「なんで? 私が聞きたいよ。でも、気付いたら選ばれてた。なりたくなんてなかったのに。でもね、私が魔王を倒さないと、妹のユミカも、友達のムースも、魔界戦線で戦ってくれた人、そしてクライドもみんな危険な目に遭う。だから私は、ここまで来たんだよ」
この先を言うのは気が引けた。
でも、クライドがヒミカに気持ちを正直に打ち明けてくれたのだ。
ならば、ヒミカもそれに応える。
「私ね、娼婦の【踊り子】なんだ」
夜空よりも黒い髪、陶器のように滑らかな肌。異性を欲情させる豊満な肢体。
立っているだけで衆人環視の目を引いて、女神のようだと賛美される美貌を持っているのに。
「両親が居なくなっちゃって、学び舎を中退した私は、お金を稼ぐために、ミルキィフラワーって娼館で働いてたんだ。【踊り子】は冒険者の役には立たないけど、娼館なら私、一番人気だったんだ」
「…………」
なびく前髪の向こうに見えるクライドの顔。
逸らしてはいけないと、踏み止まって見据える。
「こんな私に、神様の気まぐれで私に与えた勇者の力は、魅了の力だったの。踊って、カラダを使って、色んな人、魔物だって誘惑しちゃうの。魅了された相手も、私もえっちな気分になっちゃって、カラダを触られて、処女も失って。でも、気持ちよくなると、なんだか強くなれた気がして、もっと気持ちよくなりたいかも、なんて最近は思うんだ」
(笑っちゃうよね。こんな世界の危機なんだから、もっとましな力をくれたっていいじゃない)
火照った首筋を、夜風が撫でる。
「……どうしてこんなことまで打ち明けたと思う? クライドには隠し事をしたくなかっただけじゃない。私が……っ! 私が、無意識にクライドを魅了してるんじゃないかって。だから、ありのままの自分を曝け出して、それでも私を選んでくれるのか、確認したかったの。……ごめんね、今までずっと黙ってて」
舌の根まで乾き、言いたいことを言い尽した。
きゅっと唇を結び、おそるおそる手を伸ばした。
クライドがたくさんの女の子から自分を選んでくれるか分からない。
たとえ拒絶されたとしても、クライドの意志を尊重したい。
クライドは神妙な面持ちで、ただでさえ狭い勇者の墓の頂上で、ヒミカに一歩近づいた。
「臭ぇ手で触るんじゃねぇよ、豚」
「──ぇ」
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