公爵家に引き取られることになったけど、幼馴染と離れたくないので囲い込みます

ゆう

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迎えに

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その頃---

「あれからもう一年以上経つのか」

孤児院を出てから1年と数ヶ月が過ぎ、なんとはなしにつぶやいた。今も決して楽ではないが、孤児院を追い出されたあの明日も見えない日々を思い返せば充実している。

何より、ハンクとの共同生活はまるで父親と生活しているような、細やかな幸せを感じさせた。

「あれからとは?」
「俺が孤児院を出てから」

そう言うとハンクは「ああ」と渋そうな顔をしていった。あまり悲壮的にならないよう「出ていった」と言ったが、本当は追い出されたことはすでに彼に話している。

「ん?ということはお前さん誕生日が近いんじゃないか?」
「あー…まあ、今月だよ。もともと本当の誕生日はわからないから、孤児院では引き取られた月を誕生日ってことにして、同月の奴ら皆まとめて祝ってたな」
「おいおい、そう言うことはもっと早く言えよ」
「え?なんで?」

本当になぜかわからない、と言う顔をして首を傾げれば、ハンクは肩を落とした。

「はぁ、まあいい。孤児院ではどんなふうに祝ってたんだ?」
「うーん、歌を歌っていつもよりほんのすこーし豪華なご飯を食べて終わり」
「プレゼントもなしか?」
「まぁ、余裕のない孤児院だったからね」

そう言われてやっと誕生日とはプレゼントをもらうのが一般的なのかと思い当たる。昔伯爵に連れてこられたケネスがあれを貰ったこれを貰ったとやたらと自慢してたっけ。

そんなことを思い出していたら、一年前の出来事まで思い出されて気分が悪くなった。

「やれやれ、寂しい幼少期だなぁ」

そんなことを言いながらハンクが俺の頭をくしゃくしゃにする。今ではこの気やすさにも慣れた。むしろハンクに頭を撫でられるのが少し嬉しい自分がいる。もちろん恥ずかしいので本人にはそんなことは言えないが。

「孤児なんてそんなもんさ。ほらそろそろ仕事に行かないと」

俺はしょうがないことだと肩をすくめて見せた。もちろん周りがものすごく羨ましい時期はあった。それでもいつまでも手に入らないものを願っても仕方がない。そう考えているうちに、プレゼントはなくて当たり前になったし、それを不幸だとも思わなくなった。

そしてその日も一日、夜遅くまでよく働いた。


翌日---

「おい!ノエル。今日は遅番だったよな?」
「そうだよ。ハンクが朝弱いことを考慮してもらって遅番が多くなったんじゃないか」
「はっは、そうだっけか?」

すっとぼけたように笑った後ハンクは再び口を開いた。

「ま、丁度いい。ほれどうせ予定なんかないんだろ?一緒に街へ行くぞ」

そう言って俺の服を投げてよこした。確かに俺は特に必要なものでもない限り滅多にこの長屋を出ないので、今日も仕事の時間まで引きこもっているつもりだった。

「何しに?」
「遊びにだよ」

ハンクはそう言って有無を言わせず俺を引っ張り出した。

炭鉱の麓にはそこそこの大きさの街があり、日々賑わっている。

「ちょっと喉が渇いたな。喫茶店にでも寄るか」

ハンクはまるで独り言のようにそう言うと、俺を引っ張って喫茶店に入った。

「ほら、お前も飲んでみろ」

そう言って出された黒い飲み物を訝しげに覗き込む。

「これは?」
「コーヒーだ。もう大人だって言うんなら飲めるだろ」

そうニヤニヤしていつも子供扱いしてくるハンクに少し腹が立ち、そのコーヒーに口をつける。

「うっ、苦い…」
「はっはっ、やっぱお子ちゃまだな。お前はジュースにしとくか?」
「いい、飲めなくはない…」

俺はムキになってコーヒーを飲み干した。

「もっと味わって飲めよな。こりゃ一緒に酒を飲めるようになるのは当分先かもな」

ハンクにそう言われて、彼と一緒に酒を飲んでいる自分を想像する。それはなかなか悪くない未来だった。

その後も色んな露天や商店、広場の出し物などに連れまわされ、慌ただしくも楽しい時間を過ごした。広場で語り部が物語を話しているのに聞き入っていると、ハンクがどこかにいなくなってしまった。

「ハンク?」

俺は不安になってしばらく辺りをキョロキョロと見回していたが、不意に後ろから背中を叩かれた。

「悪い悪い、今戻った」

そう言ったハンクは何やら箱を二つ抱えていた。

「もう、どこに行ってたんだよ」
「悪かったって。話に夢中になってたから、邪魔しちゃ悪いと思ってな。ちょいと自分の用事を済ませてきた」

そしてちょうど語り部の話が思った。

「仕事もあるしそろそろ戻るか?」
「うん、そうした方が良さそうだ」

そして俺たちは長屋へと戻った。

部屋につき一息つくと、ハンクが少し緊張したような顔で箱を一つ差し出した。

「あーなんだ。大したものじゃないが誕生日プレゼントだ。おめでとさん」
「え!まさかこれを買うために街に?」
「ま、それとお前の気分転換も兼ねてな。どうだ?少しは楽しかったか?」

ハンクは少し照れたような笑顔でそう聞いてきた。俺は胸が熱くなって少し答えに詰まったが、「ま、まぁ初めてのことばっかで楽しかった…」と最後は尻すぼみになりつつ答えた。

「これ、開けてもいい?」

そう尋ねると「もちろん」と優しい声が返ってきた。

俺ははやる気持ちを抑えて箱を開けると、そこには木彫りのオルゴールが入っていた。ネジを回すと有名な子守唄が流れる。

「ろくな幼少期を過ごせなかったお前に、せめて他の奴らが持ってるような思い出をやりたくてな」

どうだ気に入ったか?と不安そうに俺を見てくるハンクに、俺は言葉に詰まって、次には思いっきり抱きついた。

「ありがとうハンク!こんなの貰ったのは初めてだ!絶対に大事にする」

そういう時ハンクも俺の背に手を回し、「そりゃよかった。眠れない時の子守唄代わりにするといい」と言って笑った。

「ほら、それともう一つ。早くしないと時間がなくなっちまう」

そう言って今度はもう一つの箱を開けたかと思うと、そこからは小さめのホールケーキが出てきた。

「いつ間にこんな…」
「ホールはデカ過ぎかと思ったけどな、どうせ今までケーキなんか食ってないんだろ?その分まとめて今年食おうぜ」

ハンクはニカっと笑ってケーキに蝋燭を立てた。

「ほら、これでよし。願い事をしながら一気に吹き消すんだ」

ケーキの大きさに対して蝋燭の多さに笑ってしまいそうだ。だけどこんな風に誕生日を祝われたのは初めてで、泣きそうなくらい嬉しかった。

僕はこんな幸せな日がずっと続きますようにと願って一気に蝋燭を吹き消した。



その願いは、残念ながら叶わなかったが…
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