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第四章『魔王城で婚活を!?」
第78話 勇者と魔王の世界平和と愛に関する問答
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ブレドと名乗った魔王の背丈はユーマよりもさらに少し小さい。
けれど、三角木馬の前に置かれた椅子に優雅に腰かける姿は、村の子どもにはない風格がある。
「驚いたかい? こんな生まれたばかりの魔王に、世界の命運が握られているってことに」
「別に。魔王がどんな姿してようが関係ないし」
「そうだね。我も同じさ。【踊り子】だとか関係ない。恋をしてしまったんだ。こんなに美しくて可愛らしい勇者のキミに」
「か、可愛らしいって」
「うん? 随分と顔が赤くなってるね。意外にも、褒められるのには慣れてないのかな? 魅了の力を持つ勇者だから、清楚ビッチだと思ってたのだけど」
カチンときた。
「女の子に、ビッチとか、意外とか、そういう言葉使いは止めた方がいいわ、お坊ちゃん」
「そうなんだ? ごめんごめん。まだ生まれたばかりだから知らないことが多くって。気をつけるね、お姉さん」
「最近の子どもは聞き分けが良くて楽ね」
「あはは。いいね、ますます気に入った。我の妻になってもらうとはいえ、無抵抗で従順っていうのは面白くないって思ってたから」
「さっきから恋だ妻だって勝手に話を進めてるけど、一体どういうつもり?」
ヒミカはローパーの触手によって縛られ、身動きが取れない。
この状態で魔王と対峙することは絶対絶命に他ならないのだが、魔王はどうにも攻撃する意思が見られない。
「我は学んだのさ。世界に対する神々の試練って話はヒミカも知っているだろう?」
「忘れたわ」
「…………コホン。この世界を創り出した神とやらが、種と文明の発展を促すために一〇〇年周期で人間と魔族を争わせ、我らは従ってきた。けど、律義に争いを繰り返す必要なんてない。魔王と勇者は、手を取り合うべきだと思うんだ」
魔王が勇者に手を差し伸べる。
「結婚しよう、勇者ヒミカ」
「…………っ!」
言葉が出なかった。
人生で二度目のプロポーズ。
勇者であるヒミカが、まさか世界を滅ぼす魔王から告白されるなんて、微塵も想定していなかった。
「私がブレドと結婚することが、手を取り合うってこと? 結婚するってどういうことか、あんたみたいな子どもが知ってるの?」
「もちろん」
ブレドは翼が生えているわけでもないのにふわりと浮かび上がる。
触手によって吊るされているヒミカの背後から首に手を回した。
「ちょっ、なにして──」
「ふぅーっ」
「ひ、ひゃあっ!?」
耳にキスするくらい近づいて息を吹きかけられた。
今まで誰にもされたことのない悪戯に、ヒミカの顔は意志に反して赤くなる。
ヒミカの反応を楽しむように瞳を覗き込みながら、ブレドは舌でキャンディを転がすように甘く囁いた。
「毎朝、おはようのキスで目覚めて、ぎゅっとハグして互いの温もりを感じる。嬉しいこと、悲しいことを一人ではなく二人で、言葉と身体で共有する。一日の終わりを噛みしめて、同じベッドで寂しい夜を共にするんだ」
「どの口がそんなこと言えるの!? クライドにあんな真似をして!」
「クライド、か。愚かな男だったな。彼は自分が目立つこと、賞賛されること、そんなことしか頭にない。実力はそこらの人間よりは強いかも知れないけど、勇者でない時点でキミ以下さ。実に愚かで助かったよ」
「このっ!」
頬を擦り寄せてくるブレドの顔に噛みついてやろうとするも、するりと避けられた。
「冷静になりなよ。我はクライドとは違う。人間の女の子が夢見るような、いつか素敵な王子様と結ばれるって願望を叶えてあげられる。さらに、何千年と続く魔王と人間との戦いを終わらせることができるんだ。悪い話じゃないだろう?」
どうやら勘違いではなく、魔王は勇者ヒミカに本気でゾッコンらしい。
「……あんたと結婚したら、他の人間はどうなるの」
「他の? あまり考えてなかったな。そうだね……女は【繁殖】のために魔物の苗床になってもらうよ。男は価値がないから殺すか、魔王城改築のための奴隷になってもらおうかな。我とヒミカの愛の巣として、ね。いいね、なんだかワクワクしてきた」
「…………」
想像する。
妹のユミカやサブルブ村ギルドのムース達が、ゴブリンたちに凌辱される姿。
ガイを筆頭とする魔界戦線の兵士達が奴隷として魔物以下の扱いをされる姿。
魔王を前にして、あっけなく無様に拘束されているヒミカを掬うため、最後まで抵抗し、殺されるユーマの姿。
「どうだい? 我と結婚してくれるなら、世界の半分をヒミカにあげよう。そしてたくさん魔族の子どもを産んで、世界そのものを愛の巣にしようじゃないか!」
両腕を広げて目をキラキラと輝かせている姿は、無邪気な夢を口にする少年少女のそれだった。
無垢でシワの一つも刻まれていない顔に、唾が吐き捨てられる。
「全く子宮に響かない、お粗末なプロポーズね。子どもは子どもらしく、勉強して大人になってから出直しなさい」
「……ふ、ふふ。……く」
石像のように固まっていたブレドは、やがて腹痛でも我慢するかのようにくつくつと笑った。
「おかしなこと言ったかしら」
「ううん、違うよ。ますます、ヒミカのことが好きになったなって」
ヒミカは初めて、背中を冷たい舌でなぞられるような薄気味悪い恐怖を感じた。
「こ、の……いい加減にしなさい!」
なりふり構っていられない。
魔王に対して勇者の力を行使する。
「【誘惑の濡れ瞳】!」
勇者と魔王の目線が交差し、魔力の矢が直撃した。
見た目が子どもなだけに少し抵抗感があるけど、魔王なら関係ない。
今すぐ命令に従わせて、ヒミカと、魔界戦線の皆の前で土下座させてやりたい。
「無駄だよ。我に魅了は効果ないんだ」
「え……?」
けれど、三角木馬の前に置かれた椅子に優雅に腰かける姿は、村の子どもにはない風格がある。
「驚いたかい? こんな生まれたばかりの魔王に、世界の命運が握られているってことに」
「別に。魔王がどんな姿してようが関係ないし」
「そうだね。我も同じさ。【踊り子】だとか関係ない。恋をしてしまったんだ。こんなに美しくて可愛らしい勇者のキミに」
「か、可愛らしいって」
「うん? 随分と顔が赤くなってるね。意外にも、褒められるのには慣れてないのかな? 魅了の力を持つ勇者だから、清楚ビッチだと思ってたのだけど」
カチンときた。
「女の子に、ビッチとか、意外とか、そういう言葉使いは止めた方がいいわ、お坊ちゃん」
「そうなんだ? ごめんごめん。まだ生まれたばかりだから知らないことが多くって。気をつけるね、お姉さん」
「最近の子どもは聞き分けが良くて楽ね」
「あはは。いいね、ますます気に入った。我の妻になってもらうとはいえ、無抵抗で従順っていうのは面白くないって思ってたから」
「さっきから恋だ妻だって勝手に話を進めてるけど、一体どういうつもり?」
ヒミカはローパーの触手によって縛られ、身動きが取れない。
この状態で魔王と対峙することは絶対絶命に他ならないのだが、魔王はどうにも攻撃する意思が見られない。
「我は学んだのさ。世界に対する神々の試練って話はヒミカも知っているだろう?」
「忘れたわ」
「…………コホン。この世界を創り出した神とやらが、種と文明の発展を促すために一〇〇年周期で人間と魔族を争わせ、我らは従ってきた。けど、律義に争いを繰り返す必要なんてない。魔王と勇者は、手を取り合うべきだと思うんだ」
魔王が勇者に手を差し伸べる。
「結婚しよう、勇者ヒミカ」
「…………っ!」
言葉が出なかった。
人生で二度目のプロポーズ。
勇者であるヒミカが、まさか世界を滅ぼす魔王から告白されるなんて、微塵も想定していなかった。
「私がブレドと結婚することが、手を取り合うってこと? 結婚するってどういうことか、あんたみたいな子どもが知ってるの?」
「もちろん」
ブレドは翼が生えているわけでもないのにふわりと浮かび上がる。
触手によって吊るされているヒミカの背後から首に手を回した。
「ちょっ、なにして──」
「ふぅーっ」
「ひ、ひゃあっ!?」
耳にキスするくらい近づいて息を吹きかけられた。
今まで誰にもされたことのない悪戯に、ヒミカの顔は意志に反して赤くなる。
ヒミカの反応を楽しむように瞳を覗き込みながら、ブレドは舌でキャンディを転がすように甘く囁いた。
「毎朝、おはようのキスで目覚めて、ぎゅっとハグして互いの温もりを感じる。嬉しいこと、悲しいことを一人ではなく二人で、言葉と身体で共有する。一日の終わりを噛みしめて、同じベッドで寂しい夜を共にするんだ」
「どの口がそんなこと言えるの!? クライドにあんな真似をして!」
「クライド、か。愚かな男だったな。彼は自分が目立つこと、賞賛されること、そんなことしか頭にない。実力はそこらの人間よりは強いかも知れないけど、勇者でない時点でキミ以下さ。実に愚かで助かったよ」
「このっ!」
頬を擦り寄せてくるブレドの顔に噛みついてやろうとするも、するりと避けられた。
「冷静になりなよ。我はクライドとは違う。人間の女の子が夢見るような、いつか素敵な王子様と結ばれるって願望を叶えてあげられる。さらに、何千年と続く魔王と人間との戦いを終わらせることができるんだ。悪い話じゃないだろう?」
どうやら勘違いではなく、魔王は勇者ヒミカに本気でゾッコンらしい。
「……あんたと結婚したら、他の人間はどうなるの」
「他の? あまり考えてなかったな。そうだね……女は【繁殖】のために魔物の苗床になってもらうよ。男は価値がないから殺すか、魔王城改築のための奴隷になってもらおうかな。我とヒミカの愛の巣として、ね。いいね、なんだかワクワクしてきた」
「…………」
想像する。
妹のユミカやサブルブ村ギルドのムース達が、ゴブリンたちに凌辱される姿。
ガイを筆頭とする魔界戦線の兵士達が奴隷として魔物以下の扱いをされる姿。
魔王を前にして、あっけなく無様に拘束されているヒミカを掬うため、最後まで抵抗し、殺されるユーマの姿。
「どうだい? 我と結婚してくれるなら、世界の半分をヒミカにあげよう。そしてたくさん魔族の子どもを産んで、世界そのものを愛の巣にしようじゃないか!」
両腕を広げて目をキラキラと輝かせている姿は、無邪気な夢を口にする少年少女のそれだった。
無垢でシワの一つも刻まれていない顔に、唾が吐き捨てられる。
「全く子宮に響かない、お粗末なプロポーズね。子どもは子どもらしく、勉強して大人になってから出直しなさい」
「……ふ、ふふ。……く」
石像のように固まっていたブレドは、やがて腹痛でも我慢するかのようにくつくつと笑った。
「おかしなこと言ったかしら」
「ううん、違うよ。ますます、ヒミカのことが好きになったなって」
ヒミカは初めて、背中を冷たい舌でなぞられるような薄気味悪い恐怖を感じた。
「こ、の……いい加減にしなさい!」
なりふり構っていられない。
魔王に対して勇者の力を行使する。
「【誘惑の濡れ瞳】!」
勇者と魔王の目線が交差し、魔力の矢が直撃した。
見た目が子どもなだけに少し抵抗感があるけど、魔王なら関係ない。
今すぐ命令に従わせて、ヒミカと、魔界戦線の皆の前で土下座させてやりたい。
「無駄だよ。我に魅了は効果ないんだ」
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