公爵家に引き取られることになったけど、幼馴染と離れたくないので囲い込みます

ゆう

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公爵家へ

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怒涛の1日が終わる頃には、俺は傷ついた体を引きずってスラムの一角に身を横たえた。今となっては頼れる人も、行くあてもない。

ふとカインの顔が浮かんだが、こんな姿で公爵邸を訪ねて行ったら迷惑をかけるだろう。もっとも、傷が痛んでそんな距離を歩くことはできそうにない。

お金も荷物も持たせてもらえなかったので、全くの無一文だ。いずれは孤児院を出る覚悟はあったとはいえ、ここまで酷い待遇は想定していなかった。

だが今はもはやどうすることもできず、溢れてくる涙をそのままに眠りについた。


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その頃、公爵邸では…

僕はエリックとの合同授業を受けていた。
明らかに機嫌の悪い彼を尻目に、真剣に授業に取り組んだ。

先生たちは僕が孤児だからと見下したりせず、むしろ出来が良いと褒めてくれる。ただ、エリックにとってはそれが気に入らないようだ。

彼はどうやらあまり成績が良くないようで、勉強も好きではなさそうだ。だが真剣に取り組む僕を見て焦ったのか、時々対抗するように突っかかってくるようになった。

僕はただノエルを迎えたくてやっているだけで、後継にも興味などないしそこは父と子で話し合ってほしいと思う。
今日も面倒に思いながらエリックの皮肉を交わし勉強に励む。

今頃ノエルはどうしているだろう?子供達のことで苦労ばかりしてないだろうか。時々でも…いや、できれば毎日僕のことを思い出していてほしい。

最後にしっかり記憶に植え付けてやったし、そうそう僕のことを忘れたりしないと思うが数ヶ月が経過し少し不安になってきた。

孤児院を訪ねたいが、早く評価を勝ち取りたい手前、なかなか公爵に我儘だと思われるようなことを言いだせずにいた。

今はとにかく勉強をして社交界デビューするのに恥ずかしくないレベルになるのが1番だ。
この時はそう信じていた。


そしてそんなある日、魔法の授業中に事件は起きた。

有り余る魔力と複数の属性をすぐに使いこなせるようになった僕は、先生から誉めそやされていた。

「全く、やっていられるか!カインカインと、公爵家の正当な後継は私だと言うのに…!」

エリックが癇癪を起こし授業から去ってしまったのだ。正直僕としてはどうでも良かったが、先生が「どうしましょう…」とあたふたして授業が進まなくなってしまったため、仕方がなくエリックを呼び戻しに行くことにした。

「兄上」

中庭で彼を見つけ声をかける。

「私はお前を家族として認めていない。2度とそう呼ぶな」

すると案の定不機嫌な声が返ってきた。

「それは申し訳ありません。ですが先生がお待ちです。授業に戻りましょう」

そう提案するもエリックに動き気配はない。

「ふん、いい気なものだな。生まれつき魔力に優れているからと偉そうに…爵位を継ぐのは自分だと思っているんだろう?」
「そのようなつもりはありません。私はただ公爵に求めらてここへきて言われたことをやっているだけです」

もちろん、ノエルとの未来のために。

事実を淡々と述べただけなのだが、それが余計に火に油を注いだらしい。

「ちっ、言われたことをやっているだけ?それでこんな成果を発揮できるなんて、何と恵まれたことか。お前には分からないだろうな。公爵家に生まれながら雀の涙ほどしか魔力がなく馬鹿にされてきた私の気持ちが…!」

ああ、なんと面倒くさい。ケインとは違う面倒臭さだ。ノエルだったらうまく収められるのかもしれないが僕は相手の気持ちを慮ると言うのが本当に苦手だ。

「……正直に申し上げて、わかりません」

もはや面倒くさくなってはっきりと言ってやる。すると思いもよらぬ答えだったせいか、エリックが「なっ」と驚いたような声を上げる。

「僕はあなたが言うように孤児でした。自分を守ってくれる人も、自分のものと言えるものもなく同じ境遇の子供達と身を寄せ合って生きてきたんです。あなたが受けたものとは違っても、周りから憐れまれることなど何度もありました。それでも僕たちは一生懸命生きてきました」

僕の言葉にエリックは黙り込んだ。

「僕の境遇が恵まれているとは思えませんが、唯一恵ませていると思えるのは僕には支えてくれる友がいたことです。そいつがあまりもまっすぐでお人好しで格好いいやつだったから、僕も自分の人生に拗ねるような格好悪い真似ができなかったんです」

そしてエリックの目を見つめる。

「あなたは十分恵まれている。周りの目など気にせずに、やりたいようにやれば良いのでは?蔑まれたくないなら努力を、無理だと思うなら無視をしたらいい」

そう言うと彼は忌々しげに僕を見た。

「…生意気なことを」

だがそう言いながら歩き出したのは教室の方角だった。

どうやら努力を選ぶらしい。捻くれてはいるが、根底からの悪人というわけでもなさそうだ。
僕はやれやれといった気持ちでその背中を追った。
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