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第四章『魔王城で婚活を!?」
第93話 流星の矢
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「がああああああああああっ!?」
自ら放った魔力光を正面から浴びて、魔王ブレドは叫ぶ。
勇者の力を纏って反射した力の奔流が、赤子の身体を容易く呑み込んでしまう。
「やったか!?」
「……やれやれ」
火事で焼け焦げた死体の肢体が、ゆらりと起き上がる。
「まったく、脆弱な赤子の身体に救われたよ」
身体のあちこちが焼け爛れているにも関わらず、ブレドは不敵に笑う。
「確かに、魔王にしては興ざめなくらい、威力が弱かったわね」
挑発するリルムには目もくれない。
ブレドは腕を振りかぶると、構造上比較的脆い天井部分に、魔力光で大穴を開けた。
城全体が振動し、瓦礫が降り注ぐ。
まるで、それこそがリルムに対する返答かのように。
たんっ──。
軽く跳ねるように、魔王は空中へふわりと浮かぶ。
「まさか……。卑怯者、ヒミカを抱いておいて、逃げるのか!?」
(ヒミカって……、いつの間に呼び捨て!?)
「はははは! なんとでも言え。仕留めきれなかった君たちの負けさ。ほら、こうしている間にもみるみると身体が…………なに? 戻らない、だと!?」
「もう忘れたのか? 対魔王決戦武具で跳ね返した攻撃は、お前にとって致命的なはずだ」
「ふふ、はは……は。ふざけるなあああァッ!」
いつまで経っても火傷の痕が修復されない自身の身体を掻きむしるかのように、がむしゃらに壁にぶつかりながらも天上の穴を潜って逃げ出した。
「しまった! リルムさん、もう一度空を飛べますか?」
「だめ。魔力がほんっとうに空っぽなの。アウザー、なんとかしなさいよ」
「イタタタ。腰が完全にイってしまった。女子をイかせることが得意なワシなのに」
「このジジイ! いい年して寒いぎゃぐでどや顔するんじゃないわ」
「うるさいババア! お前さんこそそのロリロリ体型はなんじゃ。恥ずかしくないんか? うぷぷぷ」
「むきーっ! このクソジジイ、先に息の根を止めて天国に逝かせてやるわ」
「ほぇっほぇっほぇ。ならワシはその幼児体型をイかせてやるとするかのう」
「ちょっとお二人とも! ケンカしている場合じゃないでしょ!」
「大丈夫だよ。こういう時の為に、わたくし達がいるんですわ」
「え?」
ヒミカは目を疑った。
今まで、機を伺っていたのか、部屋に入らず隠れていた二人。
「ムース……それと、ユミカ!?」
あまりの驚きに、呼吸が止まる。
嬉しかったのではない。
「どうして、来ちゃったのよ……! こんな、こんな醜くなった私なんかのために!」
普段の麻の服ではなく、きちんと装備を整えたユミカは、ちらりとだけヒミカを見た。
まだ冒険者にもなっていないのに、大人びた、慈愛に満ちた眼差しだった。
「ムース先輩、時間がありません。お願いします」
「オッケー」
ブレドが開けた大穴は、闇夜に包まれていた。
どうやら、愛の巣などと宣っていたこの部屋は、城の端にある尖塔に位置していたようだった。
穴の真下に、ユミカは立ち、弓を構えた。
質素な弓は、【学び舎】の講義で使っていた訓練用のものだ。
(まさか、そんな弓で魔王を討とうと言うの)
「──【魔力追跡】。ユミカちゃん、思いっきりやっちゃって!」
ムースが魔法を発動し、ユミカが番える矢に魔力を灯す。
震える手をムースに支えられながら、ユミカは今までみたこともない真剣な表情で叫んだ。
「──【破魔の矢】!」
放たれた矢は、大穴ではなくユーマの【鏡月】に吸い込まれた。
通常であれば簡単に弾かれてしまうはずの矢は、あり得ない角度で反射し、大穴のさらに向こう、夜空に向けて流星の如く駆け抜けていく。
「最初はね、ユミカの矢が魔王の心臓を貫いて、後は勇者のお姉ちゃんと協力して、トドメを刺せればと思っていたの」
(最初にブレドの背中に突き刺さった矢は、ユミカのものだったんだ)
実際、矢は命中した。
しかし、トドメを刺すはずの、ユーマが跳ね返した魔力光は、魔王の身体が幼いために出力が弱く、仕留めきれなかった。
あるいは、ブレドが持つ魔王の権能【繁殖】による驚異的な生命力で強引に耐えきったか。
「だから、今度こそ決めるよ。大丈夫。ムース先輩、ユーマ先輩がユミカを支えてくれたから」
「わたくしの【魔力追跡】は目で視たものを追跡しますの。ですから、ユミカちゃんの矢を、ちゃんと魔王の元まで届けてくれますわ」
「そうか、それで魔王を」
「いいえ。わたくしが追跡したのは、魔王に突き刺さったままのユミカちゃんの矢の方ですわ。これで、背後から気づかれることなく、今度こそ魔王の心臓をぶち抜きますわ」
「そういうこと。魔王め、たまにはぶち込まれる気持ちも味わってみなさいな」
すごい、としか言いようがなかった。
相手を発情させることしかできないヒミカよりも、よっぽど強い。
「ムースって、実はそんな力が」
「羨ましいと思います?」
「え?」
「確かに、【黒魔法士】として、冒険者の時はチヤホヤされましたの。けれど、この力はまだ見たことのないもの、魔力のないものに効果はありません。それに、追跡効果も短時間で、これ以外の攻撃魔法はからっきしで。そのうち、役立たずだ~ってパーティを追放されてしまったんですわ」
「……だから、ギルドに」
「ええ。受付嬢はわたくしの天職でしたわ。だって、こうしてヒミカちゃんに会えて、一緒に戦うことまでできたのですから」
「お姉ちゃん、私のローブを着て」
ユミカが身にまとっていたローブを脱いで、裸のヒミカにそっと着せる。
「はっ!? わたくしとしたことが、ヒミカちゃんのハダカを堪能していたばかりに、気が利かなくてっ」
「ムース先輩、それ、どういうことですか?」
じとーっと睨みつけるユミカ。
「ひ、ヒミカちゃん? メイド服もどうぞ! わたくしは下着姿でも構わないすしむしろヒミカちゃんになら見られても構いませんので」
「いらないです。お姉ちゃんの下着も持ってきたから」
「「何で持ってるの……?」」
ヒミカとムースの声がハモったところへ、ユーマがずいっと割り込んで、ヒミカを守るように大盾を構えた。
「ささ、ヒミカさん。僕が見張ってますので、今のうちにお着替えを。こうすれば、誰にも見られませんから」
「ユーマの首が一番チラチラ高速で動いてるじゃない!」
「ちょっと、あんた達! こんなのんびりしてていいわけ? 妹ちゃんの矢は? 魔王はどうなったの?」
すっかり同窓会ムードの皆を、リルムが諫めた時。
部屋の天井から見える夜空に、巨大な閃光が立ち昇った。
「眩しい……っ」
断末魔のような轟音。
さらに、それらをかき消すほど眩しい光。
ヒミカはふと、自分が勇者に選ばれた日の夜を思い出す。
眩しくも美しい、全ての始まりを告げる灯りだった。
「うまく、いったかな……」
ユミカが不安気に漏らした。
「心配しなくてもいいぞい」
腰がまだ痛むのか、四つん這いの姿勢のまま王様が告げた。
「お見事。勇者とその一行は魔王を打ち倒し、世界には平和が訪れたのじゃ。その証拠に、ほれ」
ユーマの方へあごをしゃくると、皆が一斉に振り向いた。
「勇者の証が……! 【鏡月】も」
仄かな光に包まれて、何事もなかったかのようにユーマの手首はただの刺し傷に戻っていた。
「魔王が撃たれたら、勇者の力も不要。神様が取り上げなさったんじゃろう」
「なんだか、勇者って便利屋みたいな扱いですね」
「ほっほっほ。英雄の扱いなんていつの時代もそんなものよ」
その後しばらく、光の残滓が流星となって大陸中に降り注ぐのを見つめていた。
「さてさて! 魔王を倒したんなら、ウチらの役目はもう終わり! ここから先は、姉妹水入らずってことで、退散しましょ。せっかく魔王城を乗っ取んだもの。他にもすいーとるーむがあるか、探しにいきましょ」
リルムがわざとらしく立ち上がり、王様とムースを部屋の外へ引っ張っていく。
「では、ヒミカさん、後ほど」
「ユーマ、実は私以外にも囚われた人が」
「はい、ではまずはその人たちの助けに向かいます」
颯爽と助けにきてくれて、何もかもヒミカの尻ぬぐいをしてくれたユーマも、何事もなかったかのように後を追う。
部屋には、ヒミカとユミかだけが残された。
「お姉ちゃん」
「この部屋、臭いったらありゃしないでしょ。早くムースたちについていったら?」
ユミカはふるふるとわずかに首を振って、姉の言うことなんてちっとも聞いてくれはしない。
「髪、伸びたね。可愛らしいリボンまでつけちゃって。おしゃれに目覚めたんだ?」
「えへへ、似合ってるかな? ムース先輩がくれたの」
「似合ってる似合ってる。まったく、成人してもないのに、冒険者の真似事をするなんて」
「お姉ちゃんが預けてくれた、ユーマ先輩のお姉さんの寮からこっそり抜け出しちゃった。そしたら、王様に見つかっちゃったの。でも、王様は散歩じゃ~とか言って、ずっと後ろでユミカを見守っててくれたの」
「ほんと? 乱暴されたりしていない?」
「大丈夫。けど、ユミカに何かあったらお姉ちゃんに殺される! って言ってた」
「そう……」
ユミカがどうして魔王城まで来ることができたのか、理解した。
改めて妹の無事と成長に安堵する一方で、話題を逸らすための話題が尽きてしまった。
ヒミカだけが感じる気まずい沈黙が、床に飛び散った粘液のようにこびりつく。
「お姉ちゃん」
また一歩、ユミカが近づく度に、ヒミカはますます視線を落としていく。
抱きしめ合えるような距離まで近づいてもなお黙っていると、ユミカが満面の笑みを浮かべていった。
「お姉ちゃん、おめでとう!」
「……、……」
妹の言葉に眉を顰める。
魔王を倒したことについて、だろう。
けれど、賛辞を送るべきは、ヒミカではなくユーマのはず。
ヒミカは魔王に抱かれたばかりか、魔王の子まで産み落とし、世界を破滅させる存在になりかけていたのだ。
ユーマやユミカのおかげで万事解決したからといって、ヒミカが許されるわけではないし、ましてや祝福の言葉など、呪いでしかない。
(ああ、そうか。ユミカは責めてるんだ。あはは、ありがたいわね。勇者として責任を果たせなかった私を、ユミカが罰してくれるなら……)
「だって、お姉ちゃん、ユーマ先輩と結婚するんでしょ?」
「……は?」
「王様が言ってたよ? 魔王を倒した褒美として、ユーマ先輩を時期国王に、お姉ちゃんを王妃様にするって」
「は? はああああああああああっ!?」
自ら放った魔力光を正面から浴びて、魔王ブレドは叫ぶ。
勇者の力を纏って反射した力の奔流が、赤子の身体を容易く呑み込んでしまう。
「やったか!?」
「……やれやれ」
火事で焼け焦げた死体の肢体が、ゆらりと起き上がる。
「まったく、脆弱な赤子の身体に救われたよ」
身体のあちこちが焼け爛れているにも関わらず、ブレドは不敵に笑う。
「確かに、魔王にしては興ざめなくらい、威力が弱かったわね」
挑発するリルムには目もくれない。
ブレドは腕を振りかぶると、構造上比較的脆い天井部分に、魔力光で大穴を開けた。
城全体が振動し、瓦礫が降り注ぐ。
まるで、それこそがリルムに対する返答かのように。
たんっ──。
軽く跳ねるように、魔王は空中へふわりと浮かぶ。
「まさか……。卑怯者、ヒミカを抱いておいて、逃げるのか!?」
(ヒミカって……、いつの間に呼び捨て!?)
「はははは! なんとでも言え。仕留めきれなかった君たちの負けさ。ほら、こうしている間にもみるみると身体が…………なに? 戻らない、だと!?」
「もう忘れたのか? 対魔王決戦武具で跳ね返した攻撃は、お前にとって致命的なはずだ」
「ふふ、はは……は。ふざけるなあああァッ!」
いつまで経っても火傷の痕が修復されない自身の身体を掻きむしるかのように、がむしゃらに壁にぶつかりながらも天上の穴を潜って逃げ出した。
「しまった! リルムさん、もう一度空を飛べますか?」
「だめ。魔力がほんっとうに空っぽなの。アウザー、なんとかしなさいよ」
「イタタタ。腰が完全にイってしまった。女子をイかせることが得意なワシなのに」
「このジジイ! いい年して寒いぎゃぐでどや顔するんじゃないわ」
「うるさいババア! お前さんこそそのロリロリ体型はなんじゃ。恥ずかしくないんか? うぷぷぷ」
「むきーっ! このクソジジイ、先に息の根を止めて天国に逝かせてやるわ」
「ほぇっほぇっほぇ。ならワシはその幼児体型をイかせてやるとするかのう」
「ちょっとお二人とも! ケンカしている場合じゃないでしょ!」
「大丈夫だよ。こういう時の為に、わたくし達がいるんですわ」
「え?」
ヒミカは目を疑った。
今まで、機を伺っていたのか、部屋に入らず隠れていた二人。
「ムース……それと、ユミカ!?」
あまりの驚きに、呼吸が止まる。
嬉しかったのではない。
「どうして、来ちゃったのよ……! こんな、こんな醜くなった私なんかのために!」
普段の麻の服ではなく、きちんと装備を整えたユミカは、ちらりとだけヒミカを見た。
まだ冒険者にもなっていないのに、大人びた、慈愛に満ちた眼差しだった。
「ムース先輩、時間がありません。お願いします」
「オッケー」
ブレドが開けた大穴は、闇夜に包まれていた。
どうやら、愛の巣などと宣っていたこの部屋は、城の端にある尖塔に位置していたようだった。
穴の真下に、ユミカは立ち、弓を構えた。
質素な弓は、【学び舎】の講義で使っていた訓練用のものだ。
(まさか、そんな弓で魔王を討とうと言うの)
「──【魔力追跡】。ユミカちゃん、思いっきりやっちゃって!」
ムースが魔法を発動し、ユミカが番える矢に魔力を灯す。
震える手をムースに支えられながら、ユミカは今までみたこともない真剣な表情で叫んだ。
「──【破魔の矢】!」
放たれた矢は、大穴ではなくユーマの【鏡月】に吸い込まれた。
通常であれば簡単に弾かれてしまうはずの矢は、あり得ない角度で反射し、大穴のさらに向こう、夜空に向けて流星の如く駆け抜けていく。
「最初はね、ユミカの矢が魔王の心臓を貫いて、後は勇者のお姉ちゃんと協力して、トドメを刺せればと思っていたの」
(最初にブレドの背中に突き刺さった矢は、ユミカのものだったんだ)
実際、矢は命中した。
しかし、トドメを刺すはずの、ユーマが跳ね返した魔力光は、魔王の身体が幼いために出力が弱く、仕留めきれなかった。
あるいは、ブレドが持つ魔王の権能【繁殖】による驚異的な生命力で強引に耐えきったか。
「だから、今度こそ決めるよ。大丈夫。ムース先輩、ユーマ先輩がユミカを支えてくれたから」
「わたくしの【魔力追跡】は目で視たものを追跡しますの。ですから、ユミカちゃんの矢を、ちゃんと魔王の元まで届けてくれますわ」
「そうか、それで魔王を」
「いいえ。わたくしが追跡したのは、魔王に突き刺さったままのユミカちゃんの矢の方ですわ。これで、背後から気づかれることなく、今度こそ魔王の心臓をぶち抜きますわ」
「そういうこと。魔王め、たまにはぶち込まれる気持ちも味わってみなさいな」
すごい、としか言いようがなかった。
相手を発情させることしかできないヒミカよりも、よっぽど強い。
「ムースって、実はそんな力が」
「羨ましいと思います?」
「え?」
「確かに、【黒魔法士】として、冒険者の時はチヤホヤされましたの。けれど、この力はまだ見たことのないもの、魔力のないものに効果はありません。それに、追跡効果も短時間で、これ以外の攻撃魔法はからっきしで。そのうち、役立たずだ~ってパーティを追放されてしまったんですわ」
「……だから、ギルドに」
「ええ。受付嬢はわたくしの天職でしたわ。だって、こうしてヒミカちゃんに会えて、一緒に戦うことまでできたのですから」
「お姉ちゃん、私のローブを着て」
ユミカが身にまとっていたローブを脱いで、裸のヒミカにそっと着せる。
「はっ!? わたくしとしたことが、ヒミカちゃんのハダカを堪能していたばかりに、気が利かなくてっ」
「ムース先輩、それ、どういうことですか?」
じとーっと睨みつけるユミカ。
「ひ、ヒミカちゃん? メイド服もどうぞ! わたくしは下着姿でも構わないすしむしろヒミカちゃんになら見られても構いませんので」
「いらないです。お姉ちゃんの下着も持ってきたから」
「「何で持ってるの……?」」
ヒミカとムースの声がハモったところへ、ユーマがずいっと割り込んで、ヒミカを守るように大盾を構えた。
「ささ、ヒミカさん。僕が見張ってますので、今のうちにお着替えを。こうすれば、誰にも見られませんから」
「ユーマの首が一番チラチラ高速で動いてるじゃない!」
「ちょっと、あんた達! こんなのんびりしてていいわけ? 妹ちゃんの矢は? 魔王はどうなったの?」
すっかり同窓会ムードの皆を、リルムが諫めた時。
部屋の天井から見える夜空に、巨大な閃光が立ち昇った。
「眩しい……っ」
断末魔のような轟音。
さらに、それらをかき消すほど眩しい光。
ヒミカはふと、自分が勇者に選ばれた日の夜を思い出す。
眩しくも美しい、全ての始まりを告げる灯りだった。
「うまく、いったかな……」
ユミカが不安気に漏らした。
「心配しなくてもいいぞい」
腰がまだ痛むのか、四つん這いの姿勢のまま王様が告げた。
「お見事。勇者とその一行は魔王を打ち倒し、世界には平和が訪れたのじゃ。その証拠に、ほれ」
ユーマの方へあごをしゃくると、皆が一斉に振り向いた。
「勇者の証が……! 【鏡月】も」
仄かな光に包まれて、何事もなかったかのようにユーマの手首はただの刺し傷に戻っていた。
「魔王が撃たれたら、勇者の力も不要。神様が取り上げなさったんじゃろう」
「なんだか、勇者って便利屋みたいな扱いですね」
「ほっほっほ。英雄の扱いなんていつの時代もそんなものよ」
その後しばらく、光の残滓が流星となって大陸中に降り注ぐのを見つめていた。
「さてさて! 魔王を倒したんなら、ウチらの役目はもう終わり! ここから先は、姉妹水入らずってことで、退散しましょ。せっかく魔王城を乗っ取んだもの。他にもすいーとるーむがあるか、探しにいきましょ」
リルムがわざとらしく立ち上がり、王様とムースを部屋の外へ引っ張っていく。
「では、ヒミカさん、後ほど」
「ユーマ、実は私以外にも囚われた人が」
「はい、ではまずはその人たちの助けに向かいます」
颯爽と助けにきてくれて、何もかもヒミカの尻ぬぐいをしてくれたユーマも、何事もなかったかのように後を追う。
部屋には、ヒミカとユミかだけが残された。
「お姉ちゃん」
「この部屋、臭いったらありゃしないでしょ。早くムースたちについていったら?」
ユミカはふるふるとわずかに首を振って、姉の言うことなんてちっとも聞いてくれはしない。
「髪、伸びたね。可愛らしいリボンまでつけちゃって。おしゃれに目覚めたんだ?」
「えへへ、似合ってるかな? ムース先輩がくれたの」
「似合ってる似合ってる。まったく、成人してもないのに、冒険者の真似事をするなんて」
「お姉ちゃんが預けてくれた、ユーマ先輩のお姉さんの寮からこっそり抜け出しちゃった。そしたら、王様に見つかっちゃったの。でも、王様は散歩じゃ~とか言って、ずっと後ろでユミカを見守っててくれたの」
「ほんと? 乱暴されたりしていない?」
「大丈夫。けど、ユミカに何かあったらお姉ちゃんに殺される! って言ってた」
「そう……」
ユミカがどうして魔王城まで来ることができたのか、理解した。
改めて妹の無事と成長に安堵する一方で、話題を逸らすための話題が尽きてしまった。
ヒミカだけが感じる気まずい沈黙が、床に飛び散った粘液のようにこびりつく。
「お姉ちゃん」
また一歩、ユミカが近づく度に、ヒミカはますます視線を落としていく。
抱きしめ合えるような距離まで近づいてもなお黙っていると、ユミカが満面の笑みを浮かべていった。
「お姉ちゃん、おめでとう!」
「……、……」
妹の言葉に眉を顰める。
魔王を倒したことについて、だろう。
けれど、賛辞を送るべきは、ヒミカではなくユーマのはず。
ヒミカは魔王に抱かれたばかりか、魔王の子まで産み落とし、世界を破滅させる存在になりかけていたのだ。
ユーマやユミカのおかげで万事解決したからといって、ヒミカが許されるわけではないし、ましてや祝福の言葉など、呪いでしかない。
(ああ、そうか。ユミカは責めてるんだ。あはは、ありがたいわね。勇者として責任を果たせなかった私を、ユミカが罰してくれるなら……)
「だって、お姉ちゃん、ユーマ先輩と結婚するんでしょ?」
「……は?」
「王様が言ってたよ? 魔王を倒した褒美として、ユーマ先輩を時期国王に、お姉ちゃんを王妃様にするって」
「は? はああああああああああっ!?」
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