公爵家に引き取られることになったけど、幼馴染と離れたくないので囲い込みます

ゆう

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孤児院

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今日は久々に何も無い日だ。朝食を食べた後、ノエルと中庭でのんびりする。

「ノエル、もうその服着るのやめたら?ボロボロじゃん。」
「そうか?でも最近衣類の寄付がないからもう予備がないんだよな。そういうカインこそ、それ結構ボロいぞ。」
「やっぱり?はぁ、一度でいいから新品の服を着てみたいよ。」
「だよな。まぁ、自分で働いて買うしかないさ。」

いつも通りそんな何気無い会話をしていると、少し離れたところで小さい子が泣き出した。

「あー、今日くらいはのんびり過ごしたかったな。」
「仕方ないって。とりあえず見に行こう。」

すると孤児院の中でも小さな女の子が木の前で泣いていた。なんでも帽子が飛ばされて枝に引っかかってしまったらしい。

「結構高くに行ったな。」
「これは諦めたほうがいいかもね。」

「うわあああん」

僕達2人の言葉に女の子は余計に泣き始めた。

「寄付で帽子があったらお前にやるから、な?」
「ぐすっ、あれが良いの。あれはお家から持ってきたものだから…思い出があるの。」

ノエルが宥めようとするが、彼女はどうしても諦められないらしい。どうやら、彼女は最近孤児院へ連れてこられた子供で、あの帽子はその時身に付けていたもののようだ。

泣き止む気配のない女の子に僕達は顔を見合わせた。

「仕方ない。取りに行ってみるか。」
「危ないよ。」
「大丈夫、危なくなったら諦めるさ。」
「なら僕が…」
「いや、結構細い木だし、小柄な俺の方が安心だろ。」

そう言ってノエルが木を登り始める。全く"元の家族"とかの話に弱いんだから。僕はそう思いつつ下で女の子を抱えながらノエルを見守った。彼は運動神経が良いので大丈夫だとは思うが…

そうして、ノエルはみるみる高い場所へと登っていき、やっと帽子に手が届いた。

「よしっ、おーい!取れたぞ。帽子を落とすからキャッチしてくれ。」
「わかった。」

ノエルが帽子をそっと落とし、僕がそれを掴む。それを女の子に渡してやれば、その子は心底嬉しそうに「ありがとう!」とお礼を言った。

「ノエルも早く降りてきなよ。」
「ああ、今降り…」 

彼がそう言いかけたところで、ポキッと枝が折れる音がした。

「うわっ!」
「ノエルっ!!!」
「きゃあっ!」

咄嗟に他の枝を掴もうとした彼だが、その手は空を掴んだ。支えを無くしたノエルが落ちてくる。その光景がやけにスローモーションに映った。

なんとかして彼を助けなければ。

地面に直撃したら死んでしまうかもしれない。でもあの高さから落ちてくる彼を支えることなどできるだろうか。

僕は頭をぐるぐると回転させながら、ノエルを下でキャッチしようと必死に手を伸ばす。

すると、自分の手からブワッと風が起こるのを感じた。同時にすぐそこまで落ちてきていたノエルが宙に浮く。

「な、なんだこれ?」

ぎゅっと目をつぶっていたノエルが恐る恐る目を開いて驚きの声を上げる。

僕自身も驚きながら、風に支えられるようにゆっくりと降りてきた彼を両手で受け取った。次第に腕に重みが加わり彼が腕の中にいるのだという実感が込み上げる。

「ノエル!良かった…」

そう言ってお姫様抱っこをするような体制でノエルを抱きしめた。

「わ、悪い。心配かけたな。それより今のは…」
「カインお兄ちゃん魔法使ったの?」
「分からないけど、今はそんなことどうだって良い!早く怪我がないか見てもらおう。」

僕はそう言ってノエルを抱えたまま走り出す。

「お、おいっ。お前が助けてくれたから怪我はしてないって!」
「落ちる時にどこかぶつけてるかもしれないだろ。良いからじっとしてろ。」
「いや、本当に大丈夫だから…降ろしてくれ。これ結構恥ずかしい…」

ノエルのことが心配でそんなことを考えていられなかった僕は、彼の言葉を無視してエルマー神官を探しに行った。

「おい、ノエルがお姫様抱っこされてるぞ!」
「本当だ、女みたい!」
「えー、私もカインにお姫様抱っこしてもらいたい。」

道中で他の子供達が僕達を見て揶揄う。その声にハッとして大人しくなったノエルを見下ろすと、彼は顔を真っ赤にして俯いていた。

いつもガキ大将っぽく振る舞っていた彼だ。こんな姿を見られるのは恥ずかしいのだろう。

今は緊急事態だというのに、その様子を可愛いと思ってしまう。

そうしてやっとのことでエルマー神官を見つけた僕は、ノエルが木から落ちたことを説明して怪我がないか見てもらった。
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