悪役令息はNTRてしまいました。

リラックス@ピロー

文字の大きさ
4 / 9

4

しおりを挟む

エルマンの言葉にまず抱いた感想は、ふざけている、その一言だった。
しかし先程まで薄笑いを浮かべていたこの男が、信じられないほど真剣な表情をしている事でその一言を封じられた。

「な、んで、そんな事を言うんだ」
「本心だからな」
「ッそれならもっとやり方があるだろう!」
「お前のやり方に準じた。不満だったか?」

汚い手段で邪魔を排除し、必要とあらば手段は選ばない。そうやって何人も蹴落としてきた。そう言われようと俺はクラレンスに対し害する行動は取らなかった。
それをこの男はどうだ。俺の事を好きだと口では宣いながら、俺の意思を無視しおそらく番になろうとしている。

「不満に決まってる・・・それに、お前が俺の事を好きになるなんてありえない」
「なるほど、ありえないときたか」
「お前と俺の間に一体どんな関わりがあると言うんだ」

実際まともに話す機会なんてこれまで殆ど無かった。利用する為だと言われた方が何倍も納得出来た。この状況で好きだと言われても、口から出まかせを言っているようにしか感じないのは当然だろう。

じりじりと距離を詰められ、お互いの吐息が肌に感じるほど近くなる。深い夜の様な、暗く青みがかった瞳に見つめられ、ぐっと息を呑む。
真正面から、それも至近距離でこの男の目を見るのは初めてだった。けれどふと既視感を抱き思わず瞬きも忘れてエルマンの目に見入った。粗雑な印象を受ける外見とは裏腹に、深い色の目が理知的な光を帯びているのだと初めて知った。どこか懐かしむ様な、それでいて惜しむような目をどうしてこちらへ向けるのか。

けれどほんの瞬きの間に、再び瞼の下から露わになったその目は既に獣の様な鋭いものへと変わっていた。
そしてカチリ、と首元から音が鳴った事で、その瞬間自分がどれだけ愚かだったのか察する。

質の良い絨毯の上に切れたチェーンと鍵が音もなく落とされる。
さらりと首元を空気が撫でた事で、自らを守る唯一の砦が呆気なく崩されたのだと悟る。上質な革製の首輪はかつてクラレンスから送られた物だった。婚約が決まったばかりのまだ十にも満たない齢の頃。実際に選んだのはクラレンスでは無かったのかもしれないが、それでも彼の目に似た色の首輪を、俺は好ましく思っていた。

「関わりがないから、これから深めるんだ」
「勝手な事を・・・」

するりとエルマンの指先がうなじに触れる。ぞくりと背筋を走る悪寒に開きかけた口を思わず閉じた。僅かにかさつく指先は節くれ立ってはいてもただの人間のそれだ。鋭い爪が首を掻き切るイメージが拭えないのは、触れている相手がひとえにこの男だからに他ならない。

「このままお前が俺の首に噛みつくなら、どんな手を使ってでも殺してやる」
「そして番を失ったお前は、俺の事を考えながら狂っていくのか」

エルマンの口元に笑みが浮かぶ。

「・・・考えるだけで最高だ」

再び深く唇を重ねられ急速に意識を持っていかれる。呼吸さえ奪う強引な口付けの中、先程見せたこの男の笑顔が、まるで獣の威嚇にも似ていたと冷静な思考の端に浮かんでは消えた。






「っは、あ」

先程よりも濃厚に舌を絡められる中、自然な流れで靴とスラックスを脱がされる。質の良い革で仕立てられた靴が地面に落とされ重みでゴトリと音を立てた。土足で踏みつけられ足跡の残ったシートも、同じ様に床へ落とされる。
足首に僅かに引っかかる布の感触が煩わしく、無意識に足裏でベッドを小さく蹴る。それに気が付いたエルマンが小さく笑うと、膝裏に腕をかけられ持ち上げられる。重力に促されするりとスラックスが足首を解放した。

「っ、ふ、」

しつこい舌に思考を奪われながら、何故この男はすぐに首を噛まないのだろうかと考える。番にさえなってしまえば、目的は達成するはずだ。
殺してやると口にしようと、番契約を交わしたアルファとオメガがそのどちらかを失えば最終的に精神を狂わせ死に向かう事は有名だ。
そのリスクの高さから政略での番契約が廃止されてから久しく、恋愛結婚した者でさえ契約を交わす事が最近では稀だ。
だからこそそのリスクを承知の上で、俺の行動を縛り利用する為に番になる事を望んでいるのだと思った。

俺の事を好きなわけが無いと頭で否定しながらも、今触れられている手があまりに優しく信じそうになる自分がいた。
するりと素肌の背中を撫でらそくりと肌が粟立つ。背骨の凹凸を指先でくすぐられると、堪え切れなかった吐息が思わずこぼれる。
感触を楽しむかの様な指先がそのまま臀部まで下ろされる。クラレンスにさえ暴かれた事のない秘所へ男の指先が触れる。

「ッ、は、っ」
「ここに自分で触れた事は?」

執拗なまでに絡められていた舌をようやく解放され、大きく息を吸う。呼吸を整える前に無遠慮な問い掛けを投げられ返事の代わりにエルマンの顔を睨みつける。こちらは既に満身創痍だと言うのに、エルマンは目元を軽く染める程度で衣服に至っては殆ど乱れもない。余裕を崩さない態度がひどく癪に触った。

「誰が素直に言うかよ・・・っ」

疲労でもつれそうになる舌を何とか動かす。俺の返答も予想の範囲だったのか、気分を害した様子もなくエルマンはベッドサイドのテーブルから小瓶を取り出した。
それが何か分からないほど無知では無い。
王配としてクラレンスを十分満足させられるよう夜伽の授業も受けたし、初夜を決して失敗しないよう練習した事もある。
だからこそエルマンが香油の瓶を取り出した事で、このまま最後まで至るつもりなのだと分かった。
軽い音をたて小瓶の蓋が開けられる。少量でありながらふわりと部屋を満たしたのは、すっきりとしたハーブと僅かに甘い花の香りだった。勝手なイメージだがこの男の好みなら、もっと尖った香りを選ぶものだと思っていた。
その考えが表情に出ていたのか、ふっと小さく笑われる。

「言っただろう、花を愛でるのが好きだと。初めてこの香りを嗅いだ時お前に似合うと思った」
「・・・まじめな顔をして何を」

エルマンの頭の中でどれほど美化されているのかと鼻で笑おうとするが、ふと覚えのある香りにぴたりと動きを止める。
記憶の端を掠めるのは白く可憐な花弁を持つ有毒植物だ。その花は根に毒を孕み、知らず素手で触れれば皮膚は瞬く間に爛れる。かつて無知な料理人がそうと知らず料理の飾り花として使い、何人もの死人を出した事件があった。
ただ香りが良い為手間をかけて無毒化すれば香油の香り付けにも利用できると聞いた事がある。

「ははっ、やっぱりお前、俺を好きだと言うのは嘘だろう」

とんでもない毒花を好んだ相手に似合うと言う男がどこにいる。ましてこの男がどんな花か知らずに選んだとも思えない。

けれど下手な世辞や耳触りの良い言葉を向けられるより、余程気分が良かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

過労死転生した悪役令息Ωは、冷徹な隣国皇帝陛下の運命の番でした~婚約破棄と断罪からのざまぁ、そして始まる激甘な溺愛生活~

水凪しおん
BL
過労死した平凡な会社員が目を覚ますと、そこは愛読していたBL小説の世界。よりにもよって、義理の家族に虐げられ、最後は婚約者に断罪される「悪役令息」リオンに転生してしまった! 「出来損ないのΩ」と罵られ、食事もろくに与えられない絶望的な日々。破滅フラグしかない運命に抗うため、前世の知識を頼りに生き延びる決意をするリオン。 そんな彼の前に現れたのは、隣国から訪れた「冷徹皇帝」カイゼル。誰もが恐れる圧倒的カリスマを持つ彼に、なぜかリオンは助けられてしまう。カイゼルに触れられた瞬間、走る甘い痺れ。それは、αとΩを引き合わせる「運命の番」の兆しだった。 「お前がいいんだ、リオン」――まっすぐな求婚、惜しみない溺愛。 孤独だった悪役令息が、運命の番である皇帝に見出され、破滅の運命を覆していく。巧妙な罠、仕組まれた断罪劇、そして華麗なるざまぁ。絶望の淵から始まる、極上の逆転シンデレラストーリー!

運命じゃない人

万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。 理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

悪役令息(Ω)に転生した俺、破滅回避のためΩ隠してαを装ってたら、冷徹α第一王子に婚約者にされて溺愛されてます!?

水凪しおん
BL
前世の記憶を持つ俺、リオネルは、BL小説の悪役令息に転生していた。 断罪される運命を回避するため、本来希少なΩである性を隠し、出来損ないのαとして目立たず生きてきた。 しかし、突然、原作のヒーローである冷徹な第一王子アシュレイの婚約者にされてしまう。 これは破滅フラグに違いないと絶望する俺だが、アシュレイの態度は原作とどこか違っていて……?

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新! Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

処理中です...