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第三章『王子様、現る!?』
第66話 守るべきモノ
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叫ぶヒミカの眼前で、クライドの姿が突如ブレた。
「な、に……?」
クライドは何が起きたのか分からず、レンガの坂に打ち付けられ、円錐状の壁を真っ逆さまに転がっていく。
「どうし、て」
いつだって、どんな時だって。
生身で登るのは到底無謀な高さだって。
ヒミカを守ってくれるのは彼しかいない。
「ユーマぁっ!」
「ヒミカさんも男を見る目がないですね。ま、僕も大概、未練たらたらですけど」
勇者の墓を単身で登攀したユーマ渾身の体当たり。
ただでさえ狭い勇者の墓の頂上では、浮足立ったクライドの突き落とすには十分だった。
「ユーマ、ユーマぁ!」
「ちょっ、そんなくっつかれるとバランスが……っ!」
飛び上がったヒミカがユーマに抱きつくと、お互いを支える床が無くなっていることに気づいた。
「「あ…………あああああああっ!?」」
真っ逆さまに落ちていく。
ユーマがヒミカの頭を守るようにぎゅっと抱きしめる。
ヒミカも懸命にユーマの身体を掴んだ。
レンガの坂に叩きつけられてもけっして離れることのないように。
けれど、いつまで経っても、痛みどころか衝撃さえもやってこない。
(あれ、私、死んじゃった……?)
「逝くのはまだ早いんよ。ヒミカには世界を掬ってもらわなくちゃだし
聞き覚えある声に、ヒミカはようやく身体が空中に浮いていることに気付いた。
「あなたは……リルム!?」
「ふっふふーっ! 空を飛べるってこういう時便利よね」
「こ、の……っ! ロリババア! ふざけんなよテメェ!」
「「ロリババア!?」」
「んんー? 二人とも、驚くこところはそこじゃないでしょ~」
「はっ、クライド!?」
ユーマに突き飛ばされ、円錐型の外壁を転がり落ちていったはずのクライドが再びヒミカ達の前に立ちはだかった。
多少傷を負っているものの、目立った外傷はない。禍々しいペニスも勃起したままだ。
「【竜剣士】舐めんなよ……意表を突いたつもりか、バカが! この程度どうってことねぇよ!」
「きゃああっ!」
またしてもクライドが飛びかかる。空中に浮かぶヒミカを搔っ攫うと、今度は自ら地面に向かって降下していった。
「しまった! アイツ、どこへ行く気だ!!」
「勇者の墓の内部ね! アイツ、最初から初代勇者の聖剣を狙ってたの! 墓の入り口は、勇者以外は通れない結界が貼ってあるからヒミカを攫ったってこと!」
「僕も行かなくちゃ」
「待ちなよ。ここから飛び降りるつもり? 死ぬよ」
「飛び降ります」
「ウチの魔法を頼る、とは言わないのね。けれど、あれはもう勇者と魔王の眷属との闘い。キミが行ってもできることはないかもよ?」
「ここで立ち止まるよりマシですから」
一瞬の迷い、躊躇いすらもなかった。
「後悔しないといいわね。そういうとこ、嫌いじゃないけど…………【浮遊】」
「……!? うわわっ」
リルムが呪文を唱えると、再び身体がふわりと浮かび、ゆっくりと降下していく。
「もっと早く!」
「ちょっと黙って」
「なんだ、あれ……」
驚いたのはリルムの魔法ではない。
地響きのような異音。
地平線の向こうから雪崩れ込んでくる魔物の大群だった。
夜目でそれだと分かったのは、魔物達の目がギラギラと赤く光っているからだ。
地面の方では、兵士たちが混乱した様相で駆け回っている
「やりやがったわね、アイツ」
「どうして……ついこの前大群と戦ったばかりじゃ……っ」
「ヴィーヴィルの【繁殖】ね。こいつら、最近生まれたばかりよ! それに、クライドは前もって計画してた。魔界戦線を崩壊させて、確実に聖剣を奪うことができる機会をね」
「だ、大丈夫なんですか?」
「あら、ウチらの心配してる場合?」
「げふっ」
よそ見をしていたら、地面が近づいていることに気付かず、頭から激突した。
起き上がるとリルムはもうユーマを見ておらず、地平線の彼方を睨んでいた。
「現役のウチだったらねぇ」
腰かけていた箒は空を飛ぶためのものではなかったようで、両手で杖のごとく振り回す。
途端、とてつもない魔力が小さな身体から噴出した。
「危ないっ!」
魔物の群れが早くも前線を突破し、駐屯地から市場まで侵入を許してしまう。
(当たり前だ。だって、今は宴の最中だったのだから!)
その中の一匹、肉体が腐りかけ、頭蓋骨が見えている兵士が剣を構えてリルムを襲う。
「あの鎧の紋章……セントエルディアのものじゃないか!」
先の戦いでは、一四三人もの行方不明者が出たという。
おそらく、ヴィーヴィルに感染した魔物に致命傷を受けた時に、【繁殖】の権能を植え付けられたのだろう。
傷による腐食で身体がボロボロでも、生殖器だけが雌を求めて膨張し、暴走しているのだ。
「邪魔ねん」
呪文の詠唱や予備動作もなく、まるで唾でも吐くかのような気軽さで、リルムが杖の先から巨大な火球を放つ。
腐りかけの兵士は真正面から炎で炙られ、後には鎧が地面に落ちる音しか残らなかった
「ごめんね。物忘れが激しくて名前も覚えてないけど、天国ではゆっくりしなね」
「リルム、君は」
「ユーマ、左側から来てるよ!」
リルムとユーマの脇をすり抜けるように、一匹の巨大なベアウルフが疾駆する。
その先には、まだ日本足で立つのもやっとな小さな子供。
「!? しまっ──」
少年の柔らかい頭蓋骨がめちゃくちゃにかみ砕かれる音がした。
けれど。
「大丈夫か、坊主」
「おじさん、腕が……っ!」
「俺はおじさんじゃなくてガイって言うんだ。腕がどうしたって? ちょっとペンキ塗り過ぎたかな、はは」
ガイと名乗ったガタイの良い兵士が、少年を避難所がある方へ逃がすと、腕に噛みついていたベアウルフを強引に壁に打ち付け、渾身の頭突きを食らわせた。
骨が砕ける嫌な音と共に、ベアウルフは崩れ落ちた。
「よっこらせ」
一仕事終えた後のような清々しさで床に座り込む。
既に片腕を失っていて、もう片方から血を噴き出している兵士に、ユーマはかける言葉が思いつかない。
「あの、このままだと貴方も危ない──」
「ユーマ! ヒミカを助けるんでしょ? 行くならさっさと行きなさい!」
「でも、このままじゃ魔物達が、リルムだって」
「ふふ。言っとくけど、ウチはキミよりもずっと年上だから。だって、ウチは先代勇者パーティが一人、【魔聖】のリルムだからねん」
しっしっ。
リルムが振り返らず手を振る。
ユーマも今度こそ迷わず駆け出した。
直後、背後に感じる強烈な魔力光と熱風に背中を押されながら。
「な、に……?」
クライドは何が起きたのか分からず、レンガの坂に打ち付けられ、円錐状の壁を真っ逆さまに転がっていく。
「どうし、て」
いつだって、どんな時だって。
生身で登るのは到底無謀な高さだって。
ヒミカを守ってくれるのは彼しかいない。
「ユーマぁっ!」
「ヒミカさんも男を見る目がないですね。ま、僕も大概、未練たらたらですけど」
勇者の墓を単身で登攀したユーマ渾身の体当たり。
ただでさえ狭い勇者の墓の頂上では、浮足立ったクライドの突き落とすには十分だった。
「ユーマ、ユーマぁ!」
「ちょっ、そんなくっつかれるとバランスが……っ!」
飛び上がったヒミカがユーマに抱きつくと、お互いを支える床が無くなっていることに気づいた。
「「あ…………あああああああっ!?」」
真っ逆さまに落ちていく。
ユーマがヒミカの頭を守るようにぎゅっと抱きしめる。
ヒミカも懸命にユーマの身体を掴んだ。
レンガの坂に叩きつけられてもけっして離れることのないように。
けれど、いつまで経っても、痛みどころか衝撃さえもやってこない。
(あれ、私、死んじゃった……?)
「逝くのはまだ早いんよ。ヒミカには世界を掬ってもらわなくちゃだし
聞き覚えある声に、ヒミカはようやく身体が空中に浮いていることに気付いた。
「あなたは……リルム!?」
「ふっふふーっ! 空を飛べるってこういう時便利よね」
「こ、の……っ! ロリババア! ふざけんなよテメェ!」
「「ロリババア!?」」
「んんー? 二人とも、驚くこところはそこじゃないでしょ~」
「はっ、クライド!?」
ユーマに突き飛ばされ、円錐型の外壁を転がり落ちていったはずのクライドが再びヒミカ達の前に立ちはだかった。
多少傷を負っているものの、目立った外傷はない。禍々しいペニスも勃起したままだ。
「【竜剣士】舐めんなよ……意表を突いたつもりか、バカが! この程度どうってことねぇよ!」
「きゃああっ!」
またしてもクライドが飛びかかる。空中に浮かぶヒミカを搔っ攫うと、今度は自ら地面に向かって降下していった。
「しまった! アイツ、どこへ行く気だ!!」
「勇者の墓の内部ね! アイツ、最初から初代勇者の聖剣を狙ってたの! 墓の入り口は、勇者以外は通れない結界が貼ってあるからヒミカを攫ったってこと!」
「僕も行かなくちゃ」
「待ちなよ。ここから飛び降りるつもり? 死ぬよ」
「飛び降ります」
「ウチの魔法を頼る、とは言わないのね。けれど、あれはもう勇者と魔王の眷属との闘い。キミが行ってもできることはないかもよ?」
「ここで立ち止まるよりマシですから」
一瞬の迷い、躊躇いすらもなかった。
「後悔しないといいわね。そういうとこ、嫌いじゃないけど…………【浮遊】」
「……!? うわわっ」
リルムが呪文を唱えると、再び身体がふわりと浮かび、ゆっくりと降下していく。
「もっと早く!」
「ちょっと黙って」
「なんだ、あれ……」
驚いたのはリルムの魔法ではない。
地響きのような異音。
地平線の向こうから雪崩れ込んでくる魔物の大群だった。
夜目でそれだと分かったのは、魔物達の目がギラギラと赤く光っているからだ。
地面の方では、兵士たちが混乱した様相で駆け回っている
「やりやがったわね、アイツ」
「どうして……ついこの前大群と戦ったばかりじゃ……っ」
「ヴィーヴィルの【繁殖】ね。こいつら、最近生まれたばかりよ! それに、クライドは前もって計画してた。魔界戦線を崩壊させて、確実に聖剣を奪うことができる機会をね」
「だ、大丈夫なんですか?」
「あら、ウチらの心配してる場合?」
「げふっ」
よそ見をしていたら、地面が近づいていることに気付かず、頭から激突した。
起き上がるとリルムはもうユーマを見ておらず、地平線の彼方を睨んでいた。
「現役のウチだったらねぇ」
腰かけていた箒は空を飛ぶためのものではなかったようで、両手で杖のごとく振り回す。
途端、とてつもない魔力が小さな身体から噴出した。
「危ないっ!」
魔物の群れが早くも前線を突破し、駐屯地から市場まで侵入を許してしまう。
(当たり前だ。だって、今は宴の最中だったのだから!)
その中の一匹、肉体が腐りかけ、頭蓋骨が見えている兵士が剣を構えてリルムを襲う。
「あの鎧の紋章……セントエルディアのものじゃないか!」
先の戦いでは、一四三人もの行方不明者が出たという。
おそらく、ヴィーヴィルに感染した魔物に致命傷を受けた時に、【繁殖】の権能を植え付けられたのだろう。
傷による腐食で身体がボロボロでも、生殖器だけが雌を求めて膨張し、暴走しているのだ。
「邪魔ねん」
呪文の詠唱や予備動作もなく、まるで唾でも吐くかのような気軽さで、リルムが杖の先から巨大な火球を放つ。
腐りかけの兵士は真正面から炎で炙られ、後には鎧が地面に落ちる音しか残らなかった
「ごめんね。物忘れが激しくて名前も覚えてないけど、天国ではゆっくりしなね」
「リルム、君は」
「ユーマ、左側から来てるよ!」
リルムとユーマの脇をすり抜けるように、一匹の巨大なベアウルフが疾駆する。
その先には、まだ日本足で立つのもやっとな小さな子供。
「!? しまっ──」
少年の柔らかい頭蓋骨がめちゃくちゃにかみ砕かれる音がした。
けれど。
「大丈夫か、坊主」
「おじさん、腕が……っ!」
「俺はおじさんじゃなくてガイって言うんだ。腕がどうしたって? ちょっとペンキ塗り過ぎたかな、はは」
ガイと名乗ったガタイの良い兵士が、少年を避難所がある方へ逃がすと、腕に噛みついていたベアウルフを強引に壁に打ち付け、渾身の頭突きを食らわせた。
骨が砕ける嫌な音と共に、ベアウルフは崩れ落ちた。
「よっこらせ」
一仕事終えた後のような清々しさで床に座り込む。
既に片腕を失っていて、もう片方から血を噴き出している兵士に、ユーマはかける言葉が思いつかない。
「あの、このままだと貴方も危ない──」
「ユーマ! ヒミカを助けるんでしょ? 行くならさっさと行きなさい!」
「でも、このままじゃ魔物達が、リルムだって」
「ふふ。言っとくけど、ウチはキミよりもずっと年上だから。だって、ウチは先代勇者パーティが一人、【魔聖】のリルムだからねん」
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