悪役令嬢の兄のやり直し〜侯爵家のゴーストと呼ばれた兄ですが、せめて妹だけは幸せにしたいと思います〜

ゆう

文字の大きさ
9 / 49
やり直し

3

しおりを挟む
「坊っちゃん、起きましたか?」

気がついた時には外が明るくなっていた。結局あの後朝まで眠ってしまったらしい。

「アリサ、おはよう。」
「ええ、おはようございます。」
「そうだ!アリスティアに会いにいかないと!」
「まあまあ、坊っちゃん。朝食を食べてからでもお嬢様は逃げませんよ。」

そう言って笑ったアリサに恥ずかしくなりつつ、僕は食事を食べさせてもらいアリスティアの部屋へと向かった。

そこには数人の使用人とアリスティアのみがいた。両親がいないことにホッとして揺り籠まで近づく。

「アリスティア、おはよう。お兄ちゃんだよ。」

僕がやってくるとキャッキャと喜ぶ彼女は天使のように可愛らしい。まだ言葉は分からないだろうが、こうして毎日話しかけるつもりだ。

絶対にアリスティアに寂しい思いはさせないし、14年後に首を刎ねられるような事態にもさせない。僕は立派なお兄ちゃんになってやるんだ。当然、魔法以外で。

僕はアリスティアの部屋へ行っては兄弟とか姉妹が出てくる物語を読んだ。僕には家族の関わり方に関する知識が足りなすぎるから。

そうしてアリスティアの元へと足蹴く通う日々が続いた。そこで分かったことは、両親は魔法が使えるアリスティアにさえ、大して関心を示していなかったということだ。

過去では引きこもっていたので知らなかった。きっと自分のいないところでは完成された仲睦まじい家族がいるのだと決め込んでいた。

(これなら、アリスティアが愛に飢えるわけだ。)

「ごめんね、ティア。過去の僕は君が苦しんでいることに気づかなかった。」

揺り籠の中でおもちゃを手に取っているアリスティアを撫でながら小さく謝る。こんなこと、引きこもってさえいなければすぐに気づけたのに。

後悔が押し寄せるが、今回はそんなことには絶対にさせない。僕はそう決意を新たにアリスティアを見つめた。

あと、アリスティアは長いので、ティアと呼ぶことにした。読んだ本の中に、家族の間柄では愛称で呼び合うというものが多くあったからだ。幸い、ティア自身もそう呼ばれるとキャッキャと喜ぶので嫌ではなさそうだ。


そうして毎日ティアに会いにいくうちに僕は5歳になった。ティアは3歳だ。

「お兄さま、遊ぼ~!」

話せるようになったティアは僕に懐いてくれた。
お父様とお母様とは相変わらず希薄な関係のようで、時折寂しそうにしているが、その分僕が構い倒している。今のところ、過去で聞いたようなわがままで嫉妬深い様子は見ていないので、純粋に育ってくれているのではないかと思う。

「ティア、少しだけ待ってね。もう終わるから。」

僕は昨年あたりから初等教育にあたる教育を受けていた。あとはマナーに関する教育だ。魔法はダメダメだが、ティアにとって少しでも胸を張れるお兄ちゃんになるために頑張るのだ。

そうして勉強が終わった後はティアと一緒に遊ぶ。そんな和やかな日々。

「将来はお兄さまと結婚する~」

そんな嬉しいことを言ってくれるティアに「じゃあティアが大人になるまで結婚しないで待ってないとな。」と言えば、彼女は嬉しそうに顔を赤らめた。

最初は彼女と仲良くなれるか不安だったが、気づけば仲睦まじい兄妹になっていた。

部屋から出ることさえ不安だった僕だが、よくよく観察すれば両親はほとんどをこの領ではなく王都で過ごしていた。そのため、部屋から出ても何の心配もないことに気づいてからは、屋敷内であれば自由に出入りできるまでになった。

ただ、ティアはたまに両親に連れられてお茶会などに出ているのに対し、僕はそう言った場には連れて行かれなかった。
そのため、結局僕はウッドセン家のゴーストと呼ばれるようになっていた。

まあ僕のことはどうでもいい。引きこもらないのであれば、いずれ僕が魔法の使えない出来損ないだということは周知の事実になる。落ちる評判もないのだから今から気に病む必要もないだろう。

「お兄さまはどうしてお外に出れないの?」

何度目かのお茶会で、お母様がティアを迎えに来た。どうやら、僕だけが毎回家に残されることを疑問に思い出したらしい。

「あの子は出来損ないだから人前には出せないのよ。その分あなたがしっかり社交を務めてちょうだい。」

お母様は僕がいるのも気にせずティアにそう言った。

ティアは気遣わしげに僕を振り返ったが、慣れっ子だった僕は曖昧に笑いながら手を振った。そうして彼女はお母様に引っ張られるように連れて行かれた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

谷 優
恋愛
公爵家の末娘として生まれた幼いティアナ。 お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。 ◆恋愛要素は前半はありませんが、後半になるにつれて発展していきますのでご了承ください。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

乙女ゲームの悪役令嬢に転生したけど何もしなかったらヒロインがイジメを自演し始めたのでお望み通りにしてあげました。魔法で(°∀°)

ラララキヲ
ファンタジー
 乙女ゲームのラスボスになって死ぬ悪役令嬢に転生したけれど、中身が転生者な時点で既に乙女ゲームは破綻していると思うの。だからわたくしはわたくしのままに生きるわ。  ……それなのにヒロインさんがイジメを自演し始めた。ゲームのストーリーを展開したいと言う事はヒロインさんはわたくしが死ぬ事をお望みね?なら、わたくしも戦いますわ。  でも、わたくしも暇じゃないので魔法でね。 ヒロイン「私はホラー映画の主人公か?!」  『見えない何か』に襲われるヒロインは──── ※作中『イジメ』という表現が出てきますがこの作品はイジメを肯定するものではありません※ ※作中、『イジメ』は、していません。生死をかけた戦いです※ ◇テンプレ乙女ゲーム舞台転生。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...